第226話:脅し。
どうにか彼を誘導できただろうか。かなり神妙な顔をしているけれど、腹を括ってもらわねば困る。不安を抱える民を上手く誘導して、教会まで突撃をかまさなきゃならないし。
「教会へ突入となった際には、わたくしの護衛騎士に貴方の背中を守って頂きます」
「な、何故そこまで……」
そこまでして無茶振りくんを守る理由を問うているのだろう。
彼を守ると言うよりも、竜使いの聖女が倒れ専属護衛騎士が、それに対して教会に不満を抱いているという演出だ。ジークとリンにも『黒髪聖女の双璧』と二つ名が付いているのだから、真実味を持たせるのに丁度いいし、民の背を押す役にもなってくれるだろう。
裏を話せば、無茶振りくんの監視役だ。尻込みすれば、剣を彼の首元へ突き付けてでも前に進ませるしかあるまい。暴動を起こさせ教会へ突入時に二人には王都の皆さまへ『殺さず捕らえよ!』と叫んでもらう予定でもある。
血の気が上がるとなにするかわからないので、抑止がないと危ない。無茶振りくんが同じ言葉を叫ぶよりも、効果はありそうだ。なにせ黒髪聖女の双璧である。
これでも歯止めが利かないとなれば『聖女さまは、そのようなことを望まれておられない』と悲痛な顔を浮かべながら適当に吹かせばいい。ジークなら機転が回るので、順守事項を決めて後は自由にしていいと伝えておけば良いように立ち回ってくれるはず。
「貴方を失う訳にはなりません。教会の不正を一掃した後、立て直しに尽力出来る方が一人でも多く必要となりましょう」
無茶振りくんにはその中の主柱になってもらわねば。一応、熱心な信徒さまらしいし、教義やらに詳しいだろうから神父さまか司祭さまにでもなって経験を積んだ後、枢機卿の座に就くといい。
私が教会の立て直しに関わるのは面倒だ。全権を無茶振りくんに委ねると言えば、暴動騒ぎに加担した人たちは納得してくれるはずだし。言うことを聞いてくれないなら、脅すしかあるまい。
「痛みを伴う改革となります。空いた穴を埋めるには、優秀な方でなければ」
王都の学院に通えるのだから、無能ということはあるまい。成績、それなりみたいだし。
「はい。私のような者に大役が務まるかどうか分かりませんが、誠心誠意努めさせて頂きます」
「誰でも最初は苦心するでしょう。その為の先達がいらっしゃいます。確りと彼らの声に耳を傾けていれば、結果は自ずと出ましょう」
教会の神父さまやシスターたちは良い人である。孤児の私に偏見なく接してくれたし、魔術も教えてくれた。孤児仲間も彼らにはお世話になっているから、彼らの寄る辺である、教会を潰す訳にはいかない。ただし、他人のお金を掠め取った連中には容赦しないけど。
「共に教会を腐敗させた悪魔を討ちましょう」
神の教えを破っているのだから、腐敗した教会貴族の呼び方なんて悪魔で十分。
「はいっ!」
無茶振りくんが頷いてくれなければ、隣の部屋から亜人連合国の代表さまとエルフのお姉さんズが出てきて、彼を脅す予定だった。
まあ、納得してくれたようだから問題はあるまい。エルフのお姉さんズは『面白くない~』『あら、残念』とか後で言われそうだけれど。
彼女たちもエンタメには飢えているようで、これから私が起こすことを話すとウッキウキ状態で話を聞いてくれたから。現場中継用の魔法具を用意するから、誰かに身につけて欲しいと頼まれたくらいだし。
妖精さんたちも面白いことが大好きなのか、今回の件に関してやけに協力的。対価に魔力を要求されたけれど、勝手に私のお金を取るより随分と可愛らしいお願いだ。あと魔力ってタダだから、吸い取りすぎること以外は何の問題もなく。魔力が欲しい時は『ちょーだい』とか『いい?』と、事前に聞いてくれるし。
アクロアイトさまが勝手に食べている魔力と、妖精さんたちがおねだりしてくる魔力に、王城の魔力陣への補填……私、どんだけ魔力量を備えているのだろうか。副団長さまとエルフのお姉さんズ合作の魔術具が、魔力の総量を上げているのならば良いけれど。
ちょっと回復が遅いので、エルフと妖精さんたちの合作の反物で作ったストールを身に着けていたりする。ぶっ倒れるよりマシだから、仕方ない。逃げられないように証拠を掴んでおくのも大事だから。
「本日はここまでと致しましょう。――詳しいことは後日ご連絡を差し上げます」
連絡があるまではいつもの生活を続けて下さいと付け加える。真面目な人が学院を急に休んだりすると、怪しまれそう。
ただ私に直訴をしたから、無茶振りくんは学院内では有名人となるだろう。こっそり護衛がついているので命の心配はないだろうし、口は堅そうだから心配は必要なさそうだけれど、追加で脅しを入れておいた方が良さげである。
『やるの?』
『やる?』
私の気配を読んだのか、妖精さんたちのきゃっきゃとしている声が聞こえる。どうやらこの状況を楽しんでいるみたい。無茶振りくんと話している間、ずっとこの部屋の中を飛んでたものなあ。
彼の目の前を通り見えていないことを良いことに、くるくる回って再び目の前で止まり舌を出して遊んでた。その行為を見た他の妖精さんがきゃっきゃ笑って、楽しそうだったものなあ。だったら期待に応えるしかあるまいて。
「今回の件はアルバトロス王国の教会だけではなく、聖王国の教会すら揺らぐ可能性もあります。――ご自身の行動には、くれぐれもお気を付けを」
そう言い切ると妖精さんが私の後ろでぺかーと光った。何の意味があるのかは分からないが、妖精さんたちなりのお遊びなのだろう。すると突然、遠雷の音。
まさか自然現象にまで介入したのだろうか。びくりと肩を震わせた無茶振りくんは、こくこくと何度も頷く。私は言葉を口にしただけで、他の現象は妖精さんたちの可愛いいたずらである。勘違いしないようにと言いたくなるが、演出としては丁度良いから黙っておこう。
「ジークフリード。彼を送ってあげて下さい」
後ろに控えているジークを見て声を掛ける。ずっと愛称で呼んでいたので、そう呼ぶのはかなり久方ぶり。苦笑いしそうになるけれど、我慢しないと。せっかく無茶振りくんを説得できたのだから、このまま家に戻って考える余地を与えないままで居させたい。
「承りました」
私の後ろから前へと進み無茶振りくんの下へと歩くジーク。
「――では、こちらへ」
「はい。それでは、失礼致します聖女さま」
そう言って無茶振りくんは部屋の外へと出て行き扉が閉まる寸前、アクロアイトさまが割と大きい鳴き声を一つ上げた。扉が閉まった後で珍しいこともあるものだと、私の肩の上に乗っているアクロアイトさまを抱き寄せると、手近な所に頭を擦り付けてる。
何だったのかと首を捻っていると、ジークと無茶振りくんが出て行った扉とは別の場所から、代表さまたちが顔を出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます