第160話:蔑称。
――下ろして……。
階下へ移動すると代表さまが宣言し立ち上がると、一同は起立。お姉さんBから代わってお姉さんAに抱きかかえられていた。子ども扱いだけれど、お姫様抱っこじゃないことが唯一の救い。
「あの、自分の足で歩けますので……それに手の中のものを落としてはなりませんので」
下ろしてくださいとアピールついでに、いまだに私の手の中にある大事な卵さまの存在も示しておかないと。
「竜の卵だよ。落としたところで割れるような軟弱さは持ち合わせていないから大丈夫~」
「竜種ってバカみたいな魔力持ちだから、火山口へ投げ入れても問題ないもの。――まあいいじゃない。エルフとか亜人って長命のヤツが多いから、小さい子供を見る機会なんて少ないし、可愛いのよ」
愛でさせて欲しいとお姉さんA。卵さまへ敬意が全く払われていないのだけれど、代表さまは気にした様子もない。なんだかちぐはぐだよなあと目を細めるけれど、もう一度アピールしておく。
「既に十五歳を迎えております。子供でないので……」
見た目は子供でよく揶揄われるけれど。エルフの方たちも背が高い方が多いので、そう勘違いするのは仕方ないけれども。
「あーごめんごめん。悪気はないの。ただ貴女みたいな子は珍しいから、甘えてもらえると嬉しいなあ」
でも十五歳って私たちの価値観からすると子供どころか幼子だよねえとお姉さんA。その言葉にうんうん頷いているお姉さんB。アルバトロス王国のメンバーは何も言わない。これ人質に取られていると解釈しても良さげなんだけれど、いいのだろうか。
「人間の成人っていくつなの?」
「国によって違いはあると思いますが、アルバトロス王国では十八歳が成人となります」
「成人していない子が、もう働いているの? 親の庇護下にいるべきじゃない?」
エルフや亜人は成人するまで親が子の面倒をみるんだけれど、とお姉さんズが首を傾げていた。親がいない状況って中々生まれにくいから、そういう考えは仕方ない。それに弱ければ、あの貧民街で淘汰されていただろうから。
「私は孤児なので働かなければ日々の生活が営めません。――ですので教会の方々に聖女として召し上げられたことは、幸運だったのでしょう」
その代わりに国を代表するメンバーに選ばれたり、大陸のギルドや各国を巻き込む大事に、携わってしまっているけれど。
「ああ、ごめんね。変なことを聞いちゃった」
そう言われ腕に力を籠めて、私を抱きしめ直す。
「気になさらないで下さい。親が居ないことはもう慣れていますし、仲間という家族が居ます」
だから平気だし彼らの為ならばどんな困難でも立ち向かうと伝えて、ジークとリンの方を向くと二人が頷く。多分きっと、家族ってそういうものなんだと思う。
「お? 確かにあの赤毛の双子たちからは君の魔力を微かに感じるなあ~」
うーん、ジークとリンに祝福をこれでもかと掛けていた弊害なのか。少々恥ずかしいけれど、大事な仲間だと伝わったのなら喜ぶべきことである。
「余程大事にしているのねえ」
「そういうことですので自分の足で歩けます。下ろして頂けると……」
「諦めが悪いわねえ。そんなに言われると余計に下ろしたくないので、却下」
ふふふとお姉さんは笑って、階下まで彼女の腕の中だった。とりあえず下ろしてくれたので胸をなでおろし、待機していたメンバーと合流を果たす。殿下や宰相補佐さまの顔を確認すると、残っていた護衛の人たちが安堵していた。どうやらかなり心配をしていた様子。
「ギルド長とやらは居るか?」
「はっ、はいぃい! この度はご許可を頂けていないドラゴンを当方の冒険者が勝手を働き、真に……真に申し訳ありませんでした」
「我が国の者が申し訳ありませんでした」
代表さまの言葉にびくりと反応し急いで頭を下げた、銀髪くんが所属している国の使者と冒険者ギルド長。
「私の目の前の愚物を無条件で差し出せば、謝罪は必要ない」
「ハーフエルフの二人も無条件で差し出して下さいね」
国にとって国民は財産だし、奴隷もある意味で財産だけれど、今回の場合は切った方が益があると直ぐに判断をしたようだ。勿論でございますと神速で言葉を紡いで、この難局から逃れようと大汗を掻いている二人。
「掟を破る者が居るのは仕方ないが、管理が出来ない、甘いでは意味がない。――直ちに冒険者ギルドが規定した掟を我らに示せ。是正の口出しをさせろ!」
「え……?」
「文句はあるまい。それとも我らを亜人と蔑む貴様らには無理なことか?」
あれ……矛盾しているような。『亜人』が蔑称ならば国名にはしないし、違う名乗りをしてもいい気がするけれど。
「どったの~?」
疑問があるみたいだねえと私の顔を覗き込んだエルフのお姉さんB。
「あの……聞き辛いことをお聞きしても良いでしょうか?」
「答えられることなら答えるし、問題があれば濁すけれど良い~?」
それは勿論だ。私だって聞かれて不味い事ならば逃げたり濁したりするのだから。お姉さんの言葉にひとつ頷いて口を開いた。
「無知で申し訳ないのですが、代表さまが仰られた『亜人』が蔑称というなら、何故『亜人連合国』と称しているのでしょうか……」
「そっちの方が人間には分かりやすいでしょう。私たちは自分の名前を大事にしているけれど、それ以外のものには案外無頓着だからね~」
「そうね。それに見下して貰っている方が楽だし、こういう時に使えるものね」
ふふふふ、と笑っているお姉さんズ。『亜人連合国』という名に、特にこだわりはないようだ。散り散りだった亜人を大陸北西部へ追いやった今、彼らの国に敵う相手は極少数。そもそも攻めていくことがなかったし、人間が攻めてきても防衛に徹していれば楽に勝てていた。
で、『亜人』という言葉を否定も肯定も彼らはしないので、定着していると。
納得して小さく頭を下げ、代表さまへと視線を向けた。どうやらお姉さんズと話している間に、代表さまとギルド長と国の使者さまの話が進んでた。
「時間を調整して大陸各国のギルドと国の代表者を集めよ。――また同じことを起こしてみろ、我々は人間全てを標的とするぞ」
また竜やそれらに属する方を殺めたならば、大陸各国を敵に回しても許さぬと宣言したのだった。
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