第35話 支配者

 見事魔王に打ち勝ち、ルングーザ王国に戻った俺たちは盛大な歓声に迎えられ……とは行かなかった。


 俺たちが魔王を倒したことはまだ報告されていないし、兵の多くはスノーデンの治安維持に出払っていて3割程度しか残っていない。


 俺とリッチは人気の少ないテリブ城の廊下を歩く。すると途中で反対側からドテドテと走ってくる王様と、その後ろにいるアストミアの姿を見つけた。


「コジマ様! いかがされましたか!」


 王様が少し距離があるところから大声で尋ねてくる。そんなに大した距離は走ってないはずだが、ぜいぜいと肩で息をしていた。


「魔王倒しましたよ。正確には収納しました」


「は?」


 俺がさらっと言うと王様はポカンとした表情になった。


「コジマ様! それは本当でございますか!?」


 アストミアが笑顔を輝かせながら言う。そう言えば魔王を倒したら、アストミアを嫁にもらえるなんて話もあったな。う~ん……悪くない。悪くないぞぉ!


「ああ、本当だよ」


「コジマ様……あなたならできると信じておりました……」


 アストミアが涙ぐみながら言う。


「し、しかし困りましたな……魔王領まで確認の兵を出すのでしばしお待ちいただけますか?」


 王様が思案顔で言う。


「確認の兵って……普通の兵士じゃ魔王の城までたどり着けませんよ」


 ていうか俺が倒したって言ってるのに信じてくれないのかよ。まあ俺尾をする側だとしたら、仕方ないかもしれないけど……


「それでは……お手数なんですが、兵を連れて魔王の城まで行っていただくことはできませぬか……?」


 えー、また戻るの? まあ確かに魔王城に残してきたフローゼンの様子も心配だけど……そういや、魔王領をフローゼンにあげるとか約束しちゃってたな。王様怒るだろうか……


「わかりました。ただ、現在魔王領は魔王軍四天王だったフローゼンに任せてあります。魔王領の統治はそのままフローゼンに任せるとお約束していただけますか?」


「フローゼン? なぜフローゼンに?」


「いや、途中で仲間になってくれて、魔王を倒すのに協力してくれたんです」


「フローゼンが……仲間に……?」


 王様は訝しげな顔で見てくる。まあ敵の四天王が仲間になったなんて、なかなか信じられないよね……というか俺の隣にいるのも四天王の一人なんだけど。こっちは完全に言うタイミングを失っちゃったから、黙っていよう……


「まあ……コジマ様がお決めになったことですからな。かまいませぬぞ」


 王様は少し思案したものの、了承してくれた。これでフローゼンにいい報告ができるぞ。魔王城まで戻る意味が出来た。


「わかりました。では明日には出発できるように準備を整えておきます」


 俺は了承の返事をする。


「お父様、私もコジマ様と一緒に参ります」


「い、いかん! お前は危険だ、大人しく城で待っていなさい」


「しかしコジマ様だけにご苦労を掛けるわけには……」


「お前では足手まといだ。コジマ様に余計なご負担をおかけするでない!」


「……はい」


 王様が一喝するとアストミアは押し黙った。まあ確かに魔王領は危険なところだ。行かないほうが賢明だろう。


 俺とリッチは久しぶりにいつもの宿でゆっくり体を休めると、翌日、数人の兵士とともに再び魔王城に向かって旅立った。



 あっ!



 という間に場面は変わり、俺たちは魔王城まで辿り着いた。


「これが魔王城……まるで廃墟ですね」


 兵士の一人が呟く。元から遺跡のようではあったが、魔王との戦いでリッチが呼び出した巨大な召喚獣によって一部が崩壊している。頑張ってフローゼンに再建してもらおう。


「よくお越しくださいましたわ、コジマ様」


 俺たちをフローゼンが出迎える。隣には竜の下半身を持つ女騎士、エキドナが立っていた。部下になったのだろうか……周囲にはゴブリンや重装オーガ、スケルトンといった多種多様な魔物たちが並んでいる。


 大丈夫だろうか、もしこれが全員俺たちに襲い掛かってきたら……この間まで敵だった面々を見て、俺は不安にならざるを得なかった。兵士たちは俺よりさらに不安なようで、互いに背中を合わせながらぶるぶる震えていた。


「リッチ、あのスケルトンって死者の軍団じゃないの?」


 俺はリッチに小声で尋ねる。


「いえ、違います。スケルトンはああいう見た目の生き物なんです」


 アンデッドですらなかったのか……


「や、やあフローゼン。体の具合は大丈夫かい?」


 俺はやや引きつった笑みで語り掛ける。


「ええ、快調ですわ。エキドナや他の兵たちも私に従っておりますし、魔王領は完全に掌握いたしましたわ」


 フローゼンの顔には微笑みが浮かんでいるが、その目は鋭く冷たい光を宿している。その悪役令嬢のような見た目はいかにも裏切りそうな雰囲気を醸し出していた。


「これも全てコジマ様のおかげ……ぜひともお礼をさせていただきたくて、特別なものを用意いたしましたの。オーガさんたち、アレをもってきてちょうだい!」


 魔王城の奥、暗闇の中から二体の重装オーガが現れる。そしてそのオーガたちに挟まれるように一体の人影が見えた。その姿にはよく見覚えがある……


「フ、フローゼン、それはまさか……」


「ええ、そうですわ。この世の頂点にして、至高の存在。この魔王領の本来の支配者……」


「や、やめてくれ……」


 俺は弱々しくつぶやく。しかしフローゼンはニヤリと笑った。そして、それはついに姿を現した。


「ご覧あそばせ……これがわたくしたちの真の王……コジマ様の銅像ですわ!」


 魔物たちの間から歓声が上がる。それは両手を突き出し、魔王を収納する間際の俺を象った銅像であった。ただし、だいぶ顔やスタイルは良い方に修正されている。


「や、やめてくれ……恥ずかしい……」


 俺は気恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯いた。

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