第18話 生徒会対応(2)

 「はい」

 小林こばやしあおい会長が答えた。

 「しかも、そのうち宮下みやした朱理あかりさんは書記補で書記昇格がほぼ決まってましたし、向坂さきさかさんも、書記か、生徒会のどれかの委員会で委員長を、って決まってたようなメンバーで」

 「まあ、新年度でいろいろある時期だから、動きはいろいろある時期だと思うけど」

 会長と副会長は顔を見合わせる。

 二人でうなずき合って、二人で河原崎かわらざき先生のほうを向く。息が合っているらしい。

 会長のほうが話し始める。

 「向坂さんがこんどマーチングバンド部の部長になるということで、宮下さんと郷司ごうじさんがそれについてマーチングバンド部に移るということです」

 河原崎先生がきく。

 「向坂ってマーチングバンド部なんか入ってた?」

 小林会長は首を振った。

 「部に移って、いきなり部長なんだそうです」

 斎藤副会長がつけ加える。

 「宮下さんが副部長、郷司さんも何か役職に就くみたいで。部活動の役職者は役員を兼任できない、って制度ですから」

 「その二人は?」

 河原崎先生が重ねてきく。

 「マーチングバンド経験か、せめて部で楽器演奏した経験はあるんでしょうね?」

 斎藤副会長はとても淡泊たんぱく

「いいえ」

と答えた。

 「だれも、何もありません」

 景子は黙って聞いていた。

 でも胸は騒ぎはじめている。

 あの子。

 小さい毛受めんじょ愛沙あいさはマーチングバンド部だと言っていた。高校でも続けると言っていた。

 いま、先生に手渡した資料のいちばん上の子もマーチングバンド部で、退部したと書いてあった。

 そのマーチングバンド部をめぐって何かが起こっている?

 退部した子が、さっき景子が想像したように、勉強に集中するために退部したのならいいのだけど。

 河原崎先生が低くて抑揚のない声で言う。

 「マーチングバンド部、前の部長が辞めたのは知ってる」

 いちばん上の資料にある猪俣いのまたという生徒だろう。三月で退部したと書いてあった。

 河原崎先生は生徒会の二人に一人ずつ目線を送ってから、続ける。

 「まあ、わたしからはそういう表現しかできないけど」

 「はい」

と小林会長がうなずいた。

 「向坂さんは、そのマーチングバンド部OG会幹部の方のお嬢さんで」

 「そういうことね」

 先生は低い声のままうなずいた。軽くため息が混じっている。

 「まあ、わたしたちのほうからは生徒会にこうしろとかこれはするなとかは言えないけど」

 短くことばを切ってから、続ける。

 「でも、三人ぶんの欠員、どうするの?」

 先生のいまの言いかたにはけっこう圧力があった。

 生徒会の二人はそれを受け止めて答える。

 「もうすぐ改選なので、書記補しょきほ一人と主任委員一人は欠員のまま行こうと思います。それと」

と、また顔を見合わせている。

 息が合っているのは認めよう。

 「その、猪俣沙加恵さかえさんが、生徒会に役員として入りたいっていう意向で」

 「うん」

 河原崎先生はうなずいた。

 「辞めさせられたマーチングバンド部の部長ね、あっ……」

 先生が「あっ」と言ったのでわかってしまう。

 「辞めさせられた」は言ってはいけなかったのだ。さっき言ったように「辞めた」と言わなければいけなかったのだろう。

 でも、辞めさせられたんだな。

 どういう事情か知らないけど。

 覚えておこう。

 「まあ、このメンバーならそう言ってもでいいでしょ」

 先生は落ち着いて言った。

 つまり、このメンバーでなければ、そう言ってはいけないということだ。

 気をつけよう。

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