第37話
結局は姉に大切なものを全て奪われて、泣き寝入りするような形でここに嫁いできた。
頑張ればいつか受け入れてもらえるかもしれない。
夫婦らしいことをしてなくても居場所をくれるだけでありがたい。
こんな私と結婚してくれただけで十分だ。
せめて皆のために役に立てればそれでいい。
そう思っていれば、傷つかずに済むから……。
でも、ゼルナはそんな気持ちを見透かしているように一番欲しいものを差し出そうとしてくれている。
(こんな私が、甘えてもいいの……?)
自然と涙が流れている事にも気付かずに、ゼルナを見つめていた。
彼は困ったように笑いながら指で優しく涙を拭う。
「君が来た時に、そうさせてあげなかった僕が悪いね……本当にごめん」
「ぐすっ……」
「拒絶されるのが怖かった。皆、いつも本当の僕を否定するから……。君もそうだと決めつけていたんだ。でもそんなの当然だよね…………僕が誰も受け入れようとしなかったんだから」
「………っ」
「君に歩み寄ろうとしなかった事、何度謝っても足りないくらいだ……反省している。ウェンディはいつも皆の為を思って動いてくれる。とても優しい人だった」
「ゼルナ、様っ……」
「……このまま無理をしていたら、いつか壊れてしまう。だから少しずつでいい。僕に甘えてくれないかな……?僕も君に幸せになって貰えるように沢山、頑張るから」
涙で前が見えなかった。
ハラハラと頬に伝わる涙は止まる事なく溢れていく。
「ウェンディには僕の側でずっと笑っていて欲しい……そう思うんだ」
こんなにも自分の事を想ってくれていたゼルナに感謝を伝えたいのに……伝えなければいけないのに、言葉が出てこなかった。
「君を幸せにしたいんだ。だから、我慢しなくていいよ」
「……っ、ぅ……ッ!」
今までの我慢や苦労が……涙と共に流れていくような気がした。
温かい体温に包み込まれるように抱きしめられて、気持ちが溢れていく。
「ウェンディ……全部、吐き出しちゃっていいんだよ」
「っ……」
「…………此処には、僕だけしか居ないから」
「ッ、……本当、はっ」
本当は……哀しみに押し潰されてしまいそうだった。
私を選んで欲しかった。
沢山、愛して欲しかった。
今まで、あんなに尽くしてきたのに裏切られて死ぬほど辛かった。
悔しくて、憎くて、二人を恨んでしまう。
ずっと必死に頑張ってきたのに……全て無駄になってしまった。
ここに来てからは一人で寂しかった。
もし……追い出されてしまったらと思うと、不安で夜も眠れなかった。
上手くいかないかもと思うと怖かった。
やっぱり私は愛されない……捨てられてしまう恐怖に震えていた。
「ごめ、んなさぁ………っごめん、なさい!!」
「……ウェンディ」
「こんな、私が……嫌い!!大嫌い……ッ!」
素直に甘えられない自分が嫌い。
可愛くない自分が嫌い。
こんな自分が、ずっと昔から大嫌いだった。
我慢していれば、時間が解決してくれると知っていたから平気だと言い聞かせていた。
それでも勝手に思い出しては、こうして迷惑を掛けてしまった。
また心を許すことが……こんなにも怖い。
「僕は…………君が好きだよ」
「……!」
「今のウェンディが、大好きだ……不安な思いをさせて、本当にごめんね」
「…………ッ、ゼルナ様の、ばかぁあぁっ」
「うん……僕は馬鹿だね」
「ほ、とは……もっと一緒に……っ!」
「うん、一緒にいよう。ウェンディもそう思ってくれるのなら嬉しいな……僕はウェンディの気持ちをもっと知りたい。もっと教えて欲しいんだ」
あの後、ゼルナの胸で大泣きした後に我に返り恥ずかしさに顔を上げられなくなった。
涙を止めたくて何度も目を擦る手をゼルナは包み込むように握った。
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