第11話 明珠女と瑞城女子
「ま、
その「線路の向こう」に、
明珠
写真は東京明珠実業専門学校の職員室前に飾ってあったので見たことがあるが、行ったことはない。
行きたいと思ったこともない。
経営していたのが同じところというだけで、「
「それで」
と、一つまばたきをしてから、菅原先生が言う。
「昔は、明珠女生を
「えっ?」
……という声も出ない。
そんな話は「薄々」くらいなら伝わって来ていた。
でも、実感は何も
しかも、この
だから、瑞城と明珠で仲が悪いというのも
もしかして。
生徒指導補佐がいじめられていてはしかたないけど。
でも、自分は二十歳、三年生の生徒は十八だ。あんまり変わらない。しかも景子は小柄だ。
体格が大きくて頑丈な三年生とかが何人かでつるんで来て
「あーん? 明珠女の卒業生だぁ? どのツラ
とかやられたらどうしよう?
「でも、それは過去のことだから。最近も、年に二‐三回は明珠女の生徒会から抗議来たりしてたけど、ま、今年の二年生以上はだいじょうぶでしょ。明珠女の子とも連絡あって仲いいみたいだから」
それから、その色の美しいくちびるを閉じて、景子を見る。
続ける。
「問題があるとしたら、そういうことを平気でやってた四十年ぐらい前の卒業生たちだね」
つまり、簀巻きとか、泥の水たまりとか、陸橋の上から竹刀を撒き散らしたとかだろう。
それが四十年前ぐらいのできごととすると、その「子」たちはいま六十歳前……?
「シャカイジンにまでなって、自分の母校にクレーム入れるのを楽しみにしてるような卒業生、少数だけど、いるから」
うーん……。
そういうのの相手もいやだ。
菅原先生は表情を変えずに続けて説明する。
「心配しなくていい。そういうのが来たらてきとうに圧力分散させて対応するから」
言いかたが高校物理の先生らしい。
「それじゃ」
菅原先生は別にスマイルもせずに職員室を出て行く。
「それじゃ」って?
菅原先生は、もしかしてここの先生ではないのだろうか?
ここまでこんなに話してくれて、それはないと思うけど。
その気もちが表情に出たのか。
戸を閉めようとするところで、菅原先生は景子を振り返って言った。
「ああ、わたし、いつも物理化学準備室にいるから。ここの二階。別に物理化学理科関係でなくても何か困ったことがあったら来て」
「はいっ!」
景子はまた縮み上がるようにかしこまった。
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