3.キジトラの青年プレアデス、


◯キャラクター(推奨5人、最大6人)

※多、少はセリフの量です。2役以上で割り振る場合、目安にしてください。



ナレーション(N)……ゴマの声。多


ゴマ……♂、ちょっとガラガラ声。多


ルナ……♂、高い声の男の子。泣きシーンあり。少


警官猫……♂、声は低め。苛々している感じ。少(1回のみ)


シリウス……♂、声は低すぎず。お兄さんっぽい感じ、あとは自由でOK。多


プレアデス……♂、声高めのお兄ちゃん。爽やかにいい人っぽく。多



◯ポイント

難しい点は無いので、自由に楽しんで下さい。



——————————————————



警官猫「とりあえず、君たちのお母さんの迎えをここで待ってなさい。子供だけで出歩くのは危ないから、帰ったら家で大人しく遊んでなさい。ふう……俺は奥で休む」


ゴマ「だから! ムーンさんはボクらの居場所を知らねえから……」



N「黒服の奴は、ボクの言葉を全く聞いちゃいない。そのまま奥の部屋へ行き、ピシャリと扉を閉めてしまった」



ルナ「ああ、どうしよう兄ちゃん……」


ゴマ「ったく、知るかよ」



N「他のネコどももみんな眉間に皺を寄せながらせかせかと動き回っていて、ボクらはもう話しかける気力も無くなっていた。と、今度は後ろからまた別のネコが、ボクらに声をかけてきやがった」



シリウス「腹減ったろ。食いな」



N「そいつはそう言ってボクらの前に立つと、小魚のスナックが入った袋を手渡してくれたんだ。思わずボクらは、それにがっついてしまった」



ゴマ「んん……、んめえ! なーんにも食ってなかったからな。ほら、ルナも食え!」


ルナ「ほんとだ! おいしーい!」



N「地底世界にも魚は泳いでんだなと、ボクは妙に感心した。が、そんな事は今はどうでも良かった」



シリウス「フフ、最上級品だ。美味いだろう。……それはそうと、お前たち、地上からやって来たというのは本当か?」



N「話しかけてきたのは、チビでボクらと同じ黒ブチ模様の、これまた黒服を着たネコだった。さっきみたいな嫌な感じの奴じゃなさそうだったので、ボクは素直に答える事にした」



ゴマ「ああ、信じてくれねえだろうが、本当だ。逆に、ここが地下だって事がボクは信じられねえ」


シリウス「……こっちに来るんだ」



N「チビの黒服はボクらを部屋から連れ出し、天井のあかりが所々消えかかった廊下の方へと足を進めて行った。慣れない二足歩行で、ボクらはついて行く。歩くたびにホコリが立ち上る廊下の突き当たりにある扉を、チビの黒服が開けると、そこはこじんまりとした畳の部屋だった。部屋の真ん中に、四角形の机が1つだけポツンとある」



シリウス「これも、最上級のミルクだ」



N「チビの黒服は、たっぷりとミルクの入った銀の皿を2つ、机の上に出してくれた」



ゴマ「おいチビ。何で、こんなにもてなしてくれるんだ?」


シリウス「君たちの事が知りたい。君たちが地上のネコだというのが本当なら……。我々ニャンバリアンは、絶滅の危機から救われるかも知れないのだ」



N「一体何の事を言っているのか、ボクにはさっぱり分からなかった」



ゴマ「よくわかんねえが、ボクらの何が知りたいってんだ?」


シリウス「……話せば長くなるだろう。まずは連絡先を教えてくれ。私はシリウスだ」



N「シリウスという名のチビネコは、いつの間にか長四角で角が丸くなっていて、踏み潰せば簡単に折れちまうぐらいの厚さの板のような物を、手に持っていた。」



ゴマ「連絡先って何だ? 何をどうすればいいんだ」


シリウス「ん? 〝ニャイフォン〟を、持ってないのか?」


ゴマ「なんだそれ?」


シリウス「こういうやつだ」



ゴマ「シリウスはその板の片面を、ボクに見せた。そこは画面になっていて、絵や文字が現れたり消えたりしている」



ゴマ「……そんな物持ってるわけねえだろ」


シリウス「わかった。ちょっと待っててくれ。君たちの〝ニャイフォン〟を用意する。使い方も教えるから、あと少しだけ時間をくれないか?」


ゴマ「ふん、分かりやすく説明しろよ」


ルナ「ふあーあ。兄ちゃん、暇ー」



N「その後ボクとルナはそれぞれ〝ニャイフォン〟とやらを手渡され、シリウスから使い方の説明を受けた。長々とした説明に尻尾をブンブン振りながらも、ボクは何とか〝ニャイフォン〟の使い方を理解する事が出来た」



シリウス「〝ニャップル〟と契約完了。あとはここに肉球を押しつけてくれ」


ゴマ「あん……? こうか?」


シリウス「さあ、これで君たちは自由に〝ニャイフォン〟を使う事が出来る。特殊な電波を使っているから、壊れない限りはどんな場所でも、連絡が取り合える。その他にも、写真を撮ったり、ゲームをしたり、色々な機能が……」


ゴマ「ああ、分かった分かった、面倒臭え。まあ、使ってるうちに慣れるだろ」


ルナ「ダメだよ兄ちゃん。ちゃんと説明聞こうよ」



N「ボクはルナの忠告を無視して、ニャイフォンの画面を適当に触ってみた。くっそ、何だこれは。どうやって文字を打てばいいんだ。目がチカチカする。腕がってくる。面倒臭くなったボクは、連絡先をニャイフォンに入力する作業を、シリウスに丸投げした」



シリウス「……君たち、本当にニャイフォンを初めて使うみたいだな。使い方のガイドも渡しておこう」


ゴマ「すまねえな。で、ボクたちこれからどうすりゃいいんだ?」


シリウス「そうだな、時間を取らせてしまった。1つ、訊いていいか」


ゴマ「なんだ?」



N「この時、シリウスの目つきがマジになっていた。果たして一体、何を訊いてくるのだろうか」



シリウス「地上世界に、ネズミは居るよな?」



N「至極当たり前の質問に、ボクは拍子抜けした」



ゴマ「……は? 居るに決まってるだろうが。ネズミはボクらネコの食いモンだろ。居なくなっちゃあ困るぜ。な、ルナ」


ルナ「う、うん」


シリウス「……地上世界の何処かに、我等と同じように、知性を持ったネズミたちが平和に暮らしている世界がある……。そんな話を、聞いた事はないか?」


ゴマ「ある訳ねえだろ、そんなモン。ネズミはボクらにとっちゃあ、ただの食いモンだろうが」


シリウス「はは、やっぱりそうか。あの話はやっぱり、インチキ話なんだろうな」



N「シリウスはそう言うと、ニャイフォンに向かって何かブツブツと話し始めた。誰かと連絡を取り合っているらしい。話を終えたシリウスは、またボクらの方に向き直って言った」



シリウス「ゴマくん、ルナくん。君たちの住む場所を用意する。案内役のネコをいま呼んだから、少し待っててくれ。最初の1ヶ月は、家賃は要らないからね」


ゴマ「何? 住む場所だと? ヤチンって何だ?」


シリウス「そこで住むために月々にかかる費用の事だ。……まあ、今は気にしなくていい」



N「住む場所を用意するって、まさかずっとこの変な地底世界に居ろってことか? 地上にはもう帰れないのか? ルナが、不安そうな顔をしていた」



ゴマ「おい、ルナ……?」


ルナ「帰りたいよ、ぼく……」


ゴマ「だよな。まあしばらくの辛抱だ。……つっても、帰れる保証はないがな」


ルナ「やだよう……うええ……」


ゴマ「泣くな。逆に考えてみろよ。こんなすげえ冒険初めてじゃねえかよ! ボクはすげぇーワクワクしてる。……まあ、これ以上変なヤツに関わるのはゴメンだが」



N「ルナをなだめながらしばらく待っていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた」



シリウス「お、来たか。早いな。入ってくれ」



N「ガチャンとドアが開くと、コバルトブルーの上着をピシッと着こなした、ボクと同じくらいの背のキジトラの青年が、姿を見せた。」



プレアデス「失礼します。やあ、地上から来たというネコさんたちはこの子たちかい?」


シリウス「ああ」



N「キジトラの青年はボクらの方を見ると、ニコッと笑顔を見せながら挨拶を始めた」



プレアデス「やあ! 初めまして。僕はこれから君たちを案内させてもらう、プレアデスだよ。よろしくね」



N「プレアデスって奴はそう言ってピシッと背筋と服のえりを正した後、深々とお辞儀をした。どうやら、悪い奴じゃなさそうだ。だからボクも、丁寧に名乗ってやった」



ゴマ「ボクは地上から来たゴマだ。こいつは弟分のルナ。世話になるぜ」


ルナ「うう……ひぐっ……」


ゴマ「ルナ、お前も泣いてないで挨拶しろ」


プレアデス「無理もない。知らない世界に放り出されて、帰るすべもない。きっと疲れもあるんだろう。早く部屋に案内しなきゃね。じゃあ、早速行こうか。僕についてきて」


ゴマ「おい行くぞ、ルナ」


ルナ「ひぐっ……うん……」



N「プレアデスに案内され、ボクらは建物の外に出た。黄色がかった空に、オレンジ色に大きく輝くお日様。見た事もねえ色と形をした草木。建物、乗り物、道路、全てがネコサイズの、二足歩行のネコだけが暮らす世界」



ゴマ「なあプレアデスよお」


プレアデス「ゴマくん、どうしたんだい?」


ゴマ「何で、地下なのに、お日様が出てんだよ」



N「ボクは、煌々こうこうと輝くオレンジ色のお日様を指差して言うと、プレアデスは答えた」



プレアデス「あれは正式には、〝セントラル・サン〟っていうんだ」


ゴマ「何だそれは。あれはお日様じゃねえのか」


プレアデス「それについては……、部屋に着いた時にでも解説するよ。今は外を出歩き続けるのは危ないから、ちょっと急ぐよ。あ、ご飯もちゃんと用意してあるから」



N「プレアデスは、持っているカバンから魚の干物をちらつかせながら言った。今度は一体、どこへと連れて行かれるのだろうか。周りを見ると、服着たネコばかりが、2足歩行でその辺をウロウロしながら、ネコ同士でペチャクチャ喋ってやがるんだ。まるで、ニンゲンと同じように。だがネコどもの表情は、みんな曇っていたように感じた」



プレアデス「到着。このアパートの2階だよ」



N「プレアデスが指差した先には、3階建てで横長の建物があった。壁は埃や土で汚れ、窓は所々ヒビが入っている。

 ギリギリくぐれるようなサイズの扉を開け、中に入る。埃のニオイがムワッと鼻をついた。2本足で、ギシギシきしむ階段を上っていく。実に時間がかかる。4本足なら、このぐらいスタスタって登ってやるのに」



ゴマ「おいプレアデス、こんなきったねえとこに住めってのか?」


プレアデス「うん。見た目はボロアパートだけど、部屋は悪くないと思うよ。……着いた。この部屋だよ」



N「3階の廊下の突き当たりの右側にある、ボロボロの木の扉の前に着くと、プレアデスは扉の鍵穴に鍵を突っ込む。キィーという音と共に、すぐに扉が開いた。部屋に入り見回すと、思っていたより広々としていた。畳の部屋で、昼のような明るさの照明が天井に2つ。3つの座布団に四角形のテーブル、そしてボールや、アスレチックみてえな遊び道具がある。これならルナの奴も退屈しないだろうと、ボクは少しホッとした」



ゴマ「おいルナ?」


ルナ「眠い……」


ゴマ「なあ、プレアデスよ。段ボールのでかいやつとかあるか?」


プレアデス「段ボール? 何に使うんだい?」


ゴマ「寝床に決まってるだろうがよ」


プレアデス「変わったところで寝るんだね。布団ならあるよ。そこのふすま開けてみて」



N「言われるままにふすまを開けてみると、何やらフカフカした物が畳まれていた。それを敷いて寝るのか。早くルナの奴を寝かさないと」



ゴマ「……ルナめ、すぐに寝ちまいやがったな。なあプレアデスよ、ボクらはいつ帰れるんだよ?」


プレアデス「その事についてはまた後日、伝えるね。今日は疲れただろうから、ゆっくり休むといい。あ、危ないから外には出ないようにね。何かあったら、僕のニャイフォンに連絡ちょうだい。それじゃ、また明日朝にね」


ゴマ「おいこら! 待てよ!」



N「ボクは呼び止めようとしたが、プレアデスは扉を閉めて鍵をかけ、何処かへ行ってしまった。ルナの奴は、泥のように眠ってしまっている。よほど疲れていたのだろう」


N「こうしてボクらは、見知らぬ世界に来てしまったんだ。ボクとしたことが、正直に言うと不安だった。帰れる保証もないし、どんな変な奴がいるかわからない。アイミ姉ちゃん、ムーンさん、じゅじゅさん、メルさん、ポコ、ユキ……。もう会えないなんて、考えたくもなかった。その気持ちは、きっとルナも同じだ」

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