第2話

『海にいた人』 


 私がまだ子供の頃の話。海水浴場ではない遠浅の海。遊泳禁止の海の砂浜に座って、水際に打ち寄せる波の波紋を見ていた。


砂浜に少しくぼみがあるのを見つけて近づくと、長細い紙が半分砂の中に埋もれていた。


引っ張り出して見ると、漢字で何か書かれていた。


 それはお経のように思い、海に流してあげた方がいいと考え、砂浜を歩いて海の水際の中にそっと置いた。


歩いて戻り浜辺に座っていると、波が打ち寄せて私のお腹の上にその長い紙が乗ってきた。


 私はまたその紙を、海の中へ流しに行った。近くにいた人が「あれは触らない方がいいよ」と言った。


海で少し疲れて、帰ってから昼寝をしていると、お腹の上に何かが乗っているように重くなり、体は動かない。


 「あの場所にいたかったのに!」少年の怒った声で姿は見えない。私はごめんね、ごめんね、と声にはならず、起き上がろうと抵抗するが、重みについには耐え切れず、体の中まで入ってきた。


少年はすごく怒っていた。その後、私のお腹の中で消えていった。


 もし海に自分のお札があれば、他には何も無くて寄る辺とするだろう。私はそれを海へ流してしまったのだ。


私はそれ以来、絶対に海でお札を触らない。海の淵にいた人(お札)は、その後に何もなかった。


 あの少年は海に帰ったのだろうか。

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