第23話 対決(1)
名簿とデータベースの照合をやっている話を
「そんなのやらなくていいのに」
と言われた。
「いまのうちに休んどきないさよ。これから、生徒指導に関係あってもなくても、会議資料作りとかいろいろ押し寄せて来るから」
と先生は言う。
「そんなに忙しい仕事なんですか?」
ときくと、
「とりたてて忙しいわけでもないけど、自分が担任してない生徒の成績とか、補導歴とか指導歴とか、あと家庭事情とか病歴? そういうのはあんたに流してもらわないと見られないから」
と言われる。
会議室を出てから桜の話はしなかった。
している間もなかった。
行くときには職員室から第二小会議室は遠いと思っていたが、帰りは近かった。
階段を下りてすぐだったから。
高校南棟に行ってしまったのがそれだけ遠回りだったということだ。
職員室に入る直前に河原崎先生に
「とくに、あの
と言われた。
「上部先生、OGと仲いいから、OGに個人情報流す危険もあるし。そんなのが発覚したら大インシデントだからね」
それはわかるが。
えーっ?
あんな人の相手をするの?
でも、それが仕事か、と思って、
職員室に入ると、入ってすぐの席にいる女の先生の様子がおかしかった。
ぼんやりしているだけでなく、品のよさそうなハンカチで目のところを
泣いている?
でも、花粉症かも知れない。今日、着任したばかりの二十歳の事務職員が声をかけるものではないと思ったから。
かわりに、河原崎先生が
「今日はどうしたんですか、
と声をかけている。まったくあわてていないところを見ると、この先生が机で泣いているのは今日が初めてではないらしい。
中学校の先生たちの列の後ろに入って、その昌子先生という先生の斜め前の席が空いているのに気づいた。景子が気づいたことに気づいた、朝に知り合った
たぶん志藤先生は事情を知っているのだろうけど、景子はあいまいに笑ってあいまいにうなずき、通り過ぎた。
この志藤先生という先生も顔の肌がつるんつるんしていてかわいい。それにしては、何についてもまじめに考えてます取り組んでますという雰囲気を持っている。
それは、なんだろうな、と思って自分の席に戻った景子に、予告された災難がいきなり降りかかってきた。
あの上部先生がやって来たのだ。
「あなた悪いんだけど、この生徒の情報、出してくれない?」
と言って紙を渡す。
紙を渡す手が震えている。景子は何度か受け取るのに失敗したほどだ。
紙にはただ「大鹿早智枝」と名まえが書いてある。
苗字は「おおしか」? 名まえは、しばらくわからなかったけど、「さちえ」だろうか?
最初から断ることはせず
「情報、って、何をご覧になりますか?」
ときき返す。
「何もかもよ」
上部先生は、ここまでは、普通に言った。むしろ抑えた声だっただろう。
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