第10話 決闘
ルングーザ王国の王都テリブにそびえるテリブ城。その城門にアストミア、バイパーズの面々の後ろを俺はついて歩く。門の横に立つ衛兵たちがビシッと音が聞こえそうな完璧な敬礼をする。軽く手を挙げてそれに答えるアストミアに続いてぞろぞろと城門に入って行く……
「おい、貴様は何だ」
と、俺が入ろうとした時だけ衛兵が槍で俺の行く手を遮った。
「通しなさい。その方も私のお客様です」
「は、はっ! 失礼いたしました!」
衛兵はアストミアの言葉に槍をどけるが、俺を胡散臭そうに見ていた。その向こうではバイパーズが腹を抱えて笑っている。くそう、俺だって場違いなことはわかってるよ。俺は明らかに装備が駆け出し冒険者な上に、革鎧は中古で小汚い。城に招待されるような風体ではない。来たくて来たわけでもない。全てはバイパーズが俺の手柄を横取りしようとしているせいだ……!
さらに敬礼する衛兵を通り過ぎること数回、俺たちは広い部屋に出た。いわゆる謁見の間というやつだろうか。天井が高く、赤いカーペットが入り口から奥に向かって敷かれており、奥の一段高くなった床の上には豪奢な玉座、それに王冠をかぶった中年の男性が座っている。あれが王様に間違いない。他にも部屋の脇には高そうな衣服をまとった者たちがこちらをジロジロと見ていた。たぶん貴族たちなのだろう。
俺はもちろんだがバイパーズすらも緊張の面持ちで動きが硬かった。アストミアは周囲の視線を気にすることなくずんずんと奥へと進んでいき、玉座の前で立ち止まる。
「お父様、ジャバックを倒したとされる勇者様候補をお連れいたしました」
「なんじゃ、アストミア。確認が取れたわけではないのか?」
アストミアは立ったまま王と話している。宮廷での礼儀作法など知らない俺からしても礼儀を欠いているのではないかと思った。ただ会話の内容から察するに親子なのであろう。ただ王女様が騎士として敵と戦っていたというのはどういうことなのだろう。よほど兵士がいないのか、それともアストミアの腕が立つのか……
「はい、それが……ジャバックを倒したという者が二人おりまして……」
アストミアは横目でこちらを見た。
「あれはバイパーズだな。彼らなら安心だ」
「そうだな。しかしその後ろの小汚いのは何だ……?」
貴族たちがひそひそ小声で話しているのが嫌でも耳に入ってくる。それともわざと聞こえる大きさで話しているのか。
「しかし魔石を冒険者ギルドに持ち込んだ者こそジャバックを倒したものなのでは?」
王様が首をひねる。
「はい、それはこちらのバイパーズのリーダー、ジルベルト様で間違いないようなのですが……」
「では決まりだろう」
「それが、私が気を失う前に見たのは後ろにいるコジマ様なのです。私が倒れていることを知らせた者の外見を教会の者に尋ねましたが、それもコジマ様と一致します」
覚えられていたのか……
「ふむ……見たところジルベルト様の方が勇者様のような気がするが……」
王様が完全に見た目で判断を下している。さ、差別だ!
「お父様、どちらが本当にジャバックを倒したか……そこは気にせずとも良いのかと。我々が探しているのは魔王を討ち倒せるという伝説の存在、勇者様。この際、お二人には剣を交えていただき、勝った方にこの国の命運を託しましょう」
な、なかなかな事をおっしゃってる……要するにジャバックを倒したのが嘘だろうが、強ければいいと。その上、勝ったら勇者様として魔王と戦わされるのか……なんかやばそうだな……
同じく不安げな様子のジルベルトと目が合う。場合によっては勇者の押し付け合いが始まるかもしれない……
「と、ところで、その勇者と認定された場合はどうなるので?」
ジルベルトがアストミアに尋ねる。
「わが軍の指揮権を握っていただき、魔王軍が攻めてきた際はそのお力をお貸しいただければと」
一人で倒して来いとか、数人だけで倒して来いってわけではないのか。比較的良心的……なんだろうか。
「あくまでも指揮であって、先陣切って戦えというわけではないのですね?」
ジルベルトがさらに確認をする。自分は危険な目に遭いたくないという本心がモロ見えだが、確かに大事な確認だ。
「もちろん出来れば戦っていただきたいですが、戦いで命を落とされては大変です。その辺りはお任せすることになります」
アストミアの説明にジルベルトは露骨にほっとした表情になる。
「お任せください。このジルベルト、見事この男に勝利し、大任を預からせていただきましょうぞ」
さきほどまでの態度が嘘のようにジルベルトは居並ぶ貴族や王様に優雅な礼をした。このやろう……
そんなわけで俺は城の庭でジルベルトと対峙している。王様やアストミア、貴族たちが周囲に立ち決闘の行方を見守っていた。最初は木刀をアストミアが用意してくれたのだが、ジルベルトが「真剣でやりましょう」と余計なことを言ったせいでそれぞれの武器でやることになってしまった。俺はもちろん木刀でやりたかったのだが、周囲の貴族たちまでジルベルトの提案に賛成したのだ。どうやらちょっとしたショーを楽しみたいらしい。俺の血が派手に飛び散るショーを……
「へへっ、良い引き立て役になってくれて礼を言うぜ」
俺にだけ聞こえる声でジルベルトがささやく。
「やっちまえ、ジルベルト!」
「がんばって~!」
ジルベルトの仲間から声援が飛ぶ。
「始め!」
アストミアの号令がかかる。俺とジルベルトはお互い武器を抜いた。
「ほう……良い剣じゃないか。おまえにはもったいない。あとでもらってやるよ」
ジルベルトが俺のデュランダルを見て笑みを浮かべる。なんでもかんでも思い通りになると思うなよ……そう自分の心を奮い立たせようとするが、緊張と恐怖で剣の先が揺れる。考えてみればちゃんと戦ったことはまだ一度もない。果たして勝てるのだろうか……どこかでバレないように無限収納を使えれば……
「やれやれ。完全に素人だな」
ジルベルトは俺の震えや構えから、俺が剣の心得がないことを見抜いたようだった。腐っても一流冒険者だな……
「少しは見せ場を作ってやろうかと思ったが……さっさと終わらせてやるか!」
ジルベルトが剣を振り下ろす。盗賊とは比べ物にならない、威力、速度、迫力が込められた一撃だ。
「ひっ!」
俺は情けない声を上げてその剣をかわす。
「ちっ!」
ジルベルトは俺がかわしたとみるや、今度は低い体勢でこちらに飛び掛かると同時に突きを繰り出した。肉食獣のような俊敏で獰猛な一突きだった。
「うわっ!」
俺は咄嗟に横に避けた。闘牛のように真横をジルベルトの体が通り過ぎる。
「……! このやろう、ちょこまかと!」
振り向いたジルベルトは怒りの表情を浮かべていた。すぐさま、また俺に斬りかかってくる。一振り、二振り、三振り……Cランク冒険者の称号にふさわしい、鋭い攻撃だった。
……なのに、どうして俺はかわせるんだ?
ジルベルトの顔に焦り、やがて戸惑いの表情が浮かぶ。俺はジルベルトの一挙手一投足が手に取るように把握できていた。これは一体……?
そこで俺はあることに気がついた。もしかして俺、めちゃくちゃレベルアップしてる? あるとすればジャバックを倒した時だ。あの時はゴブリンに囲まれて慌てていたし、どうせレベルアップしても新しく何かを覚えることなんてなさそうだから、しばらくステータスを確認していなかった。そう言えば次の日から朝の目覚めが良かったり、狼の死体を何匹も軽々運んでたな……
体力の限界なのか、ジルベルトは攻撃の手を止めてぜいぜいと肩で呼吸をしていた。信じられないといった表情で俺の顔を見つめている。よし、反撃してみるか。角度をちょっと調整して……と。
俺はジルベルトに前蹴りを放った。格闘技の試合でもよく見るやつだ。これで試合が決まるような大ダメージを受けているところは見たことがない。だがジルベルトは俺の蹴りを食らうと盛大に吹き飛んだ。あー、俺もトラックにひかれたときそんな風に飛んでたわ。
吹き飛んだジルベルトは応援していたバイパーズの戦士、アイザックに衝突し、巻き込んで倒れた。そうなるように俺が蹴る方向を調整したのだ。
「ジルベルト! アイザック!」
バイパーズのメンバーの女魔術師が悲鳴を上げた。
「そ、そこまで! 勝者、コジマ様!」
そしてアストミアが俺の勝利を宣言した。
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