第25話 氷霞
「き、貴様ら何者……うぐっ!」
「が、ガドラン様、どうして……うぎゃっ!」
スノーデンの本丸に乗り込んだ俺たちはリビングデッドマスターとなったガドランを先頭に突き進む。前に本人が「スノーデンでも指折りの騎士」と豪語していたがその通りの実力があったようで、現れる兵士を次々と斬り捨てていく。リッチの命令に絶対服従させられてしまうリビングデッドマスターは、かつての仲間でも容赦なかった。
脇や背後から来る敵はルングーザの兵が相手をしつつ、俺たちは王の部屋目指した。この城の内部を知っているガドランは道案内役としても非常に役に立った。よしよし、このままスノーデンを制圧出来たら、元に戻すことも考えてやるか……
ガドランの体には負の魔力が満ちているが、俺のアイデムボックスに入れられていたためリビングデッドマスターにされたての状態だ。時間が経てば人間が生きていくためには必要でもリビングデッドマスターとしては必要ない体の機能は死んでしまうらしいが、まだ肉体が生きているうちに負の魔力を取り除いてやれば元に戻ることも可能だとリッチは言っていた。
「敵襲だ!」
「中に入り込まれているぞ!」
だんだんと周囲がうるさくなってきた。さすがにこのままバレずに王様確保というわけには行かないらしい。時間がかかってしまえば数千人の敵に囲まれる。俺は思わず身震いした。
「ガドラン、まだか?」
「あの大きな扉が謁見の間、王の私室はその奥です」
確かに行く手には大きな扉が見える。いかにも重要そうな扉だが、警備の兵は立っていなかった。なんでだろう。罠があるのか……?
「謁見の間を通る以外のルートもあるかい?」
「王は用心深いお方でした。常に衛兵がいる謁見の間を通らないと王の部屋には行けないような構造にしていたのですが……今日はその衛兵がおりませんね」
ガドランが恭しく答える。なんかやばい気がするけど、通るしかないのか……
「急いでください、増援がやってきます!」
後ろにいるルングーザ兵が叫ぶ。確かに大量のガチャガチャという金属音が近づいている。スノーデン兵の鎧の音だろう。俺は恐怖からか、背筋がゾクゾクするのを感じた。
「よし、念のためガドランは盾を構えて扉の前で奇襲に備えてくれ。そこの二人、謁見の間の扉を開けてくれ」
俺は近くにいたルングーザ兵二人に、謁見の間の大きな扉を開けるよう指示をする。中で弓兵が待ち構えていて、開けると同時に撃たれるなんてことを避けるためにガドランに盾を持たせて前で待機させた。
「承知しました!」
ルングーザ兵が謁見の間の扉に手をかけようとした。
「うわ、冷たっ!」
ルングーザ兵が悲鳴を上げる。扉が異常に冷えているようだ。木製の扉だから良かったが、金属製だったら皮膚がくっついていたかもしれない。そう言えば凄い寒い。さっきから俺も体が震えることが多かったのは、単純に気温が低いからか……
「これはまさか……」
ガドランが呟くが、急いでいるルングーザ兵は気にせず扉を開けてしまった。扉を開けるなり謁見の間から白いモヤが漂い出てきてルングーザ兵の体に触れる。
「あえ?」
ルングーザ兵はわけがわからず間の抜けた声を出す。しかし次の瞬間、一瞬で全身が氷の塊となった。変な態勢で氷となったルングーザ兵の体はバランスを崩して床に倒れる。するとその体は砕け散り、赤い氷の結晶となって周囲に飛び散った。
「うわっ! こ、これはいったい……」
「お気を付けください、コジマ様。これは魔王軍四天王の一角、氷の女王フローゼンの仕業に違いありません」
ガドランが下がりながら注意を促す。俺も慌てて下がったが、白いモヤは謁見の間の入り口付近で漂っており、それ以上溢れ出てくることはなかった。謁見の間の中は腰の高さまで白いモヤが立ち込めており、部屋の床が高くなった場所、玉座の脇に一人の美女が立っていた。
白い肌に銀髪の妖艶な美女だ。露出度の高い、黒いドレスのようなものを纏っており、他の状況で出会っていたら生唾ゴックン間違いなしであろう。
「まったく、人間は不甲斐がなくて困りますわ。わたくしが念のため来ていなかったら、今頃どうなっていたことか」
フローゼンが見た目通りの上品な口調で言う。言葉とは裏腹に、カレーを作るのにニンジンを買い忘れたくらいの困った感しか出ていなかった。
「通してもらう……ってわけには行かなそうだね」
俺は白いモヤを警戒しながらフローゼンに言った。
「いいえ、どうぞご自由に。ただし無事に通れたら、ですけど」
フローゼンは余裕の笑みを浮かべた。
「この白いモヤは
「
これは困った。どうやらフローゼンは人を一瞬で氷らせてしまう恐るべき能力の持ち主らしい。そして後ろからはスノーデン兵が迫っている。
俺たちは絶体絶命の状況に陥っていた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます