第11話時戻りの噴水・フラン

 満月の深夜、水に映る月に祈ると、指定した過去に一時間だけ戻ることができるという。

パン屋の娘フランは懸命に祈っていた。


月の神様、どうか、あの日にもどしてください。

大好きだった幼なじみのロドリーが、私の親友、カタリナと結婚すると告げたあの時に。


いたたまれなくて、悲しくて、駆け出した私を庇った彼は、馬車にはねられ、一生松葉杖暮らしになってしまった。


あの時、言えれば良かったのに。「おめでとう」と。


そうできたら彼は、足を失わなくてすんだはず。今頃はカタリナと幸せになっていたはずなのに。


だから、今度こそ笑って伝えたい。もういちどチャンスをください。


やがて水に映る月が揺れ、波紋を描いた。

フランの姿はいつのまにか消えていたのだった。


(時戻りの噴水01)。

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