第5話 任務
「こちら2班。敵機排除確認。オーバー」
「了解。他チームとB地点に合流後、ヘリで回収する。帰還せよ。オーバーエンドアウト」
「了解」
アイはテッドとの無線を交わした後、同じチームメンバーのサリーとチャーリーにその旨を伝えた。
「まさか。初任務でロボットの自爆を拝む羽目になるとはな」
「チャーリー、今回の私たちの任務はあくまで敵機の『排除』よ。むしろ、無駄な手間が省けて助かったわ」
「相変わらず、どこまでも忠実だな、アイは。なあサリー?」
「ええ。せっかくの初任務なんだから、腕試しついでに銃ぶっ放しまくって、でかい功績をあげたかったわ、私はね」
サリーはじれったそうに手元の重機関銃をいじりながら、自身の初任務の成績不振を危惧していた。
「『1人の身勝手な行動は、チームを滅ぼす』。ボスか言われなかった?」
「わがままなのは承知の上よ。だけど、私たちがここまでどれだけの訓練を積んできたか、その努力を証明するには、結果を残すしかないのよ?」
「サリー、気持ちは分かるけど抑えて。何を焦っているの?」
「それは、アイの言う通りだな。初任務だからって、何もそこまで思いつめなくてもいいじゃないか。さあ、はやく他の奴らと合流しよう」
チャーリーとアイが同調して、サリーを落ち着かせるように話しかける。
特殊軍事演習プログラムに参加した、全374人の訓練兵から選び抜かれた少数精鋭メンバーの18人は、自身の軍事戦闘能力の全てに奮いをかけて、『ALL I DO』の傘下に加わっている。軍の保持する莫大な技術・予算・労力を注ぎ込んだ、彼ら18人『新型HB8号機』は、その最先端軍事技術の価値を誇ると同時に、他国からの侵攻を阻むための最終防衛線であった。国は、その脅威を示すことで他国の魔の手を逃れようと、『新型HB8号機』の急速かつ偉大な軍事成果を『ALL I DO』に求めた。
サリーは自身の家族の身を『ALL AI DO』の安全保護下に置かせることと引き換えに、彼女自身の半身を国家の軍事力の一部として受け渡すことで、家族の人権と彼女の半身を『国』という天秤にかけた。
それゆえ、彼女の挙げる軍事成果は、その成果が高ければ高いほど、家族の生活水準の質を向上させるがために、彼女の任務にかける思いは、文字通り身を削るほどの覚悟を伴っていたのだ。
しかしこの初任務での彼女の焦りは、ロシア軍事基地付近における時間が経過するとともに、徐々に強まっていた。少なくとも、同じチームメンバーのアイの目にはそう映っていた。
「なんだってロボットが自爆するわけ?おかしいわよ」
「おかしいのはあなたもだわ、サリー。ロボットの自爆を見て気分でも悪いの?あんた、そんなに柔な根性の持ち主だったわけ?それとも、初任務だからって、あがってるの?」
アイとサリーの顔が、お互いの真正面の顔を向き合わせる。
「冗談じゃない。いつ私があがってるって?あんたはボスの言いなりのロボットちゃんだもの、ヒトの感情なんか分かるはずがないわ。」
「まあ落ち着けよ。お前ら2人とも半身ロボットなんだから、仲良くしようぜ」
「「あんたにいわれたくないわ」」
アイとサリーの声が重なる。
ふと、2人の笑い声が同時に湧きおこった。チャーリーはそんな2人を不思議そうに眺める。
「悪かったわ、アイ。私ちょっと、緊張してたみたい」
「ええ、私もごめんなさい。言い過ぎたわ」
「なんだかよくわからないけど、急ぐぞ」
3人が再び、他のチームメンバーの合流に向かおうとした時だった。
「ぱんっ」
と乾いた発砲音が鳴り、サリーの重機関銃がチャーリーの背中を射抜いた。
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