異世界担当を呼べ! その2
『勇者よ、私の呼び声に応えるのです・・・』
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誰か、誰かが俺を呼んでいる・・・
誰だ?
俺を呼んでるのは誰だ?
いや、ここはいったいどこなんだ?
「選ばれし勇者よ、目を覚ますべき時がきました」
なんだって...?
「あなたは前世の命を全うし、新しい世界に勇者として転生しました」
「えっ?」
「さあ、まぶたを開きなさい! 新たなる勇者よ!!!」
目を開けた俺の前には美しい女性が立っていた。
絵画で見たギリシャ時代みたいな雰囲気の白い布を纏った美女だ。
かすかな記憶。
なんだか、夜中にどうしてもコンビニに行かなきゃ行けない気持ちになって部屋を出た。
なにを買おうとしてたんだっけ?
思い出せないや。
それで国道を渡るところで、目の前にヘッドライトの眩しい光が...
ああっ!
そうか、俺はアソコでトラックに轢かれたんだ!
「あなたは勇者として転生しました。もう、あなたが本来持っていった力を縛るものはこの世界になにもありません。その力を人々のために役立てて下さい」
「そ...そんな...俺が、転生して...勇者?」
「そうです。あなたには、新たな勇者となってこの世界降り立ち、人々を魔王と勇者の手から救って欲しいのです」
そうか...俺が勇者か...
うん、そういうのに憧れてたのは認める。
いつか、ひょんな事で異世界に転生して、勇者になれたりしたらいいのにって、ずっと思ってた。
俺が魔王と戦うのか...なんか武者震いするな。
でもこの女神様? なのかな...日本語を間違えてるよね。
『人々を魔王と勇者の手から救う』じゃなくって『勇者の手で人々を魔王から救う』って言わないと。
細かいことだけど、そういうのってちゃんとしてないと気持ち悪いんだよな、俺って。
「俺は、魔王を倒すために生まれ変わったんですね?」
「そうです。あなたが魔王と勇者を倒すのです!」
「えっと、女神様?...その文法だと『勇者が魔王を倒す』のでは無くて、俺が『勇者と魔王をまとめて倒す』的な意味になってしまいます」
「そうですけど?」
「はい?」
「俺って勇者ですよね?」
「勇者ですよ」
「魔王を倒すんですよね?」
「魔王と勇者を倒すのです」
「は?」
「この世界はいま、魔王と勇者に蹂躙されています。あなたには、『新』勇者となって、硬直したこの世界を打ち破って欲しいのです!」
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「女神様、新勇者に向かって『命を全うし』とか、よく言えますね?」
「えー、その方が気分いいじゃん?」
「無理矢理、意識に干渉して引きずり出しておいて...そういうの、創造神様にバレるとまたお仕置きですよ?」
「だってさー、ぱっと見で判断したらね、彼が新しい勇者に一番適任だったの!」
「せめて、『ぱっと見で判断した』とかじゃなくて、『慎重にプロファイルを選んでいった結果、彼以上の適任者が存在しなかった』ぐらい言えませんか?」
「面倒じゃん?」
「おま! いえ女神様、他人の人生を、もうちょっと大切にしましょうよ?」
「だけど本当に死んだんじゃ無くって、コッチの世界で生き続けるんだからいいじゃん? それに勇者よ? カッコいいよ? 憧れの存在よ?」
「そういう問題じゃなくてですね...」
「じゃあなによ?」
「本人の自由意思を尊重するとか、
「女神なのにー!」
「だったら、もうちょっと女神らしい振る舞いをして下さい」
「うざー」
「...本当に死んでないって、じゃあ女神様。彼がやっぱり嫌だから元の世界に戻りたいって言ったら戻せるんですか?」
「んー....」
「目を逸らさないっ!」
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俺は勇者として転生したらしい。
しかも、この世界では魔王が人々を蹂躙しているのみならず、先代の勇者が悪の道へと転び、魔王と手を組んで民衆を搾取しているというのだ。
えっと、なんだっけ、そういうの元の世界の話でもあったよね?
ホラあれ。
えーっと、フォースがダークなヒーローが悪の化身のボウヤだからさ、みたいな?・・・ちゃんと思い出せないけど、まあいいや。
とにかく、俺は魔王と勇者をセットで倒さなければいけないらしい。
最初に女神様からその話を聞いた時は「それ無理ゲーじゃない?」って思ったんだけど、女神様の説明によると、先代の勇者はとってもヘタレで、実は戦闘能力とか皆無に等しいのだという。
つい、『なんで、そんな人が勇者になったんですか?』って聞いたら、とても悲しそうな顔をして、『いまは聞かないで下さい...いつか、いつか、この世界が平和になった時にはお話ししましょう』って言われたから、相当に深い事情があるっぽい。
ただし、先代勇者自身の戦闘能力というか戦闘センスは壊滅的でも、『勇者力』って言う、よく分からないステータスが凄く高くて、普通の人にはとても倒せない相手なのだそうだ。
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「それで女神様、新しい勇者の『勇者力』はどの程度まで高められたんですか?」
「ああ、結構いい線いってるわよー。元の勇者の八割ぐらい?」
「八割って、全然追い越してないじゃないですか?」
「だってさー、元勇ってソッチだけはやたら強かったのよねー」
「もとゆうって、まるで『元カレ』みたいな呼び方ですね。あと誤解を招きそうなんで、ソッチはとかフワッとした言い方しないように」
「新しいカレだって、初っぱなで八割だから結構いいと思うの。これから鍛えていけばさー、割と稼げる男になってくれるんじゃないかなー」
「経験値は収入じゃ無いです」
「だけど定期的に経験値を稼げるのって大切よー? どんなにスキルやレベルがあっても、それをちゃんと成果? 戦果? にしないと経験値は稼げないんだからさー」
「それはそうですけどね。じゃあ新カレが経験値を稼いで、元カレを超える勇者力に変換できるようになるまで、腰を据えて取り組みましょう」
「あー、もう魔王の居場所教えちゃった」
「はあっ?! そのまま尋ねて行っちゃったらどうすんです!」
「マズいかなー?」
「勝てるわけ無いでしょうが! 元カレの方だって魔王と本気でやり合ったら瞬殺ですよ! あいつは『勇者力』よりも『口先力』で乗り切ったんですからね。いまの新カレの力じゃどう考えても無謀です」
「ねえねえ、それよりも、さっきから勇者の呼び方が元カレ・新カレに固定されちゃってる気がするんだけどー?」
「女神様の趣味で選んでるんだから似たようなもんじゃないですか?」
「だよねー! ウケるー」
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女神様が魔王の居場所を教えて下さった。
ただ、女神様の口ぶりからすると、いまの俺がいきなり乗り込んでいっても厳しい勝負になりそうな感じだ。
女神様は、『与えられた力だけに頼っていては、勝利を掴むことは出来ません。勇者にも、自分で自分のソッチを伸ばす努力が必要なのです』って言ってたからな。
これはつまり、修行しろとか経験値を溜めろとか、そういう事なんだろうと思う。
女神様の言い方ってなんかフワッとしていて真意が掴めない処もあるんだけど、まあ『神託』って大体がそういうものらしいしね。
そもそも、誰でもパッと出かけていって倒せるような相手なら、わざわざ別の世界から勇者を召喚する必要なんて無いだろうし、きっと、前の勇者だって悪の道に転んだりはしなかっただろうと思う。
勝手な想像だけど、どうしても魔王に勝てずに、きっと苦渋の決断で魔王の配下に下ったんじゃ無いかなって、そういう気がするんだよね・・・
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