カラフルな町

山を歩いていた。左手が崖で右手が山で。車がぎりぎりすれ違えるくらいの道幅がある。誰も通らないはずの、しかししっかりと整備されたその道をぼくは小走りで進んでいる。

山をこえたその向こうにいる人に会おうとしていた気がする。


右手に場違いな建物が見えてくる。

どうやら宿泊施設のようだ。小さなバスが2台ほど止まっている。こんなのあったんだ、なんて思いながら通り過ぎようとすると建物の中からわらわらと人が出てくる。カジュアルな薄着の人たち。老若男女問わず20人弱だろうか。みな観光地にいる観光客のような浮足立った空気をまとっていた。

ぼくは思わず足を止める。

観光客たちの目線をおって左手に目を向ける。

たくさんの色が目に入る。


一番目を引くのはピンクだった。おもちゃ箱のような明るくて強いピンク。少し濃い水色。主張の激しい黄色。赤、青、緑。

カラフルなものの正体がわからず、ぼくはそっちにむかって足を進める。どうやら遊園地のようだ。人がいないにもかかわらず押しつけがましい愉快に満ちていた。それを不思議な気持ちで眺める。観光客たちは口々に賞賛の言葉を発し、その風景を写真に収める。遊園地の中の入ろうとする人は一人もいない。

それで、ぼくは、ぞっとしたんだ。

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