第38話
何事かと様子を見にやって来たマーサは心配そうに口元を押さえた。
慌てるマーサに事情を話すと、直ぐに状況を把握したのか嬉しそうに頷くと去って行った。
そしてゼルナが世話を焼き続ける為、羞恥心で死にそうだった。
『ウェンディには僕の側でずっと笑っていて欲しい……そう思うんだ』
『君を幸せにしたいんだ。だから、我慢しなくていいよ?』
『僕は…………君が好きだよ』
ゼルナのその言葉を思い出す度に、顔から火が出てしまいそうになる。
(私もゼルナ様が好き……)
この時、ハッキリと自分の気持ちを自覚したのだった。
そんな日に限って、仕事から帰ってきたマルカン辺境伯に涙を流している所を見られてしまい、寝室が一緒ではない事を知られるのと同時に、ゼルナとの関係が進まずに悲しんでいるのだと思われてしまい大騒ぎになってしまう。
その時のマルカン辺境伯の恐ろしさは噂通りであった。
ゼルナが責められている姿を見て、居ても立っても居られなくなり庇うように口を開いた。
「聞いて下さい……!」
「……!?」
「こ、この場所に慣れるまでは、私が自分から断っていたのです……ッ!」
「…………なに!?ウェンディが!?」
「でっ、でも、もうそろそろ寝室を一緒にしても良いかなとゼルナ様に相談していて……!そしたら、私の過去の話になってしまって!でもゼルナ様が嬉しい事ばかり言って下さるから涙が……嬉し涙が出てしまったのです!!」
「…………ウェンディ」
「本当かゼルナ……?」
「そうですよね!ゼルナ様」
ゼルナは此方の意図を理解しているのか、複雑な表情を浮かべている。
「何も言わないで」という意味を込めて、小さく首を横に振る。
「……でも、ウェンディ」
「ほう……」
その言葉にピタリと動きを止めたマルカン辺境伯は、満面の笑みを作ると「なら、今日から一緒で大丈夫だな」とゼルナにベッドを運び込ませた。
そして一瞬でダブルベッドになり、二人の寝室になったのだった。
体を綺麗にしてからをベッドに戻ると、ゼルナが寝衣で本を読んでいた。
それを見て急に緊張してしまい、カチカチのままベッドに戻る。
「ウェンディ……?」
「………ひゃい」
まるで初夜のようで恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしていた。
(まだ心の準備が……!)
寝転がりながらベッドをぽんぽんと叩くゼルナの指示通りにシーツの中に潜り込んだ。
腫れた目元を撫でたゼルナの指に緊張して体をこわばらせた。
「今日は……ゆっくり休んで」
「ぁ…………」
「その、今日から毎日一緒だから……い、嫌とかじゃなくて、疲れているだろうから」
「…………」
「勿論、ウェンディは、とても可愛くて女性としても魅力的だけど、今日こんな形で手を出すのは…………きっと良くないから」
「ふふ……はい」
彼の言葉から気遣いと優しさを感じていた。
その後もしどろもどろなゼルナを見て笑いながらも、少し残念な気持ちには気づかないフリをした。
それから手を握りながら、いつものように沢山話をしていた。
「あったかいね……」
「はい、とても……幸せな……気持ちになります」
「……!」
誰かの温もりを感じて眠るのは初めての経験だった。
ポカポカと胸の中が温かくなるような気がした。
全力で気持ちを吐き出して泣いたせいか、疲れてウトウトしていると、ゼルナがそっと額にキスをしてくれた。
それが本当に嬉しくて、どこか懐かしくて自然と涙が溢れてきた。
しかし話しているうちに次第に、眠気に負けて瞼が閉じていく。
「おやすみ、ウェンディ……」
そんな優しい声に包まれながら眠りについた。
「…………困ったな。今日は寝れないや」
そんなゼルナの独り言は聞こえる事はなかった。
ただ手から伝わる温もりを離したくないと強く思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます