第20話 国境
俺はスノーデンの状況を確かめるべく、リッチとともにテリブを旅立った。本当は馬を使いたかったのだが、残念ながら乗馬なんて生まれてこの方したことがない。最寄りのスノーデンの町までは四日ほど歩けば着くので、とことこと歩いていくことにしたのである。
「これは……コジマ様、いったいここで何があったのでしょう!?」
リッチが森の中に突如広がった発掘現場のような場所を見て驚いた。俺が調子に乗って収納しまくってしまった場所である。
「ちょ、ちょっと、俺が訓練をしてね」
「さすがコジマ様ですね」
誉めてくれるリッチにまんざらでもない気分になりながら先を進む。三日ほど進むとスノーデンとの国境に差し掛かった。
「あれは……」
道を遮るように検問所のようなものが作られている。木の柵に木の門、物見やぐらのようなものまで置かれていた。木の色を見るとまだ真新しい。木の門は閉められ、スノーデンの秘密が明かされるのを拒絶しているかのようだ。
「スノーデンの国境警備所です。敵を防ぐためと言うよりは、魔王軍との同盟を極秘にするために情報が漏れるのを防ぐために作られたようです」
ある程度の内部事情を知っているリッチが教えてくれる。
「……何人くらい敵がいるの?」
「それほど多くありません。恐らく十人くらいだったかと……」
十人か……今の俺なら……
そんなことを思っていると見張り台からスノーデン兵が顔をのぞかせ、俺に気づいた。
「おい、親子連れがいるぞ!」
「弱そうだな、やっちまうか」
たった二言で悪い奴らだとわからせてくるスノーデン兵。これなら情けはいらなそうだ。俺はそいつらの会話に気づいていないふりをして近付く。
「へへ、矢の練習をさせてもらうぜ」
いかにも三下っぽいセリフを吐きながら、スノーデン兵が弓で俺を狙ってくる。空気を切り裂いて、一本の矢が俺の額目掛けて飛んできた。しかしそんなものはもちろん、俺の「壁」によって収納される。
「あれ?」
スノーデン兵は矢がどこに言ったかわからず間の抜けた声を上げた。
「リッチ、一応これに隠れてて」
俺はリッチにラウンドシールドを取り出し渡す。単純な物理攻撃はリッチには効かないらしいが、そうは言っても少女が矢の攻撃にさらされるのは良い気分ではない。
「はい」
リッチも素直に盾を受け取ると、低い体勢でラウンドシールドで体を覆った。
それを見届けた俺は「壁」を展開したまま進み続けた。門のところまで来ても、俺は気にせずそのまま進む。まるでそこに最初から存在していたかのように、ぽっかりと奇麗な四角い穴が開いた。
「なんだ、どうなってる!?」
スノーデン兵たちが動揺する。門の脇でカードゲームに興じていたらしい数人の兵が慌てて立ち上がった。まさか門を突破して入ってくる者がいるとは思わなかったのであろう。
「カインはどこ行った!? 門のとこに寄りかかって煙草吸ってただろ!」
……どうやら門と一緒に、一人収納してしまったらしい。まあいいか。スノーデン兵はばらばらと武器を手に取って俺に向かってくる。さて、どうしよう。デユランダルで相手をしたら、みんな真っ二つにしてしまいそうだ。いまのところ人間は直接的には殺したことがないので、ちょっとそれははばかられる。そうだ、あれをやってみるか……
「ぐわぁっ!」
二人のスノーデン兵が吹き飛ぶ。俺が取り出し、振り回した丸太によって。
「こ、こいつ丸太を振り回してるぞ! 鬼か!?」
俺も漫画でこの戦い方を見たときは衝撃だったが、それを現実に目の当たりにしたこいつらにはさらに衝撃的だろう。
それでも怯まずに剣を振りかぶって逆側から三人ほど襲い掛かってきた。しかし俺は軽々と丸太を振り回し、その三人を吹き飛ばす。丸太を叩きつけられたスノーデン兵はみな気絶した。
「こ、こいつ化け物だ! 逃げろ!」
残ったスノーデン兵が逃げていく。もし仲間を呼ばれたら面倒だ。かわいそうだけど、ここは……
俺はリビングデッドマスターとの戦いでも使ったクロスボウを取り出す。矢はすでに装填されている。そして逃げるスノーデン兵の一人に放った。
「ぐっ!」
矢を受けたスノーデン兵が足をもつれさせて倒れる。
「クロスボウを隠し持ってたのか!」
「落ち着け! クロスボウの装填には時間がかかる。いまのうちに逃げろ!」
残ったスノーデン兵がそう言いながら逃げ続けようとした……が――
「うわっ!」
「うごっ!」
他のスノーデン兵も次々と俺のクロスボウの矢に襲われる。そう、俺は王様からもらった支度金でクロスボウをありったけ買ったのだ。クロスボウの弱点は矢の装填に時間がかかること。ならば最初から矢を装填したクロスボウを大量に収納しておけば連続で撃てるではないか……お金があればだけど。
これも収納スキルあってこそだ。矢を装填したクロスボウを大量に馬車などで運ぼうとしたところで、矢が暴発してしまうかもしれないし、弦が伸びてクロスボウを威力を出すのに必要な復元力が失われてしまう。一切、何からの影響も受けず時が止まるアイテムボックスを使えるからこそ使える技だった。
全てのスノーデン兵を戦闘不能にし、俺は自らの強さに酔いしれ……ている場合ではなかった。
「危ない、コジマ様!」
リッチの叫び声が聞こえる。何事かと振りむくと、俺に向かって飛んでくる矢が目の前に見えた。しまった、まだ最初に矢を撃ってた見張り台の上のやつが残ってたか!?
カツン!
俺の額を痛みが襲う。俺は小学校の頃、いじめっ子にされたデコピンを思い出した。
「へ……?」
地面に落ちた矢を見つめて俺は状況が理解できず間の抜けた声を出す。見張り台を見上げると、俺を撃った兵が同じ表情で俺を見つめていた。
もしかしてあれか? 俺はステータスを確認する。
小島修一 レベル51
HP 278/288
MP 102
ちから 80
素早さ 94
器用さ 67
魔力 0
スキル
なるほど、ダメージを食らうとこうなるのか……俺は見張り台に近づくと、見張り台を収納した。
「ぐべっ!」
上から落ちて来たスノーデン兵がカエルみたいな声を上げて気絶した。
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