第13話 社会人デビュー!(2)
ただ、副校長の
「それでは、紹介はこれぐらいにしようと思いますが。仕事はこれからおいおい覚えてもらうとして、先生方から何かありますか」
と言ったときに、職員室の窓際のほうから
「はい」
と手を上げたひとがいた。
そちらを振り向く職員室のメンバーの表情で、わかる。
この声の主は嫌われている。少なくとも「いないほうがいい」くらいは思われているということが。
その声の主が立ち上がる。そんなに背は高くない。
顔は白く、くちびるは赤く塗りたくっているというのも見てすぐにわかった。
「音楽担当の
声には張りがあって、しっかりはしているのだが。
何か、ところどころ声が震えている感じがする。
校長先生が、うん、としっかりうなずいた。
「では、二年前にこの学校に来たわたしよりも、上部先生のほうが適任でしょう」
その声にこたえてその上部という先生が言う。
「はい。この瑞城高校は、戦後になって、女子教育を盛んにしようという時期に、地域社会に貢献する女子を育てたいということで創立されました。だから、瑞城高校の生徒にとって、もちろん学業もだいじですし、進学成績もだいじですが、何より大事なのは地域社会に寄り添うということです。この点を忘れないようにしていただきませんと。私からは以上です」
「はい。ありがとうございました」
校長先生が答える。校長先生と副校長の
「ほかに発言なさる先生はいらっしゃいませんか?」
もうだれも声も手を上げない。
「それでは、よろしくお願いします」
校長先生の声につづいて、副校長の喜尾井先生が
「では、新任の方にはこのあとつづいて学校内の案内をします。職員室を出たところにお集まりください。職員室内の席決めはそのあとです」
と言う。
これが景子の社会人デビューだ。
一生に一度きりの社会人としての出発の瞬間だった。
特別に祝ってもらえるわけでもなかったが、特別に緊張しなければならないこともなかった。
上部先生という先生が嫌われているらしいことはわかったが、言った内容は学校のホームページやパンフレットには書いてあることだった。
「地域社会とともに歩む瑞城女子」。
あいさつのあと、副校長の喜尾井先生が校内を案内してくれた。
喜尾井先生は白髪をふさふささせている。ただ、髪の毛のボリュームが多く、白髪の比率が大きいので白髪が目立つだけで、それほど歳をとっているわけではなさそうだと景子は見た。
まだ授業は始まっていないけれど、中学校も高校も生徒たちが学校に来ていた。みんな制服か体操服、または学校指定のポロシャツとかを着ている。
景子が見た範囲では、生徒たちは普通で、とくに育ちがよさそうにも見えなかったし、ガラが悪いとも思えなかった。
一行とすれ違うと立ち止まって
昼ご飯は「試食」という名目で生徒たちの使う食堂で食べさせてもらった。
東京で学生だったころに食べていたランチと較べてもそんなに悪くはない。
いや。
「親の年収の平均はほかよりちょい高め」のお嬢様たち、けっこういいものを安く食べてるな、と思った。
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