第15話 毛受愛沙の情報を検索する

 物理化学準備室に戻るという菅原すがわら先生に

「試しに生徒の情報何人か引っぱり出して練習してみて。守秘義務あるけど、見るだけならかまわないから。あと、プリントアウトすると、あとでシュレッダーにかけるとかややこしいけど、画面に出すだけなら好きにやっていいから」

と言われた。

 そこで、「生徒の情報を引っぱり出す」のを試してみることにする。

 普通は「あ」の最初からはじめるのかも知れない。

 でも、景子けいこは、検索の姓のところに

「めんじょ」

と入れて見た。

 変換候補は、まず「免除」で、次が「毛受」で、その二つだけだ。

 あの子。

 たしかに「毛と受けるで毛受めんじょ」なのだ。

 「毛受」に決定して入力して検索すると、一人だけ、あの毛受愛沙あいさが出てきた。

 この苗字は、中学校・高校合わせて一人しかいないらしい。

 では、名まえの「愛沙」はどうだろう?

 生徒はたくさんいるし、「愛沙」ならばほかにもいるんじゃないかと思ったが、やはり出てきたのは毛受愛沙の名だけだった。

 画面を戻して、ふりがなで「あいさ」と入力すると四人出てきた。

 そのなかで、「愛らしくて、抱きしめていないと水のように流れて行ってしまう愛沙」はあの子一人だけなのだ。

 そのうちの「毛受愛沙」をクリックして情報を引き出す。

 写真は、髪がボサボサなのは今朝会ったときと同じだけど、あごを引いて上目づかいににらむような、まじめな顔をして写っていた。

 これもこれで、かわいい。

 住所は箕部みのべ市だ。だったら景子の新居も同じだ。

 中学校の成績はあまりよくない。平均的にまん中あたりだ。

 部活動は、自分で言っていたとおりマーチングバンド部だった。

 指導の記録は、中学校二年生のときに一度だけあった。

 「無許可で廊下でバトンの練習をして窓ガラスを割る。負傷者なしも、窓ガラスは三度目。指導には至らないが顧問のマーチング部顧問まき先生より厳重注意」

とあった。

 バトンの練習をしていて窓ガラスを割ったんだ……。

 投げたか、回転させている途中にぶつけたか。

 あの子らしいと思った。

 高校でもバトントワリングを続けてくれないかな。

 マーチングバンド部ということは、校庭で練習したり行進をしたりするのだろう。

 これから三年間、あの子の姿が見られる。

 そう思うと、景子は心のなかがほっと落ち着くのを感じた。

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