第9話 生徒指導か情報局か
ぽっちゃりした白い頬の
「あ。ということは
「あ……」
前任者はもうここにはいないのだろう。だからわかるはずがない。
正直に言う。
「はい」
腰の前に手を揃えて。
菅原先生が続ける。
「だったら、生徒指導補佐、って仕事。たぶん、だけど」
「えっ?」
体がこわばる。
この瑞城女子中学校・高校というのはお嬢様学校だという。
しかも、生徒は奔放で、わがままで、ちょっとガラが悪くて、しかも体育系の部活動が盛んだという。
その生徒を相手に、二十歳の自分が生徒指導?
背も低くて、小柄で、人生経験もない。体力もない。
「あーん? 生徒指導だぁ? で、あんたがあたしの何を指導するってんだぁ? いちおうきいてやろうじゃないか。おらおら、話してみなよ。あーん?」
迫力でそう迫られたらどうすればいいだろう?
想像するだけで怖い。
……とんでもない仕事を選んでしまった。
かといって、二十歳の新任職員が「生徒が怖いのでほかの仕事にしてください」なんて言えるはずがない。
「あのさ」
そのことを意識すると、相手の先生、菅原先生がまとっているいちいちめんどくさそうな気分の意味まで考えてしまう。
これは、その荒れる女子生徒たちに対する防衛態勢なのか?
「はい?」
景子のその反応の声は震えていたかも知れない。
菅原先生はくちびるを突き出すようにして言う。
「生徒指導じゃなくて、生徒指導補佐。生徒指導自体は、
ああ。
まあ、そうか。
生徒指導はもちろん先生がやるもので、自分のような事務の職員がやるものではないだろう。
景子の体に入っていた力が抜ける。
めんどうくさそうな言いかたは続く。
「まあ、あんたの仕事は学校内CIAみたいなもの」
「はい……」
CIAはいちおう知っている。
アメリカ中央情報局、というのかな?
でも。
そんなものが学校内にあるとも思えないし、もし万一あるとしてもそんな仕事が経験のない新任の職員のところに回ってくるはずもないと思う。
「つまり、生徒の個人情報を管理して、生徒指導の必要に応じてそれを引っぱり出す役割。もっとも、生徒指導の必要なんてそれほど起こらないから、生徒情報の管理係ってところかな」
個人情報……?
生徒指導で凄みをきかせなければいけない、ということはなくなったけど。
別の種類の緊張感が襲う。
それって、一つまちがえれば大事件になる種類の何かではないのだろうか?
「ま、だいたいだいじょうぶだから」
その景子の心配を見
「あんたの使うその仕事用のPCは、持ち歩きメモリーにデータを移したらその時点で暗号化されて、個人認証ないと読めない仕組みになってるから。無理に読み出そうとするとデータ壊れるように仕組んであるし」
なんと!
セキュリティー対策が本格的だ。
お嬢様学校だから、それぐらいしないと、保護者が納得しないのだろうか。
「逆に、パスワード忘れとかやったら、わたしに言って。たいていのパスワード忘れならなんとかするから」
はい?
菅原先生のめんどうくさそうなアドバイスは続く。
「それより、PCの画面つけたまま離席とか、そういう初歩的ミスのほうが怖いから」
「あ、はい」
よくわからないところはよくわからないけど、ともかく、景子はかしこまる。
言いかたも表情も無愛想だけど、ここまで親切に接してもらって、こんなにかしこまることはないだろうとは思ったけれど。
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