友人

わたしに女の子の友達はいない。一人もいない。だが、夢の世界にはいたらしい。

彼女は男性がこわいと言った。彼女は人前ではおとなしく、人見知りなのだと言っていた。わたしの前では愉快な人だった。たくさん笑う人だった。楽しい冗談をたくさん聞かせてくれた。

わたしは彼女を誰より信用していたし、彼女もわたしのことを信用してくれているように見えた。わたしたちの間に秘密などひとつもないのだという気がした。


ある日、彼女が涙目で訴えるように、とても小さな声で

「私、パーソナリティ障害だと思う」

と言った。


ネット上の簡易診断でそう出たのだと。

そしていくつかの症状を羅列した。これも、それも、あれも、当てはまっている。と。

わたしは、そんなことないだろう等と思いながら心配ならちゃんとした医者のいる病院に行くべきだとアドバイスしたのだ。チェックボックスにいくつチェックを入れたかで出る診断なんて信じる必要ないと思ったが、彼女がそれを行ったということは何か、生きるのが苦しかったりするのかもしれない。わたしの知らない苦しみを彼女は背負っているのかもしれない。

けれど、だとして、わたしになにができるだろう。できることなど何もないのだ。彼女がなにを求めているのかすらわたしにはわからないのだから。


こちらからは踏み込まず、彼女が口を開いたときは真剣に聞こう。そう思って数日が過ぎた。彼女がこの話題に触れることはなく、いつも通り冗談を言い合って笑う日々だった。発作のように笑った日があった。息ができなくなるくらい、涙がこぼれるくらい、ふたりだけで笑った。笑いの発作が収まったとき、彼女が言った「逃げ出したい」


だから、わたしたちは逃げることにした。

遠く、とおく、地の果てまで。

彼女が楽に息ができる場所を見つけるまで。

ずっとふたりで、ふたりきりで、どこまでも。

逃げようと思った。


わたしは彼女の苦しみも、ほんとうの気持ちも望みも、なにもわからない

わからないけど、わからないから、彼女が逃げたいと言ったなら逃げるしかないのだ。

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