第60話:目の前に迫る。
ヒロインちゃんの魔眼解析の為に魔術師団副団長さまから、魔眼の効果抑止として呼ばれることが何度あったのか数えるのも億劫になってきた今日この頃。
またしても城へと呼び出され、幽閉塔へと足を向ける。途中、ソフィーアさまに会ってそのまま幽閉塔まで一緒に行ったり。その時に護衛兼監視付きの殿下と会って一悶着があったりと、中々に騒がしい日々を送っている。
そんな中でソフィーアさまのお茶会の後にセレスティアさまのお茶会にも参加した。
「領内で魔物が出まして……」
「ウチもです。――最近、討伐依頼が増えて困っておりますわ」
どうやら主催者が辺境伯家出身ということもあってか、家業が軍事関連のご令嬢方が多く参加されていたようで話の内容もなんだか物騒。
私は私で魔獣討伐の時のことを聞かれたので、素直に答えておいたら無難に終わると思っていたのがいけなかった。
とある一人のご令嬢が私の護衛役で付いてきたジークとリンに目を付けたようで。
「聖女さま。――聖女さまの専属護衛を私に譲ってくれませんか?」
「彼らは教会に所属し、教会の命で私の護衛を担っております。彼らが欲しいというのであれば、教会を経由して頂ければと思います」
ジークとリンが私の護衛に就いているのは彼らの意思が大きいけれど、対外的には教会が私に付けた専属護衛。
実力がなければ聖女の護衛任務になど就くことはできないので、結構厳しい審査があったりする。教会も魔物討伐の際や他国からの嫌がらせで聖女を死なせたり逃したりしないようにと、努力している為だ。
「なるほどそうですね。聖女さまには愚問でした。――後日、教会を訪ねてみましょう」
と高々に告げるご令嬢さま。私の言葉で高身長イケメン美男美女を侍らせられると胸を高鳴らせていたのか、怒りで青筋を立てているセレスティアさまに気付かなかったようだ。
「面白いことをおっしゃいますわねえ、そこのアナタ。――彼らは聖女さまに忠義を尽くしております。くだらぬ下心でその邪魔立てをするというのならば、このセレスティアが全力でお相手致しますが、どうなさいます?」
ご令嬢に圧力をかけたのだった。そうして彼女のオーラに簡単に折れてしまったご令嬢は、お茶会の間肩身の狭い思いをしながら時間が過ぎるのを待っていた。
やっぱりお貴族さまの空気には慣れないというのが、二回のお茶会に参加した感想である。
お茶会ではお茶は飲んでいたけれど、出されたお菓子にはほとんど手を付けなかった。まあ、その分持って帰ることが出来たので、構わないけれど。
そんなに持って帰ってどうするのだと問われたので、自分たちの分を少しと孤児院に持って行って配ると言ったら、もっと持って帰っても良いと二人は言ってくれたので有難かった。良かったことは、お菓子を持って帰れたことくらいだよねえと、教室の廊下側の自席でぼーっと教室を眺める。
謹慎処分明けの殿下と側近くんたちが、登校をしていたのだった。
ヒロインちゃんがこの教室から消えた時は、みんなホッとしている様子だった。一部の男子が残念がっていたようだけれど、日が経つに連れてそれはマシになっていた。
そして謹慎明けの彼らが教室に戻ってきたのだけれど、空気が悪い。まあ第二王子殿下は無言で椅子に座っているだけだし、側近くんたちも元気がない。婚約者であるソフィーアさまとセレスティアさまも、積極的に関わろうとはしていない。
この空気何とかならないのかと心の中で叫びながら一日一日が過ぎていく中、王国の建国を祝う日が近づいており、学院でもパーティーが開かれるとのこと。
学院の一年生は初参加という理由でパーティーの準備はしないと連絡があったので、楽しむだけなので気楽なものである。
「美味しいものあるといいね」
「ナイ、食い過ぎるなよ」
「この前も食べ過ぎてしばらく動けないって言ってたよね」
いつもの三人が集まって、あと数日と迫った建国祭の話をしていたのだった。この日は王都全体でお祝いムードだからいろいろと騒がしい。
孤児だった頃は関係のない話で、ご飯の調達をどうするかが一番大変だったけれど、本当に変わったものだ。三人で他愛のないことを話しながら、学院の大きな門を潜ろうとしていた。
「次に城へ行くのは何時だ?」
ジークが問いかけてくる。ソフィーアさまが主催したお茶会の時に私が城へ一週間に一度補填に行っている回数が他の人より多いことを二人は知っていた。何故言ってくれなかったのと聞くと、聞かれなかったからと割と塩対応な答えが返ってきた。
「明日だよ。建国祭の時は忙しいから、少し早いけれど補填しておいて欲しいって王家から要請がきたって言ってた」
街中がお祭り騒ぎになるので警備等で人が駆り出される為、城の方が少々手薄になるそうなのでその前に済ませておきたいとのこと。
「わかった」
こくりと頷く二人を見ながら学院が用意してくれている乗合馬車へと乗り込んで、教会の宿舎へと戻るのだった。
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