第28話 景子の決意と桜

 上部かんべ先生の言うことを信用していいかどうかわからなかったけど、その高校の下足場から出る。今日はサンダルを靴袋に入れて帰るので靴箱を使うわけでもない。それでかまわないだろう。

 校庭では、相変わらず、生徒たちが球技の練習をしたり、ボール遊びをしたりしている。体操服の子と制服の子が混じっていた。体操服は種類があるらしく、丸首の体操服を着ている子もいれば、白いポロシャツを着ている子もいる。どういう使い分けなのか、景子にはわからない。

 体育館の横を通り、ボイラー室のほうに続く道のところで角を曲がり、校門のほうへ向かう。

 道の橋を歩くと、頭の上を桜が雲のようになって覆っている。

 景子けいこは腹が立ってきた。

 この薄ピンクで頭を押さえつけるのがこの瑞城の伝統?

 それが新しい時代の新しい女子教育で、新しい時代の日本の女子にふさわしい?

 自分より成績がよくておとなしい同じ年代の女子をつかまえてきて、巻きにしたり、口に砂を詰め込んだり、雨のなかで恐喝きょうかつして被害者を泥水の中に突き転ばしたりするのが「新しい時代の日本の女子」?

 冗談じゃない!

 景子の横では、制服を着た子たち四人か五人が組みになって、軽いステップを踏みながらちょっと小さいボールを持って走ってワンバウンドでパスしたり、わざとゆっくりと高く投げてパスしたりを繰り返している。

 対戦ではなく、同じチームの練習? それともこういう遊び?

 「はいこっち!」

 「はい次は行くよ!」

 景子にはよくわからないが、高校で友だちがやっていたハンドボールという球技のようだ。

 この屈託のない明るい子たちを、暴力娘に育ててはいけない。

 ただ情報を管理するだけの職員で、何ができるわけではないけれど、そのために全力を尽くそうと景子は決意した。

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