第36話 裏切り
フローゼンに魔王領の統治を任せることが了承されたことを伝え、俺たちは帰路についた。お土産に俺を象った木彫りの人形と、魔王領の地熱を利用して蒸した「コジまんじゅう」というお菓子をもらった。観光地かっ!
そんな感じでワチャワチャと確認の旅を終え、テリブへと戻った俺を王様が出迎えた。
「お疲れさまでした、コジマ様。お前たち、どうであった?」
王様は俺と同行した兵士たちに報告を求める。
「はっ。フローゼン様はお美しくてスタイルも良く、素晴らしい方でした」
「いやいや、私はエキドナ様のようなワイルドな感じが……」
何の報告してんだよ。
ところどころ心の中でツッコミを入れつつ兵士の報告を聞き終え、王様は深く頷いた。
「す、素晴らしい……コジマ様とお会いしてまだわずかだというのに……この国の危機を救い、憎き隣国スノーデンを滅ぼし、魔王軍を討伐する……コジマ様こそ伝説の……いや、それ以上の新たな伝説となった勇者様です!」
王様は瞳を潤ませながら、俺の手を掴み何度も上下に振った。
「ささやかですが、すぐに祝宴の用意をしましょう! どうぞごゆるりとお寛ぎください」
「おお、そうですか!」
俺は久しぶりの豪華な食事を想像して涎を垂らす。その時、俺の服の裾が引っ張られた。見ると、リッチが俺を見上げている。
「どうしたの?」
「あの……私、宴会とかが苦手で……」
あぁ、そうなのか……考えてみればリッチのことをいろいろ探られると面倒だし、先に帰ってもらうか……
「じゃあ、宿に戻っているかい?」
「はい、ありがとうございます」
リッチはぺこっと頭を下げると、一人で町の方へ向かった。
「助手の方は良いのですか?」
「ええ、まだお酒が飲めない年齢ですし……」
王様の問いかけを俺は笑ってごまかす。そしてしばらく後、王様とアストミア、そして貴族数人のささやかな宴が催された。
「ささ、どうぞどうぞ」
王様が次々と俺の器に酒を注ぐ。出来ればアストミアに注いでほしいのだが、断るわけにもいかず勧められるままに酒を飲み続ける。
「どうみょ、ありぎゃとうごじゃいます」
ステータスが高いせいか最初のうちは全然酔わなかったかが、呑み進めるうちにさすがに酔いが回ってきた。俺の呂律も回らなくなる。
「そうだ、コジマ様。皆に、コジマ様の技を披露していただけませんか? ぜひ末代までコジマ様の事を語り継ぎたいので……」
「あぁ、いいでひゅよ」
王様に頼まれ、俺はよろめきながらも立ち上がった。
「ちょりだひ!」
俺はアイデムボックスから適当にものを取り出す。木の枝や石、虫なんかが俺の手の先から飛び出した。
「うわぁ!」
周囲から悲鳴が上がる。いけね、さすがに虫は駄目だったか。
「しゅーのー!」
俺は慌てて虫を収納した。すばしっこい虫もいまの俺の動体視力ならあっさり捕まえられる。
「ほほう、これで魔王が収納できたわけですか……」
いまいち納得のいっていない様子で王様が呟く。確かにこんな能力で魔王を倒したと言われてもピンと来ないだろう。俺ももう一回魔王と戦ったら勝てる気はしない。というか絶対負ける。
「みゃあ、しゅーのーさえしちゃえば、どんな敵も無力化できちゃいまひゅかりゃ」
「その手を向ける動作はコジマ様の技を発動するのに必要なのですか?」
「しょーですにぇ」
ずいぶん細かいことまで気にするなぁ。
「どうもありがとうございました。いやー、非常に参考になりました」
「では、だいぶ酔っぱりゃってしまっひゃので、そりょそりょ……」
俺はだいぶ酔いが回ってしまったので、そろそろお暇しようかとする。
「いやいや、もう少し……ほら、アストミア。勇者様にお酒をお注ぎしなさい」
「はい。どうぞ、コジマ様」
アストミアが酒の入った器を持ち上げて待っている。そうか、じゃあもう少しだけ。そして杯を重ねるうちに、俺の目蓋は重くなっていった……
「う~ん、アストミアちゃん……ちゅっ、ちゅっ!」
寝ぼけた俺の唇に冷たい石の感触が伝わってきた。あれ? いつの間にか寝ちゃったのか……どうやら石の床にうつぶせに寝てしまっているようだ。でも宴をしていた部屋には絨毯が敷いてあったはずだけど……
俺は体を起こそうとする。が、なぜか体がうまく動かない。腕も足も、まるで何かで縛られているかのように……首は動くので周囲を見回してみる。小さな石壁に囲まれた部屋。小さな窓には鉄格子がハマり、部屋の唯一の出入り口は鉄で補強された頑丈そうな扉で塞がれている……これってまさか……牢? なんで俺はこんなとこにいるんだ? もしかして酔った勢いで、アストミアに何かして捕まっちゃった?
意識が戻るにつれ、俺は両手に走る激痛に気づいた。なんだこれ……めっちゃ痛いぞ……!? 俺は後ろ手に縛られ、さらに拝むときのように両掌がくっついた状態になっているようだ。動かそうとしてもまったく動かず、激痛がそこから走っている。これでは収納スキルが使えない……
俺がもがいていると、ガチャッと扉が開く。そしてふたつの足音が部屋に入ってきた。
「コジマ様! 何というお姿に……」
アストミアだ。地面に這いつくばる俺の前に駆け寄ってきて膝をつく。精一杯顔を上げると悲痛な表情のアストミアの顔が目に入った。
「お父様! これはいったいどういうことですか!?」
アストミアが鬼の形相になり、入口の方を見上げる。首が痛くて顔までは見えないが、王様らしき足が見えた。
「落ち着け、アストミア。これは必要なことなのだ。我が国にコジマ様にお支払いする報酬など用意できぬ。いや、払ったところで魔王を倒す力を持つ男を野放しには出来ん。我々はスノーデンも手に入れ、周囲の国に勝る国力となった。もはやこの男の力を借りずとも安泰だ」
いつもの媚びを売るような口調ではない。俺を見下すような態度で王様が言った。
「そんな……コジマ様がいなくなったとわかれば、魔王領やスノーデンの者たちが大人しく従うわけがありません!」
「その通りだ。だからこの男が他の国に行ったりしては駄目なのだよ。ずっとこの国にいてもらわねばね。誰かが面会に来ても多忙で会えぬとでも言っておけばしばらく持つだろう。念のため保険として助手の小娘に捕縛の兵を向かわせておる。いざというときはそこ小娘を人質に、こいつにいうことを聞かせるのだ」
「なんということを……そのような不義理を働いて恥ずかしくないのですか!?」
「恥ずかしい? そのような私情よりも国のことを考え動くのが王なのだ。お前もこんなどこの馬の骨とも知らぬ男と結婚したくないであろう?」
「そ、そんなことありません! 私はコジマ様と添い遂げるつもりで……」
「馬鹿を言うな! お前の器量ならいくらでも有力国の王子が結婚を申し出るだろう。こんな用済みの男と結婚して何になるのだ! 連れていけ!」
「お父様、どうか考え直してください!」
数人の兵が部屋に入ってきて、アストミアを連れて行ってしまったようだ。残った酒と手の痛みで鈍る頭でも、何となく状況は理解できた。
「最初から騙すつもりだったのか……」
俺は声を振り絞る。
「人聞きの悪い事を言うな。最初は……と言うより、お前が魔王を倒したと聞くまで、適当に相手の戦力を減らしてくれればという程度にしか考えていなかった。まさかあんな地味な技しか使えぬ男が魔王を倒してしまうとはな」
くそ、この野郎……ずっと厚かましいとは思っていたけど、こんな性悪だったとは……
「あがいても無駄だぞ。お前の技が使えぬよう、腕から手まで幾重にも縛った。さらに手には両側に返しが付いた特別製の釘を打ち込んである。無理に引き剥がそうとすれば手に大穴が空くぞ」
「なっ!?」
俺は驚きの声を上げる。手が痛いと思ったら釘を打ち込んだだって? ハンバーガーやサンドイッチに刺すプラスチックのやつみたいな役割ってことか。それを知ったら余計に痛くなってきた。
「大人しくしていれば助手ともども命くらいは助けてやる。まあ、一生牢屋で暮らすことになるがな。ははははっ!」
王の野郎は高笑いをしながら去っていった。
ちくしょう……覚えてろよ……!
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