第95話:悪事露見。

 セレスティアさまの実家であるヴァイセンベルク辺境伯家が治める領地の魔物討伐依頼の話が舞い込み、それを了承して解散しようと各々行動を始めた時だった。


 「ああ、そうだ。――ジークフリード、ジークリンデ……親父とお袋が話があるから屋敷に来いつってた。使いを今日出すらしいから、手紙の内容を確かめてくれ」


 お茶は冷めていたけれど、勿体ないので飲み干すまでジークとリンに待って欲しいと言って、私だけが椅子に座っていた時だった。

 ソフィーアさまとセレスティアさまは入り口付近まで歩いていたけれど、こちらに何故か残っていたマルクスさまの声を聞き振り返る。


 「わかりました」


 マルクスさまの言葉にジークが答え、リンは頷くだけ。珍しく――失礼なのかもしれないが――真剣な表情で少し声のトーンも落ちていたマルクスさま。

 一体どうしたのだろうと後ろに控えていた二人の顔を見るけれど、心当たりはなさそうだった。片手を挙げてすたすた歩くマルクスさまと合流したセレスティアさまとソフィーアさまは、私たちを残して部屋を出ていった。


 「何だろうね」


 「ああ。男爵家の籍に入ったし、週に一度の伯爵さまとの食事会は夫人が止めてくれたが……」


 「何かあるのかな?」


 とまあ三人で顔を合わせても伯爵さまと奥方さまの真意はわかるはずもなく。部屋の片づけは学院が雇っている侍女の人の役目なので、とりあえず教会の宿舎へ帰って使者からの手紙を受け取り内容を読んでから考えようと決め。

 片づけが他人任せで良いだなんて、お貴族さまが多く通う学院らしいと苦笑いしつつ部屋を後にし、帰路へと着くのだった。


 そうして宿舎へと戻ると教会の職員さんが顔を出し、ジークとリン宛の手紙があると手渡しされる。


 私は関われないから自室に戻ろうとすると、ジークに止められリンに両肩を掴まれてくるりと転換され、何故か彼女の部屋へと連行された。


 「いや、私が関わっちゃ駄目なんじゃ……」


 「妙なことになれば、お前に打ち明ける羽目になる。なら最初から知っておけば良い」


 「だね、兄さん」


 確かに私たちで持て余す案件なら公爵さまや教会に相談するけれど。でも最初から私が関わるのはなんだか違う気がするけれど、当事者がそういうのなら構わないか。


 「わかった、居ればいいんでしょ、居れば」


 とまあ投げやりな言葉を二人に言い放ち、リンの部屋のベッドに腰掛ける。ジークは机の近くで立ったまま、リンは椅子に座って丁寧にペーパーナイフで開封し始めた。

 

 「兄さん」


 リンが開封した手紙の中身を取り出してジークに渡すのは、信頼の証なのだろう。

 

 「ああ」


 手紙へと視線を落とすジークを二人して見つめる。どうやら手紙の内容は長くはなく、直ぐに目線が上がってリンへと手紙を渡すとリンも同じように視線を落とす。


 「ナイ、はい」


 「読んでいいの?」


 「いいんじゃないかな」


 「構わない。――大したことは書いていないからな……」


 なんだか微妙な顔をしているジークに違和感を感じつつ、受け取った手紙に視線を落とす。どうやら書いた人は伯爵さまのようだ。奇麗とは言い難い字で綴られている。

 

 「……なんで今更」


 そう、本当になんで今更この話題を持ってくるのだろうかと、ぼそりと口に出してしまう。


 「まあな。それになんで俺たちを呼ぶんだか」


 「ね」


 手紙の内容はジークとリンに関わること……二人の母親が亡くなってしまった元凶を捕まえたので二人の好きにしていいから明日伯爵邸へ来い、というなんとも言えない手紙。

 

 「ごめん、聞こえたか……で、どうするの?」


 落としていた視線を上げて、二人に問いかけた。貴族籍に入ったジークとリンだ。相手が平民ならば切っても咎められない。だから相手を『私刑』にしても問題にはならないだろう。

 もしくは伯爵さまの部下や関係者なのだろうか。それならば伯爵さまがケジメを付けなければならないし、処分を二人に任せるというなら理解は出来なくもない。罪を犯したら司法に預けるのが一番だと考えてしまうのは、前世の記憶があるからだろう。


 「取りあえず伯爵邸には赴く。来い、ということだしな……」


 ひとつ息を吐くジークに、彼を見ながら困ったような顔をしているリン。感情の置き所が分からないのか、部屋には妙な空気が流れているのだった。

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