第64話
そしてゼルナと初めて参加する建国記念パーティーの日ーー。
母はアルフの事が気掛かりなのか食事も喉を通らないようだったが、どうやら母を慕っていた屋敷の者達が、アルフを守るように立ち回ってくれているようだ。
手紙が届き、アルフと連絡が取れた事で安心したのか、やっと顔色が良くなってきた。
父の愛人は屋敷に来たとしても何をする訳でもなく、現状は変わらない。
父との仲も崩れ始めたのだと書いてあった。
そして今日のパーティーで、フレデリックとジャネットと顔を合わせる事になるだろう。
(……お姉様には負けたくない。絶対に)
朝から気合を入れて準備していた。
オーダーした優しいラベンダー色のドレスを着用する。
レースが重なるようにしてボリュームが出ておりグラデーションになっていた。
胸元には細かな刺繍が入っており、一目で手が込んでいることが分かる。
デザインはゼルナが選び、色は自分で指定した。
ゼルナの瞳の色に合わせたのだが露骨かもしれないと恥ずかしさもあったが、彼はとても喜んでくれた。
結婚してからキチンとドレスアップするのは初めてのことだった。
変ではないかと鏡の前でチェックしていると、後ろではハーナと母がハンカチで涙を拭っている。
ハーナは亡くなったマルカン辺境伯夫人を思い出しており、母は娘の以前とは全く違う輝きに満ちた姿に感動しているようだった。
「二人共……大丈夫?」
「奥様を思い出しますわ……お美しいですッ!ハーナは感激致しました!!」
「綺麗よ……ウェンディ!本当に良かった!!」
「あはは……」
そんな二人を苦笑いしながら見ているとコンコンと扉をノックする音が聞こえた。
返事を返せばゼルナが部屋に入ってくる。
「ゼルナ様……!」
「…………!!」
そのまま固まって動かなくなった彼の姿を見て不思議に思い名前を呼ぶ。
「あの、ゼルナ様……?」
「…………」
目の前で手を振るが、彼は時が止まったように反応を示さない。
いつにも増して美しいゼルナの姿に、照れながらもチラチラと視線を送っていた。
暫くするとゼルナの頬が真っ赤に染まっていき、勢いよく顔を背けてしまった。
それにつられる様にして此方まで顔が赤くなってしまう。
「……」
「……」
「ふふっ」
「あら、まぁまぁ」
ハーナと母の笑い声が響く。
二人で照れていると、ゼルナの後ろに待機していたセバスチャンが「遅れてしまいますよ」と優しく声を掛けてくれた。
嬉しそうにハンカチで目元を押さえる母とハーナに手を振って馬車に乗り込んだ。
ドキドキと緊張する胸を押さえていた。
ゼルナは緊張をほぐすように優しく声をかけてくれた。
会場に到着して、ゼルナのエスコートで馬車を降りる。
二人で目を合わせてから微笑んでから歩き出した。
周囲の視線は全く気にならなかった。
ゼルナが隣に居てくれる……それだけでこんなにも心が強くなれる。
互いに意見を言い合って、尊重し合う……フレデリックと共に居たとしても絶対に出来なかっただろう。
此方の意見を頭ごなしに否定する事もなく、笑顔で受け止めてくれるゼルナと出会えたことは本当に幸運だと思った。
以前の噂があるからだろうか……少し離れた場所で令息や令嬢達が驚いた様子で此方を見ていた。
分かりやすいほどに不可解な視線を此方に送り、コソコソと何かを話している。
けれどもう、何を言われようと構わない。
前を向いて堂々としていた。
ーーー今ある自分の姿が"事実"なのだから。
会場に入り、挨拶をする列に並ぶ。
ゼルナを見ながら頬を染めている令嬢達を笑顔で牽制する。
やきもちを焼くなんてはじめての経験だった。
取られまいと無意識にゼルナに腕を絡めていた。
其れを見てゼルナが嬉しそうに顔を綻ばせているのも気づかずに……。
それに今日はジャネットが何をしようとも真正面から受けてたとうと思っていた。
(大切なものを守る為に、私だって戦うわ)
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