海の淵

かおりさん

第1話


『海の淵』


 ある東北の海の透明度は高くて、波打ち際から5mくらい先まで海中が見える。


水際から2.3mは砂浜が続き、その先からは一気に深みへと海の色が変わる。


砂浜はでこぼことした壁となり、徐々に深みへと続いていく。


その先は風浪がすべり来る、水際の碧色から深縹一色が見渡す限り続く。


 足元を波に濡らさないように、海の壁を目で追うが、深みの先はこの海の色と一体となり、海の淵となる。


遠くではサーファーが、こんなにも深い波に乗るのかと、怖くも思うが波を待つ間の穏やかなひとときに、「あっ!見てる」と顔を合わせ、でもその表情までは互いに見えない。


 私は初めて海の淵を見た。


このサーファーのことではない。

岩場の上にいた時に、海の淵に紙がゆらゆら近づいてきた。細長い縦書きに漢字でお経のように書かれていた。


波は凪、海の淵に紙が静かに浮かんでいた。海の上での一期一会の今生の別れだった。


生きたかったね。つらかったね。


波が動き出すまで、ずっと側にいた。


 海の淵の美しい色を今も憶えている。その後に何度も海へ行ったが、他では海の淵を見たことはない。


時々、テレビで怖い話しをみると、本当に怖くなる。でも、もしその場にいたら。


恨みとか怨念とか、もしかしたら生きている人の心にあるのではないだろうか。


 海の淵に今も誰かが対話をしている。


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