第19話 1ポイント


 リッチから情報を手に入れた俺は報告のために城へと向かう。兵士が忙し気に城門から出入りしていた。門の警護をする衛兵が俺を見るなり敬礼をしてくる。どうやら俺の顔も徐々に知れ渡りつつあるようだ。


 王様もアストミアも多忙なはずだが、俺が面会を求めるとすぐさま応じてくれた。


「お忙しい中ありがとうございます」


 俺はぎこちなく頭を下げる。


「いやいや、救国の英雄を邪険にするわけにもいきますまい」


 王様は営業スマイルを浮かべた。


「あの……コジマ様」


 アストミアが俺に近寄ってきた。


「そちらの女性は?」


 そして俺の耳に顔を近付け、小声でささやく。アストミアの美しい顔が近付き、俺はドキッとしてしまった。


「か、彼女は……実は俺の助手でして……」


「まあ、助手の方がいらしたんですか?」


「え、ええ」


「そうですか……良かったです。てっきりそういうご趣味なのかと……」


 アストミアは大きな胸をなでおろした。


「ちょうど、近隣の村の調査が終わったところです。アストミア、ご報告を」


 その様子を見ていた王様がアストミアを促した。


「はい。他の死者の軍団の痕跡は発見されませんでした。ひとまず安全は確保できたと思っていいかと思います。ただ、スノーデン方面の村々はやはり相当な被害を被っていました。再建には相当時間がかかるかと……」


 アストミアの報告に、俺は気まずくなった。なんせ原因は俺の横にいるリッチなのだ……横目で見ると、リッチも気まずそうに俯いている。


「ま、まあ俺がもっと早く見つけられていれば良かったんですけどね」


 俺は取り繕うように言った。


「すいません……こんなことになってしまって……」


 リッチはそう言うと頭を下げた。おお、自分から罪を告白するか……確かにリッチは多くの人を殺した。しかし魔王軍側にも事情はあるし、スノーデンに利用されている感もある。ここはリッチに今後、協力してもらうことで罪を軽くする方向に持っていきたいが……


「誰も予想はできませんでした。致し方ありません。コジマ様たちが早く見つけて下さったおかげで被害は抑えられたのですから、そんなに落ち込まないでください」


 アストミアがリッチを慰める。ん? なんだか話がかみ合っていないような……


「でも直接的にではないにしろ、私が村人のみなさんを殺してしまったんです」


「そんなに自分を責めないでください。みなそれぞれの立場で力を尽くしたんですから」


「ですが何かしらの責任を取らなければいけませんよね」


「いまは悔やんでいる時ではありません。過去のことにとらわれず、これからのことを考えましょう」


 ……どうやらリッチが助手という設定と「もっと早く見つけていれば」という話を俺が先にしたことで、リッチの自白をアストミアが「自分たちの力不足を悔いている」と勘違いしているようだ。


「えっ、じゃあ許してくださるんですか?」


「許すも何もありません。一緒に力を合わせましょう」


 熱意とやさしさのこもった目でリッチを見ながらアストミアはリッチの手を取った。リッチも潤んだ瞳でアストミアの手を握り返していた。これでいいのだろうか……まあ、いいか。


「では、この件は終わりにするとして……俺が仕入れた情報だとスノーデンは魔王軍と手を結び、世界征服をするつもりのようです」


 俺はリッチから聞いた話を切り出した。


「な、なんだと!? スノーデンは陥落したわけではないのか!?」


 王様が驚く。


「まあ本当かどうかは実際に確認してみないとわかりませんが……」


「本当であれば事態は一刻を争う……コジマ様、調査に行っていただくわけには行きませんか?」


 王様はすがるような目で俺を見た。結局、そうなるのか……


「わ、わかりました。明日、スノーデンに向けて出発いたします」


「おお、ありがたい! よろしくお願いいたしますぞ」


 王様は笑みを浮かべた。




 城から出た俺たちはその足で冒険者ギルドに向かうことにした。途中、路地に隠れて、ギルドで売れそうなものを取り出す。そしてパンパンの麻袋を肩に担ぎ、ギルドへと入った。


「これはこれはコジマ様」


 いつもの営業スマイルの美人受付嬢が俺の姿を見るや否やすっ飛んできた。俺も重要人物になってきたということだろうか……Eランクだけど。まあランクが低いからって困ることもない。よく異世界マンガでは主人公が冒険者ギルドで不当に低いランクだったりするけど、こういう感じなのかもしれない。


「コジマ様、パーティーを組まれたのですか?」


 受付嬢がリッチを見ながら聞いてきた。


「そ、そう、やっぱり一人だと色々危ないからね」


「コジマ様と組むくらいですから、さぞかし優秀な方なのでしょうね」


 受付嬢は営業スマイルのままリッチを値踏みするように上から下まで眺めた。


「ま、まあ、いまは試用期間みたいなものかな。ははは。それでは」


 あまり詮索されてもまずい。俺はリッチの手を引き、そそくさとその場を離れた。


 そしていつも通り買取窓口で色々売り払うと銀貨6枚ほどの値段が付いた……勇者と呼ばれるようになってもこんな風に稼ぐとは思ってもいなかったな。このお金でリッチに何か装備を買ってあげるか……


 俺は武具屋に向かう。いつもは念入りに観察するセクシーマッサージ屋の前を通り過ぎようとした……のだが。


「コジマ様、ここは何のお店ですか? 異様なオーラを感じます」


 リッチがお店の放ついかがわしい雰囲気に反応してしまった。だ、だめだよ、リッチ! ここはお子様が関わってはいけないお店なんだ!


「し、知らないけど、確か関係者以外立ち入り禁止の場所だったかな? だから僕たちには関係ないよ。さあ、行こうか」


 俺が店の前から立ち去ろうとしたその時……


 ドンッ!


「いてぇな、どこに目を……!」


 店の中から勢い良く出て来たバイパーズのリーダー、ジルベルトと肩がぶつかった。


「あっ、コ、コジマさんじゃないですか!」


「お前、何回ぶつかったら気が済むんだよ! 頭コアラか!」


「す、すいませんでした!」


 ジルベルトは逃げるように去っていった。ジルベルトのせいで偶然、目に入ってしまった店の前に貼られたチラシには「本日限定サービス! 熟女ヴァンパイアの濃厚吸引ドレイン! 魂々たまたまがカラッポになるまで吸いつくしてア・ゲ・ル!」と書かれていた。熟女のヴァンパイアっていったい何歳なんだろう……?




 そんなハプニングがありつつ、俺たちは武具屋へと到着する。


「リッチ、付けたい装備ある?」


「え、でも私お金なんて……」


「いいよ、買ってあげるから。あ、でも高いのは無理だけど」


「ほんとですか! ありがとうございます!」


 リッチは顔を輝かせてアクセサリーのコーナーを物色した。魔法の効果がある、とかではなくて普通の装飾品としてのアクセサリーだ。


「えっと……そういうのじゃなくてさ、怪我をしないように防具とかいらない?」


「防具ですか? でも私、物理攻撃なら効かないんですけど……」


「え、そうなの!?」


「これでも不死の王ですので……」


 原理はわからないが、魔法、もしくは魔法を付与された武器、もしくはミスリルの武器じゃないとリッチは傷つけられないそうだ。結局、水晶をあしらったネックレスを銀貨一枚で購入した。そして俺のポイントカードに1ポイントが付与されたのであった。

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