異世界担当を呼べ!
大森天呑
異世界担当を呼べ! その1
「魔王を呼べ!」
勇者が叫んだ。
++++++++++
「魔王様、お呼びです...」
「えっ、誰? まさか...」
「はあ、勇者様がすぐに顔を出せと」
「あー、やだなあ...ベタな反応だけど仮病使いたい気分だよ」
「ソレ絶対に出来ないって分かってますものね」
「だよねえ...下手したら粛正だ!とか喚かれちゃうよ」
「ですよねー」
「はー、行くしか無いか...」
「とりあえず、行ってらっしゃいませ。まあその...お気を付けて」
「なに、いまの間は! そして俺は何に気をつければいいわけ?」
「天災?」
「気をつけようが無いだろソレ! まあ勇者も天災も似たようなもんだけどな...とりあえず行ってくるわ」
++++++++++
「あー、勇者様におかれましてはご機嫌麗しく...」
「そういうのいいから。鬱陶しい」
「は。失礼いたしました」
「まあ魔王は古い支配体制の体現者だから仕方ないんだろうけどな。で、本題に入るけどさ...お前、やる気あんの?」
「もちろんでございます! なにか不都合でも?」
「不都合って、お前、先週の戦闘は一体何よ? だらーっと軍を出したり引っ込めたり...ぜんっぜん抑揚がない訳よ。あんな戦闘で民衆が喜ぶと思う?」
「いや、私としましては攻防に緩急を付けたつもりでおりましたが...」
「それさあ、エンターテイメントを舐めてるから。お前はねえ、もうちょっと民衆の心理ってものを勉強しろよ? 『ああ、もうダメだ! このまま魔王軍に蹂躙されてしまう!』っていう絶望感があってこそ、その後の、『駆けつけた勇者による反撃と解放』にカタルシスってものが有るわけよ?」
「な、なるほど...」
「それを魔王軍が勝手に下がってさ、『アレ?、俺たちこのまま行けるんじゃね?』とか思われちゃったらさあ、救い手としての勇者の価値が下がるわけ? 分かる? 俺の立場」
「は、はあ...思いが至りませんで...申し訳ございません」
「なあ、俺としてはそこら辺をもっと分かって欲しいわけよ。もうちょっと頑張って貰えるとね? 世界的にいい感じの拮抗が演出できるわけだから」
「はっ! 精進いたします」
「うん。よろしくね。今日の用事はソレ。実際、俺は君のこと評価してるよ? これまでの魔王と違って礼儀正しいし、食通だし」
「恐悦に存じます」
「もし王国の仕組みとか民衆心理のことで分かんないことあったら、ウチの賢者をバンバン使っていいからね。あと説明員で王様にそっち行かせてもいいし」
「かしこまりました。今後とも是非よしなに...」
++++++++++
「勇者様、お呼びです!」
「え?誰? まさかアイツ?」
「そのまさかかと...商業ギルド長が勇者様にすぐに来るようにと」
「だーっ、絶対それ先週の件だぜ? さっき魔王呼び出して厳重注意したばっかりだってのになー」
「かとは思いますが、行かないわけにも」
「分かってんだけどさー、アイツ面倒くさいから苦手なんだよ」
「重要スポンサーを面倒くさいやつ呼ばわりするのはいかがなモノかと...もしも先方の耳に入ったりしたら、攻守交代さえあり得ますぞ?」
「わーってるって...」
++++++++++
「あ、どうも! なんだか俺をお呼びになったそうで」
「ああ、勇者君! いらしゃい。そうそう、ちょっと相談事があってね。まあこっちに来て座って貰えるかな?」
「はい」
「で、早速なんだけどね。先週の攻防はちょっとどうかなーって意見が上がってきてる訳なんだよ。うん、僕はね、僕は悪くなかったと思うよ? 勇者君の強さもちゃんと表現できてたしねえ」
「はい。ありがとうございます」
「ただねえ、一部でね、あの魔王軍を押し返した後の、君のクルッと振り返ってのアピールね、あれがワザとらしすぎるって意見があったみたいでね...あそこで『商業ギルドに加入してれば魔王軍による被害も補填されるぜ!』っていうセリフは、ちょっと唐突すぎないかと」
「あー、すいません。自分的には、一番注目されるポイントだから効果的かと思って...」
「うんうん、その配慮は嬉しいんだよ? だから僕としても勇者君の心遣いは感謝するし、全体としては悪くないって思ってるわけだ」
「は、はい」
「でもホラ、民衆って言うのは気まぐれでしょ? あんまり強くプッシュされると、逆に反発したりしちゃうわけ」
「そうなんですね...」
「だから、一番大切なアピールポイントは強く押すよりも、こう染み込ませるような感じでね?」
「なるほど!」
「うん。勇者君には、もっとその辺りのアピール技術を磨いて欲しいかな?って、それが今日の話。じゃあ、これからも期待してるから、よろしくね」
「はいっ、ご指導ありがとうございました!」
++++++++++
「ギルド長、ギルド長、あの方がお呼びでございます!」
「あの方なんて迂遠な言い方しなくていいですよ。商業ギルドは冒険者ギルドの僕ですからね!」
「そんなイジケタ物言いをなさらなくても...」
「まあ、自分の心理バランスみたいなもんです。で、何ですか? すぐ来いって話ですか?」
「です」
「慌てたって何が変わるモノでも無いでしょうに...まあ愚痴ってても仕方有りませんね。ちょいと行ってきます」
「お気を付けてー」
++++++++++
「参りましたよギルド長さま。今日のご用件は何ですかな?」
「ギルド長からギルド長さまって言われても違和感しかねえよ...まあ手っ取り早く言うとよ、先週の勇者と魔王軍の戦闘な? あれダメだから」
「いや、もちろん改善点があるとは思っていますが、ダメって事は無いでしょう?」
「いいや、ぜんぜんダメ。もうまるっきりダメ」
「理由をお聞かせ頂きたい!」
「モチロン説明するよ。あのさあ、俺たち冒険者ギルドは、商業ギルドに加盟してる店や行商人は守るし、万が一でも積み荷を守り切れなかったときは補填するって約束もしてる」
「相応の取引だとは思いますが?」
「そりゃあそれ自体はな。でもよお、店や馬車を守ってる俺たちに商人が黙って金を払うのは、魔王軍が強いっていう幻想があるからだ。先週のあのヘタレタ戦闘は何だ? 魔王軍も困って途中で手を緩めるしか無かったし、勇者なんて無理矢理に出番を作ってる状態だろ?」
「しかしですなあ、昨今の人件費の上昇からしても、そうそう質のいい兵士を国軍に集めるのも厳しくなってきておるのですよ」
「そこをなんとかするのが商業ギルドの謀略と金勘定だろ? アンタも分かってると思うが、冒険者を魔王軍と直接対決させるわけにゃあいかねえんだから、国軍に頑張って貰うしか無いんだよ?」
「それはわかっております」
「じゃあさ? あのダルい戦闘を見た奴らが、冒険者に高い賃金払う価値あるって思うか?」
「それはその...」
「いや俺だって分かってるよ。ここでアンタに文句言ったところで根本的な解決になるわけじゃ無いってな。だけどよお、だからって適当に流されてると、コッチもヤバいんだよ。下手すると今の体制を仕切り直すって話だって出ないとは限らないんだからな?」
「そ、それはさすがに!」
「だろ。みんな困るだろ? そうなる前に知恵を絞ってなんとかしようや?」
「はい。少々お時間を頂戴できればと」
「うん、まあこっちも今日の明日でなんとかなるとは思ってないからさ。アンタのとこのお得意の長期的展望って奴で対策練ってくれや」
「承知いたしました」
++++++++++
「ギルド長、魔王様がお呼びですよ?」
「あー、きやがったか...まあ来るとは思ってたけどよ」
「先週の件でしょうね」
「それ以外にあるか? ったく国軍と勇者がヘタレなおかげでいい迷惑だ」
「とは言え収入源の創造者じゃありませんか。せっかくこの時代に勇者が現れてくれたんです。歩く金鉱だと思って骨の随まで利用させて頂かないと」
「...補佐長や、お主もワルよのう」
「ほっほっほっほ、ギルド長さまほどではございません」
「ふっ、ぬかしおるわい」
「まあ、いいから早く行って下さいよ。今代の魔王様はいい方ですけど、怒らせて良いことなんて一つも無いんですからね?」
「へいへい」
++++++++++
「お待たせいたしました魔王様」
「あ、ギルド長、待ってた待ってた」
「すみません、きっと先週の戦闘の件ですよね?」
「そうそう、あれやっぱ評判悪かったみたいでさー」
「聞きましたよ。魔王軍のさがり方が不自然だって勇者サイドから文句が出たんでしょう?」
「それよそれ。でも、あのタイミングって実は結構ヤバかったんだよ。まじギリギリ」
「えっ、そんなでした?」
「だって、まさかあの程度で総崩れになるなんて予想外だもん。バレないように国軍兵士に回復掛けて、こっちを慌てて下げたけどさ、あとワンプッシュしてたら国軍崩壊してたよ?」
「マジですか?」
「まじマジ。そうなったら手の施しようが無いじゃん? 追撃するわけにも行かず、逃げていく国軍の背中を見ながらなぜか撤退する訳にもいかず。まさに板挟みだよー」
「あー、動くに動けないって奴ですね」
「もう勇者君からもネチネチ嫌みを言われちゃうしさー。魔王軍だって、できれば勇者と全面対決なんて状態になりたくないことは分かってるでしょ?」
「そりゃモチロンでさあ」
「コッチもさ、冒険者に便宜を図ること自体は問題ないわけ。ダンジョンの魔物掃除とか逆に手間が省けて有り難いくらいだしね?」
「そりゃ恐縮です」
「だからこそ、国軍の演技指導、じゃなかった戦闘技術の指導を受け持ってる冒険者ギルドに、もうちょっとしっかりして欲しいわけさ。国軍が弱すぎて得する奴なんていないんだから」
「了解でさあ」
「あと戦術ね。やっぱりもうちょっと見栄えのする戦術をとるように指揮官クラスも鍛えて欲しいかな?」
「委細承知しましたとも!」
++++++++++
「女神様、女神様、創造神さまがお呼びですよ?」
「え、なに、なんで? アタシなんかやっちゃった?!」
「なにかもなにも、あの世界に転生させた勇者の件以外、あるわけ無いじゃないですか?」
「えー、アレってそんな問題かなー」
「勇者と魔王が談合した挙げ句、冒険者ギルドや商業ギルドまで巻き込んで出来レースの戦いを延々と続けてる世界の、どこが『問題じゃ無い』と思うのか、むしろ知りたいです」
「平和でいいじゃないさ。死ぬ人少ないし」
「社会も硬直してるし経済的にも搾取されまくって疲弊してますよ」
「死ぬよりいいでしょー?」
「それは創造神様に言って下さい」
「えー、めどーい」
「ダメですからね。私は代わりに説明に行ったりしませんからね」
「いーじゃん、ケチー!」
「女神のセリフですか。それ?」
「はー、まあいいや...でも創造神様に会う前にちょっとだけでも対策したって格好を付けとかないとマズいよね?」
「ですね。手ぶらで行ったらお仕置き喰らうと思いますよ?」
「うわー...絶対ヤダ」
「じゃあ、なんとかして下さい」
「わかったわよー、とりあえず勇者呼んで!!!」
「はいはい」
「あー、それと念のために、例のトラックの予約状況も見といて貰える? イザとなったら総取っ替えよ、もう!」
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