第17話 謎の少女
死者の軍団の襲撃により、一般人に30人ほどの犠牲者が出たらしい。だがあれだけの数の死者の軍団を全滅させたことで王様は胸をなでおろしていた。王様をはじめ、王国首脳部には俺が無限収納スキルを持っているという話をしたが、「ふ~ん」くらいの反応であった。俺もまあ、最初は「荷物がいっぱい持てるスキル」くらいの認識だったからわからなくもないけど……
スキルの実演も兼ねて、俺は王様たちの前で真っ二つにしたリビングデッドマスターを取り出した。
「うおっ!」
驚きの声が上がる。スキルに対してなのかリビングデッドマスターに対してなのかはわからないが。リビングデッドマスターは周囲の人間に襲い掛かろうともがいているが、上半身と下半身がバラバラのため両腕を振り回しているだけだった。
「これは……!?」
教会の神官が目を丸くしてリビングデッドマスターを凝視する。
「こんなのが10体くらいいました。これが不死の王ってやつで間違いないですよね?」
俺は尋ねる。こいつが元凶のはずだ。そうじゃなきゃ困る。
「それはなんとも……不死の王が10体もいるという話は聞いたことがありませんし……」
「と、ということはこれのさらに親玉がいるって可能性も……?」
「否定はできません」
マ、マジかよ……こいつらよりさらに強かったら、さすがに勝てる気がしない……それに……
俺はゾンビに付けられた手の甲の傷をさすった。俺もこのままゾンビになってしまうのだろうか……
それから数日が経過した。今のところ俺はゾンビにはなっていない。体調が悪い気がするのは、本当に体が負の魔力とやらに侵されているのか、ゾンビになるかもという不安からくるものなのかはわからない。
現在、王国は先日のゾンビ被害の調査に追われている。周辺の村やゾンビが他にも潜んでいないか、アストミアも加わり兵士総動員で確認中だ。俺は首都防衛の切り札として待機するよう言われている。国内の確認が終わり次第、スノーデンの偵察に同行することになっていた。
とは言っても、街中にずっといるのも退屈なので、また森に出て馬防柵をさらに作ることにした。火を焚いて、火のついた木の枝もいっぱい収納しておく。先日のゾンビの襲撃で、明かりとなるものがあればもっと戦いやすかったかもと思ったからだ。水もいっぱいあった方がいいかな。土も収納しておくか。あと石も……
気が付くと森の一部が完全になくなり、発掘現場みたいに土がむき出しの状態になっていた。ちょっとやりすぎたかもしれない……
まあこうなってしまったものは仕方ない。元に戻すスキルなど俺にはないのだ。売れる物もそこそこ手に入ったし、途中で襲ってきた狼も何匹か倒した。デュランダルでスパッとしたので今度は毛皮も高く売れるだろう。しばらく木に吊るして血抜きし、解体して収納した。
よし、そろそろ帰るか。俺は街道沿いに町へと戻る。そして町の近くまでさし掛かった時……
「……ッチ……くだ……い……」
ん? 道端で少女がなにやらか細い声で呟いていた。童話に出てくるような格好の美少女。年は10才くらいだろうか。こんなところで何しているんだろう……
「こんなところでどうしたの?」
俺は声をかける。少女は怯えたような、それでいてすがるような目で俺を見上げている。俺はしゃがんで少女に目線を合わせた。
「……ッチ、かっ……くだ……ま……か……?」
声が小さい……俺は周囲を見回すが、保護者等は見当たらない。こんな狼も出るようなところに子供を置き去りにするなんて、ひどい親だ。
「大丈夫? 怪我とかしてない?」
俺は優しく声をかける。少女はふるふると首を振った。そしてまた何かをつぶやく。
「……ッチ、かってくだ……ませんか……?」
お? これはもしかして童話にもあるマッチを売っている少女? なんでこんなところで?
「かってほしいの?」
俺が聞くと少女は頷いた。おお、合っていたらしい。
「いくら?」
俺が値段を聞くが、少女は首を傾げた。
「何か食べれて……寝るところがあれば……」
「え? 暮らしていけるくらいってこと? それはちょっと……親御さんはいないの?」
少女は頷いた。もしかしてゾンビに両親を殺され、孤児になってしまったのだろうか。
「ちょっと答えにくいことかもしれないけど……もしかして、死者の軍団に関係してる?」
少女は俺の言葉に目を見開いた。そして戸惑いながらも首を縦に振った。そうか……こんな可愛い子をひどい目に遭わせるなんて……許さないぞ、魔王軍め……!
「わかった。しばらく俺が面倒を見るよ。ついておいで」
「……ありが…う……」
俺は少女の手を引いてテリブの町へと戻った。そして宿に戻り、少女に食事をさせた。少女は少しづつ食べ物を口に入れ、よく噛みながら時間をかけて食事をした。俺はお茶を飲みながらそれを見守り、宿の主人に部屋をもう一部屋用意してもらった。死者の軍団の襲撃を受けたこともあり旅人が来ないので、宿はガラガラだ。主人としても俺が二部屋を長期間借りてくれるのは嬉しいようだ。
少女が食事を終えたので、俺は部屋で少女に詳しい事情を聴いてみることにした。
「君はどこから来たの?」
「……魔王領」
魔王領? そこにも人が住んでいるのだろうか?
「ふ~ん……君の名前は?」
「……リッチ」
リッチ? 変わった名前だな……
「あんなところで何をしてたの?」
「……死者の軍団でこの町を襲撃したら失敗しちゃって」
ん?
「……それにどういうわけか魔力も奪われちゃって」
ん? ん?
「……帰ろうとしたら、魔王軍ナンバー2の座を狙ってる四天王の一角、獣王ケルベロスから『魔力を失ったお前など用無しだ』と魔王軍から追放されてしまって……」
ん? ん? ん?
「ちょ、ちょっと待って! 君は……魔王軍の一員なの?」
「ええ……お気づきだったんですよね? 私に『死者の軍団に関係してる?』とお聞きになりましたし……」
いや、そういう意味で聞いたんじゃないんだけど……
「私はリッチ……魔王軍四天王の一角、不死の王と呼ばれていました……」
驚愕の中で俺は気付いた。少女が森の中でつぶやいていた言葉に。
『リッチ、飼ってください』
少女はそう呟いていたのだった。
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