書籍版二巻発売記念 彼女と彼女の可哀想な友人

「――ごめん、もう一度言ってくれる?」

 高校時代からの友人の言葉に、水瀬みなせ英梨えりはまず自分の聞き間違いを疑い、次に相手の本気を疑って、結局自分をごまかすことができずに、もう一度真実と向き合うことにした。

「だからね、伊織いおりくんの誕生日プレゼントに、コスROM? って言うのを作りたいから、協力してもらえる?」

「聞き間違いじゃなかったかぁ……」

 去年はあまり見られなかった友人の朗らかな笑顔も、話題が話題だけに手放しでは歓迎できなかった。

「……なんでそんなの作ろうと思ったわけ?」

 泥沼の気配を感じつつも、一応方向修正のとっかかりを探そうと聞いてみれば、天道てんどうつかさはさも名案を聞かせようとするようにドヤ顔を浮かべた。

「彼ね、PCゲームが好きなんだけど。よく遊んでるゲームって、結構えっちな感じのキャラクターが多いのよね」

 ひどい誤解だ、と当人が聞いていたら嘆くであろう偏見も、ゲームにうとい英梨はそうなんだと素直に受けとってしまう。

「ゲームの女キャラって大体そんなもんじゃない? それで?」

「だから私がコスROMつくってあげたら喜ぶかなって、行ってあげられないときにも寂しくないだろうし」

「そういうのは言わなくていいから。まぁ、喜ぶか喜ばないかでいえば喜びそうだけど、さすがにそれが誕生日プレゼントは微妙じゃない……?」

 英梨の中では、志野しの伊織という青年の全容は掴みかねているものの、恋人にえっちな画像を送られて、素直に喜べるほど単純な性格はしていないように思える。

「そうかしら……」

「あとなんかエロ前提みたいに聞こえたけど、ただのコスROMなんでしょ?」

「コスROMって、コスプレしたえっちな画像をまとめたものじゃないの?」

「それ、絶対他人の前で言わないでよ……」

 畑違いではあるものの、コスプレした画像集以上の意味はないはずだ。おそらく。

「そういう表現もあるだろうけど、それだけじゃないはずだから」

「そう? じゃあえっちなコスROM撮ろうと思うんだけど、協力してもらえる?」

「言い直したところで普通に嫌なんだけど……大体、衣装はどうする気よ、衣装は」

「多分売ってたり、作ったりしてるでしょ? それで頼む気だけど」

「志野の誕生日っていつだったっけ、そんなに時間ない気がするけど」

「十一月二十七日。あら、知らないの英梨? 納期ってお金で左右できるのよ」

「悪い金持ちみたいな発言やめなって。あとアタシは撮らないからね」

「え、なんで?」

「どこに友達の彼氏の誕プレのために、友達のエロい写真とりたがるのがいんのよ!」

「大丈夫、全部脱いだりしないから。コスプレでそういうのNGなのよ?」

「そういう話じゃないんだって……」

 完全に人の話を聞かないモードに突入した友人に溜息をつく。

「カメラは貸すから、自分で撮るか、ほかのに撮ってもらって」

「いやよ、だって英梨が一番私を綺麗にとってくれるじゃない?」

「――それは、そうだけどさ」

 趣味を同じにする知人から、つかさへ被写体になってもらえないか、と仲介を頼まれたことは過去に何度もあった。

 自分たちのあいだにお世辞なんて今更必要じゃない、本心からの言葉だと分かっているからつい表情が緩みそうになる。

「だからって志野のためにエロ撮んのはいやかな……」

「ええー?」

「っていうか、マジにもっと別なのにしてやんなよ。アイツも多分微妙な顔するって」

「うーん、そう言われるとそうなんだけど……でも付き合って最初の、しかも二十歳の誕生日になるんだし」

「あんまりインパクト強くても二回目以降がかすむんじゃないの?」

「それは、そうなのよね……」

 うーん、と真剣に悩み始めた姿に、難を逃れたのにほっとするのが半分、そんなに真剣に考えてもらっている友人の恋人へのもやもやが半分。

 それが英梨に、思い付きを口にさせた。

「いっそもう酒でも飲ませてさ、体にリボンでも結んで『プレゼントは私』ってやったら? 志野ってそういうの好きそうじゃん」

「あぁ、それの準備はもうしてるし、絶対するけど。ただほら、形が残るものもあげたいじゃない?」

 そうしてすぐに後悔することになる。

 友人の目は、この上なく真剣だった

「――へえ」

「下品になりすぎないくらいでエロカワな下着があったの、見てみる?」

「いい、いらない」

「そう? じゃあ伊織くんの反応だけ、聞かせてあげるわね」

「それもいいから……」

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