第27話 器

 スノーデン王は皇帝で白髪であったがビシッと軍服を着こなし、俺が来るのを待っていたかのように部屋の入り口が見れる椅子に座っていた。


「フローゼンがやられたか……他の四天王をやったのもお前か?」


 スノーデン王が俺を睨みつける。


「ああ、そうだ。お前たちももうおしまいだ。降伏してもらうぞ」


 俺はデユランダルを構え、王に近づく。スノーデン王に抵抗する気は全くないように見えた。


「まったくお前たち勇者は……たまにやってきては自分たちが世界を救う希望かのような顔をする。ずっと魔王軍を抑えて来たのは誰だと思っているんだ? 命がけで戦っているのは自分たちだけだと思っているのか?」


 独り言を言うかのように小声でスノーデン王はブツブツとつぶやいた。


「あんたたちの言い分もわかるよ。支援もなく、ずっと自分たちだけ戦わされて、他国を恨んでるのもわかる」


「ふん、遅いわ。いつから始まったとも知れぬ魔王軍との戦いを、わしはどうにか止めたかった。だから一縷いちるの望みをかけて魔王軍と交渉し、共に手を組むことになったのだ。まさか魔王が話に乗ってきてくれるとは思わなかった」


「あんたたちの処遇に関しては良くするよう俺からルングーザ王に頼むからさ。とりあえず降伏するように、兵士たちに言ってくれないか?」


 俺はスノーデン王にお願いした。今はルングーザ兵たちが謁見の間で扉を閉めて立て籠もっている。早くしないとスノーデン兵が扉を打ち破ってなだれ込んできてしまう。


「……多くの反対を押し切って魔王軍と手を結んだのに、結果はこれだ。どの面下げて兵たちに命令なんてできようか。わしをどうするかはお前の自由だ。だが兵たちがどうするかは兵の判断に委ねる」


「わ、わかったよ……」


 俺はスノーデン王を連れて謁見の間に向かい、スノーデン兵たちに王を捕縛した事を告げ、降伏を迫った。


 兵たちが降伏するか心配だったが、王の命を案じたスノーデン兵はあっさりと降伏した。多くの兵から慕われているようだ。


「勇者よ」


 縄で縛られ、牢へと連れていかれる前にスノーデン王が俺に語り掛けてくる。


「魔王の強さは四天王などとは比べ物にならん。これで勝ったなどとは思うな」


 なんだ、最後に捨てゼリフか。と思ったら……


「……だがお前なら魔王に勝てるかもしれん。この不毛な戦争を終わらせてくれ」


 そう言い残し、スノーデン王は連れていかれた。正直、ルングーザの王様とは器が違うな……




 ルングーザに勝利の報を伝える伝令を出し、俺はリッチと少数の兵と共にスノーデンに駐留する。


 降伏したとは言ってもスノーデン兵は大勢いすぎて、牢にも入りきらないし管理もできない。一般兵は解放して指揮官クラスだけ幽閉していた。そんな状態で少数のルングーザ兵だけでは反乱が起きかねない。なので俺とリッチはここから離れられないのだ。


「いっそのことみんな死者の軍団にしてしまいますか?」


 リッチが物騒なことを言うが却下した。ルングーザの人々はどうか知らないが、俺個人としてはそれほどスノーデンに恨みがあるわけではない。犠牲は少ないに越したことはないだろう。


「ところでフローゼンってどんな人なの?」


 俺はアイテムボックスに入っている魔王軍四天王、フローゼンのことをリッチに聞いてみた。殺せば経験値になるのだろうが、はやり人間にソックリな女性、しかも美女となると躊躇われる。


「フローゼンは努力家ですね。それほど高い魔力を持っていたわけではないのですが、高度な魔法を習得することで実力をつけ、四天王にまで昇りつめました」


「へぇ」


 なるほど。確かに氷霞は範囲が限られていた。それはフローゼンの魔力があまりなかったからなのだろう。あんな高飛車お嬢様キャラみたいな感じでも、影で努力してたのか……いや、努力して力を身に着けたからこその自信だったのかもしれないな。


「フローゼンの氷霞も人の魔力を利用して力を発揮するタイプみたいだったけど、俺みたいに魔力が無くても効くの?」


「よくおわかりになりましたね。おっしゃる通り、魔力のない方には効かないタイプの魔法です」


 リッチが感心する。そうか、やっぱり効かなかったのか。中途半端に魔力をもらうより、いっそのこと魔力ゼロのほうが便利だな。良かった、良かった……




 数日後、一台の馬車が到着する。ルングーザ王が娘の女騎士アストミアと共にやってきたのだ。俺は城門で王様たちを出迎えた。


「いやぁ、さすがですな。勇者コジマ様!」


 ルングーザ王が揉み手をしながら寄ってくる。もはや商人のようだ。


「お怪我はありませんでしたか、コジマ様?」


 アストミアは真っ先に俺の体を心配してくれた。いい子だ……


「あぁ、大丈夫です。ありがとうございます」


 俺はアストミアに礼を言った。


「王様、スノーデンの王や兵士たちには寛大な処置をお願いします」


「なんですと? 奴らは我が国の住民を虐殺した憎き存在。打ち首獄門に処すのが適当ではありませんか」


 ま、まあ住民を虐殺したのは主にリッチなんだけど、自分の意志じゃないしな……


「ですが、彼らがいままで魔王軍と戦っていたおかげで皆さんが平和に暮らせていたということもあります。それにスノーデンを支配し続ける力がルングーザにはないでしょう? ここは和解の道を進むのが得策ではないですか?」


「む、むぅ……」


 王様は明らかに不満そうだ。


「お父様、コジマ様のおっしゃる通りです。これからの魔王軍との戦いのためにもスノーデンを敵に回したままでは勝てません」


 アストミアも俺の後押しをしてくれた。


「しかし、また我々に反旗を翻すかもしれんぞ」


「大丈夫ですよ。コジマ様がいらっしゃれば、彼らも迂闊な行動はできないでしょう」


「うむ……仕方ないな。わかりました、ここはコジマ様にお任せしましょう。どうかこの勢いで魔王を倒してくだされ!」


「は、はぁ……」


 俺はあいまいに返事をした。お任せされたくないんですけど……勇者、辞めたい……

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