第252話:やっちまった。
私が聖樹に魔力補填して五十年延命出来たと思ったら、直ぐに枯れ果てた。え、聖樹ってこんなに脆いものなのと、朽ちた大樹へ向けていた視線をリーム王国の方々へと向ける。聖樹に魔力補填したばかりなので、魔力量がごっそり減ってはいるが、アルバトロス王国のみんなを守る為の防御魔術なら展開できる。
逃げるか、戦うか、諭すのか。
副団長さまやジークに護衛の騎士さまたちに緊張が走る。非戦闘員の人たちを、静かに真ん中へと誘導させる辺りは流石であった。
「貴様らぁ!」
「陛下に何を!!」
今にも剣を抜きそうな勢いで、口々に罵倒が私たちに浴びせられる。リーム王が倒れてしまったので気持ちは理解できるけれど、失敗しても責任は負わないとリーム王から確約を貰っていることを忘れ去っているらしい。取りあえず状況を整理したいけれど、それが許される訳もなく。
「皆、落ち着けっ! 聖女殿を責めるのは筋違いだっ!」
やたらとデカく太い声がこの場に響いた。声を上げたのは第三王子殿下、ずかずかと歩いてきて私の前に立った。
「ギドさま……」
「……ギド殿下」
そう言えば第三王子殿下の名前ってそんな感じだったなあと、私を背に庇ってくれている人を見上げる。状況を見ているだけかと思っていたが、すかさず割り込んでくれた事には感謝しなければ。
「何が起こっても構わないと陛下が願い、聖女殿が魔力補填を担ってくれたのだ。彼女を責めるべきではないっ! ――申し訳ない聖女殿。我が国の者の無礼、お許し下さい」
恭しく頭を下げる第三王子殿下。阿呆の子だと思っていたのに、今回は随分と確りしている。
「お気になさらず」
格下とはいえ王族に丁寧にされると、こう言うしかないよなあ。対応大丈夫だったら、良いけれど。
「近衛の者は陛下を城へ運べっ! あと兄上……王太子殿下をこの場に!」
「はっ!」
国のトップが倒れたのだから王太子殿下が呼ばれるのは当然か。リーム王の子供だから、リーム王と同じような思考だったりするのだろうか。
兎にも角にも、話が通じて柔軟な対応を取れ、第三王子殿下より抜けている人でなければ良いのだけれど。リーム王がこの場から運ばれるのと同時に、王太子殿下が近衛騎士に守られつつやって来た。
「兄上、こちらです!」
急いでいたのか少し息を切らし第三王子殿下の言葉に軽く手を上げ、私たちから少しは離れた場所で一度立ち止まり息を整えてからこちらへと王太子殿下が来る。
「聖樹が一度息を吹き返し、再び枯れたと報告を受けたが……状況が酷くなっているではないか」
ぼそりと呟く殿下に心の中で誠にごめんなさい、と謝る。まだ喋りかけられていないので、謝罪も出来ないけれど。てっきり寿命がある程度伸びるだけだと考えていたのだけれど、魔力を注ぎ込み過ぎて老体にムチ打ったような感じになってしまったのだろうか。
『魔力を注ぎ込み過ぎたかしら。まあいずれにせよ……――どんな生き物にも死は必ずやって来る。聖樹と言われているけれど、例外なく生き物だもの諦めましょう』
お婆さま、そこで諦めると試合終了というか、人間の意地汚さが発揮できないというか。リームの王家が滅びても構わない。おそらく首がすげ変わるだけで、残った高位貴族の誰かが王族となるのだろう。ただ、リームに住む人たちに責任はないよなあ。一応、五年持つと言われていた聖樹を枯らしたのは私なんだし。
――参ったなあ、けれど……。
お婆さまの姿も声も聞こえていない王太子殿下がふうと息を吐いて、聖樹を見上げていた視線を私に向け身体も向け、自己紹介。私も彼に自己紹介を返し、視線を合わせる。
「聖女殿、この度は聖樹への魔力補填感謝致します。ですがこのような状況は我々も想定外……魔術や神秘に関して知識の浅い我々はどうすれば良いのか……」
「王太子殿下、此度の一件は何が起きても我々アルバトロス側は責任を負わないという話になっております」
「ああ、陛下から昨夜連絡を受けている。申し訳ないが、我々も聖樹が枯れたことに対しての協議を行いたい」
来て早々だが帰国の途に就いてくれまいかというのが、王太子殿下の言葉だった。失敗しても責任は負わないようになっているから、アルバトロスに戻っても問題はない。アルバトロス国王陛下も失敗したことに文句を付けないだろうし、粛々と派遣料を請求するだけ。
「承知いたしました、と頭を垂れるべきなのでしょう……ですが、王太子殿下に一つお願いしたいことがございます」
「何か申して見せよ」
訝しげな顔をしつつも、許可をくれた王太子殿下。
「はい。我々アルバトロス側にも協議の場への参加と、枯れた聖樹の調査をご一緒にさせて頂きたいのです」
話し終えたあとに枯れた原因を徹底調査するのだろうけど、他国に頼る時点であまり期待が出来ない。それなら話に加わって、案や軌道修正させつつ聖樹復活の道を模索した方が良さげである。石頭そうなリーム王は都合よく気を失って、暫く目を覚ますことはないだろうし、王太子殿下の方が話を落ち着いて聞いてくれそう。
「そ、それは……」
内部事情を話すことになるだろうし、弱みを知られる可能性だってあるから、王太子殿下が躊躇するのは理解できる。本来ならリーム王が決断を下すべき案件だが、当の本人は気絶中。副団長さまの知識は豊富だし、お婆さまも居るからどうにかなりそうな気もするけれど。
『私も行くの? 面倒ねぇ……』
――魔力。
『分かったわ。協力しましょう!』
お婆さま、チョロい……。魔力魔力と念じるとコロッと態度を変えてくれたし、なんだかウッキウキなのだけれど可愛いからいいか。
「本来ならば国王陛下が決めるべきでしょう。ですが、聖樹が朽ちてしまったと同時、陛下もお倒れになりました。今、決断すべきは王太子殿下ただお一人なのです」
内政干渉と言われると引き下がるしかないが、事態の重さに思考力が下がっているだろうと、詰め寄ってみる。あと、決めたのはアンタだからなという、遠回しな牽制も含まれていたりする。さあどうするよ、と王太子殿下と確りと視線を合わして、答えを促す。
「分かった、同席を認めよう。だが、君たちに我々が乞うことは聖樹に対する助言のみだ」
聖樹を枯らしてしまったことで、議会の場で矢面に立たなきゃいけないことは理解している。ただ、これを放置するとリーム王国の国民に波及するし、アルバトロスの面子も潰れるので、どうにかしなきゃならないのだ。
「感謝致します」
それ以上は望んでいない。内政干渉ぎりぎりの所だから、高望みはしない。お婆さまと副団長さまに意見を頂きながら、適宜軌道修正が一番良いだろう。
さて、あとは事後報告になるけれど、アルバトロス側に報告して、議会の皆さまに受け入れられるのか、それが一番の問題だろうなあと枯れ果てた聖樹を見上げるのだった。
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