第24話 王都攻略

 かくかくしかじか。


「な、なんと! 本当にそんなことになっていたとは……」


 俺の報告を聞いたルングーザ王は驚愕した。スワンの町はリッチに任せている。とは言ってもまだ魔力が全然戻っていないので、戦力としてはあまりあてにならないが……


「他の国に援軍は頼めないのですか?」


 俺は王様に尋ねる。


「使者は送っているのですが、スノーデンが魔王軍と手を結んだと聞いても話半分にしか聞いてもらえないようです。まあ他の国は直接的に魔王軍の脅威にさらされることも少なかったですし、その恐ろしさをあまり知らないのでしょう。それにあまり下手に出ては『保護』と称して軍隊を駐留させられ、実質占領されてしまう恐れもあります。ここはどうにか我が軍とコジマ様のお力だけで乗り切りましょう」


「乗り切りましょう、と言われましても……どのくらいの兵数が動かせるんですか?」


「わが軍の精鋭百人をコジマ様にお預けします。どうかそれで小癪なスノーデンと魔王軍を打ち取ってください!」


 俺は頭を抱えた。せめてもう一桁増やしてほしいところだが、ルングーザの国力を考えるとこれが限界なのであろう。過去の勇者様たちもこんな感じで無理難題を押し付けられたのだろうか……魔王を倒したことがあるのは伝説の勇者様とやらただ一人ということだったが、もしかすると他の勇者たちは途中でやってられるかと投げ出してしまったのかもしれない。


「う~ん、なんとか方法を考えてみます」


「頼みましたぞ。この国の未来はコジマ様にかかっております!」


 他力本願な王様に見送られ、俺は城を後にした。




 十日後の夜、俺はスノーデン王国の王都、テトラの町の前にいた。謎の男が死者の軍団を操ってスワンの町を落としたという噂は当然広まっている。死者の軍団が押し寄せることを警戒したスノーデン軍は王都テトラに立て籠もっていた。おかげでここまで来るのはスムーズであった。


 テトラはスワンやテリブの町とは比べ物にならない分厚く高い石壁に囲まれていた。形も星形になっており、押し寄せる軍勢を多方向から攻撃できるようになっていた。一定間隔で設けられた側防塔と呼ばれる防衛戦用の塔にはバリスタや投石機が設置され、近付く攻城兵器を破壊してやろうと睨みを利かせていた。


 テトラ城はそんな町の中心にあり、これまた分厚い城壁に囲まれている。しかもそこには数千人のスノーデン兵。兵力に劣るこちらはなんとかこの二重の防御を突破して、スノーデンの王を捕まえ降伏を迫らなければならない。


 相手の守りの厚さに眩暈を覚えながら、俺はリッチと二人きりで、テトラの町を見つめていた。


「本当に行けるかなぁ……」


「もちろんです。コジマ様ならできますよ」


 リッチは俺のことを信頼しきった目で見つめている。う~ん、嬉しいんだけど、俺のことをどんだけ買い被っているんだろうか……それとも俺が失敗しようがどうでもいいと思っているんだろうか。


 いかん、いかん。不安からついマイナス思考に陥ってしまう。俺は頭を振って不安を紛らわすと、両手で自分の頬をピシャリと叩いた。


「よし、やろうか」


「はい」


 リッチの心地の言い返事を聞きながら俺はアイテムボックスからあれを取り出した。


「テリブのお返しだ」


 俺のスキルによって、目の前に大量の死者の軍団と、スワンの町でせしめた攻城兵器が現れた。死者の軍団が攻城塔と破城槌とともにテトラの町へと迫る。投石機は少し手前に設置した。


「な、なんだ、急に敵が現れたぞ!」


 テトラの町の城壁の上で松明を持って歩いていた兵士たちの動きが急に慌ただしくなった。


「敵襲!」


「バリスタ準備急げ! あの攻城塔をつぶせ!」


 普通の軍勢が攻めていれば気合を入れるために大声を上げるのだが、死者の軍団は小さく埋め杭くらいで静かなものだ。なので相手の叫び声がこちらまで聞こえて来た。奇襲を受けたにもかかわらず、素早い対応でほどなくして矢の雨が死者の軍団の上に降り注いだ。次々とリビングデッドスレイブが倒れていく。


 すごいスピードで死者の軍団が減っていく。これは急がないと……


 俺の指示で投石機がうなりを上げた。


「後ろに投石機まであるのか!」


「火矢を撃ち込め! 暗くて何も……」


 スノーデン兵の慌てる声が聞こえる。


 しかしその声は遠ざかり、すぐに聞こえなくなった……




 ゴンッ!


「ぎゃっ!」


 い、痛い……だが死んではいない。俺はステータスを確認した。




小島修一 レベル51

HP 122/288

MP 102


ちから 80

素早さ 94

器用さ 67

魔力   0


スキル

無限収納アイテムボックス




 おぉう、半分以上HPを持っていかれた……俺は痛む体をさすりながら立ち上がった。先ほどまで聞こえていた喧騒は遠すぎてもはや聞こえない。


「おい、一体何が起こってるんだ!?」


「わからねぇ、とにかく敵が攻めてきているようだ! とにかく援軍に行くぞ!」


 どこか近くをスノーデン兵が通っていく。まだここの兵士は前線のことを把握できていないようだ。どうやら作戦はうまく行っているようだ。


 俺の作戦は簡単……というか、敵がテリブの町でしたことと同じだ。城壁を攻める部隊は囮で、本命は手薄になった中を攻める部隊。


 俺は投石機を使って自分自身を直接、敵の本城へ打ち込んだのである。


「さて……」


 俺は周りに人気がないことを確認して、スキルを発動した。


「うぉう!」


 俺が取り出したルングーザ王国の兵士たちが驚きの声を上げる。王様から託された百人の兵士だ。たった百人の兵でスノーデン王国の堅い守りを貫けるわけがない。つまり最初から敵の内側で戦えなければこちらに勝ち目はない……それがこの作戦の元となった考えであった。


「静かに。ここは敵の本城の中です」


「ほ、本当にですか? さっきまでテリブにいたのに……」


 ルングーザ兵は戸惑いが隠せない様子だった。本当にアイテムボックスの中では時間が止まっているのだろう。


「敵は城壁の応援に行って手薄になっています。今のうちに敵の王を捕えましょう」


 俺は兵士たちを落ち着かせつつも急かす。


「頼んだよ、ガドラン。君の力もあてにしてるよ」


 俺は兵士たちに混ざって取り出した、一匹のリビングデッドマスターに声をかけた。それはスワンの町で敵の指揮を執っていた司令官、ガドランであった。元の剣の腕が良かったうえにリビングデッドマスターとなり能力が強化されている今、戦力として相当頼りになるはずだ。


「……はい、お任せください」


 内心はどう思っているのか知らないが、いまやリッチの忠実な部下となったガドランは俺の言葉に頭を下げた。


「そ、その者は一体……!?」


 兵が怯えた声を出す。そういやリッチのこととか一切説明してないんだよな……どうしよう……


「か、彼はスノーデンを裏切って、いま俺に仕えてくれている武将で……祖国を裏切る心労で顔色悪くなっちゃってるけど、気にしなくて大丈夫だよ」


「そ、そうですか……」


 いまのガドランに比べたら死体の方が健康そうに見えるレベルだが、兵士たちは納得できないながらも疑問を呑み込んだ。ここは敵地のど真ん中。見た目が気持ち悪くても味方は多いほうがいい。

「さぁ、行きましょうか」


 俺もデュランダルを抜いて構えると、兵士たちとともに敵の城内へと足を踏み入れた。

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