第17話 儀式
「ここが俺たちのアジトだ」
ステルス機を降りて到着したのは、イタリアのコロッセウムだ。アジトの中には、いずれも屈強な掃除と肉体をもった老若男女の傭兵が渦巻いている。コロッセウムの中心には猛き炎に祀られた、頭と下半身が黒山羊、上半身が女、漆黒の大きな翼を背にした不気味な銅像がある。
「すまない。ここのアジトに入るには、『儀式』が必要なんだ」
「『儀式』?」
「アイ、お前の片目、もう一つの機械でない肉眼を俺に撃たせろ」
フランクの目が鈍い光を放つ。アイの目を、肉眼の目を見据えている。
「私の目を、撃つ?」
「そうだ。それがここの儀式であり、通過儀礼だ。」
アイは自身の心が動揺するよりも、安堵の気持ちに揺らぐのを不思議に感じた。
そうか。
新しいアジト、そしてそこに入るために必要な通過儀礼。
その痛みは、過去に仲間を失った痛みに比べて、塵のようなものだろう。なにしろ、痛覚などとうの昔に置いてきたではないか。
「いいわ。私の右目の1つぐらい、捧げるわ。」
「よし。ではヒューズ、仲間を中央の『black demon』の前に集めろ。ウルフ、お前は神器に弾を込めて、俺に渡せ」
「了解」
ヒューズは相変わらず軽い口調で答える。
「とっくに神器の準備はできてるぜ」
ウルフが取り出した銃は、スナイパーライフルの形をしているが、その模様が変わっていた。
銃口の先が銅像の羊と同じ形をしており、銃身はやはり若い女の乳房と羊の下半身がうつぶせになったような模様をしている。
「では、『儀式』の開始だ」
フランクの指示を合図に、アジトの中にいる傭兵たちはぞろぞろと銅像の前に集まりだす。ざっと100人といったところか。
「アイ」
フランクの重い声がアイの耳に鎮まる。
「逃げるなよ」
「ええ」
フランクはアイの真意を、本当にアジトの一員として迎えられるための準備ができているのかを見定めていたが、アイにとっては、ただの杞憂でしかなかった。
仲間、死体ではない、生きている仲間たちが目の前にいるのに、踏みとどまる理由があるだろうか。
一瞬、ビリーの自害の銃音が脳裏をかすめる。
アイは銅像の前で、5m先のフランクの銃口を前にしている。
アイとフランクを囲む傭兵たちは、アイをじっと、暗く、かつ戦の影を慮る目で見つめていた。中には、これまでの通過儀礼でトラウマでもあるのか、泣き叫ぶものもいたが、近くの仲間に慰められ、泣き声はすすり泣きに変わった。
「これより、通過儀礼をおこなう。道半ばに出会ったモノ、名前をアイ。このモノを我が同志として迎え入れる。異論のある者はいるか。」
「ノー、サー!!!」
傭兵たちの野太い声がコロッセウムに響く。
「よし。では、ウルフ、神器を」
「イエッサー!」
ウルフが素早くフランクの懐に入り、膝を抱え、神器を差し出す。
「アイ、片目を捧げよ」
フランクの声は、やはり寂しい。
「イエッサー!」
ぱんっ
アイは撃たれた。
右目から滴る血の味は、涙と同じ味がした。
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