第13話 回帰2

「き…ろ……。起きろ。起きろ!」

 誰の声?ここha…。

「アイ、聞こえてたら瞬きしろ」

 まば…たき。

「よし、生きてるな」

 なかま、ジミーの声。

「基地に帰るぞ。仲間と合流しよう」

 ジミーの背中、温かいな。

「眠いよ、ジミー」

「基地に着くまで我慢しろ。もう少しだ」


 炎に包まれた森を、ジミーは駆け抜ける。左目が潰れ、下半身を失くしたアイを背負い。折れた大木、散乱した仲間の四股を乗り越えて。

「アイ、右目は見えるのか」

「ええ、見えるわ」

「これが、この景色が、テッドが俺たちに見せたかった景色だ」

「テッドが、私たちに…」

「俺たちは実験体だ。試されてるんだ、全てを。…腕を離すなよ」

 ジミーの肩にアイの腕がより一層強く引き締まる。

 急速に過ぎていく横の視界に、茂みの暗闇から伸びた銃口を捉える。右、左、斜め左上。

「見えてるぞ、雑魚が」

 腰のナイフポケットからナイフを取り、低姿勢で急加速。茂みに蛇行して接近。銃弾は3方向から頭、腹、太腿の付近を掠める。銃口のやや斜め右上にナイフを投げる。1つ目の右の銃口が力を失くして垂れた。

「後ろ!」

 アイの声。振り向くと同時に左回り。背後に露出した敵のナイフの突きが脇下を抉る。敵の首元にジミーのナイフが刺さり、引く。脱力した敵を盾に、銃弾を吐く茂みから木陰に。

「敵を任せた」

「了解、ジミー」

 ジミーは木陰を飛び出し、2つの銃弾の列を掠めながら左周りに走る。アイは敵のナイフを放つ。1つの銃弾が止む。最後の銃口がジミーから外れ、アイを捉えた。だが、弾は流れない。ジミーのナイフが先だ。

「ナイスだ。右目のアイ」

「どういたしまして」

 アイの右目は闘志を取り戻していた。アイを抱えたジミーは、背中でそれを感じ取った。

「今の敵は…」

「おそらくテッドの手駒だ。俺たちと同じな」

「どういう意味よ」

「今に分かるさ」


 深い闇に囲まれていた視界が開ける。狂った戦場と成り果てた森の中、基地は依然として静寂に包まれていた。

「仲間は…」

 バタバタバタ。

 アイの囁くような声を掻き消す、ヘリコプターの轟音。

「アイ、ジミー、生き延びたのは貴様らだけだ」

 ヘリの中に、2人の軍兵とテッド。死人を観るようなテッドの目と、アイの右目が重なる。

「テッドオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 吠えるジミーのナイフは、瞬間、テッドの両脇の軍兵に撃ち落とされる。

「あの軍兵、あれは私たち?」

 ヘリコプターは轟音を更に響かせ、アイとジミーを見下ろすように浮上する。

「また会おう。オリジナルチルドレン」

 遥か彼方、テッド達は霧散するかのように消えた。

 アイの右目は、崩れ落ちるジミーと、テッドの底なしの目を映したまま、忽然と時が止まったように虚ろを映していた。

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