後方腕組彼氏面したいだけの人生だった……。

 ミスキャンパスはその名の通り大学で行われるミス・コンテストで、おおむね学祭の催事の一つとして実施され、僕らの大学もそのご多分に漏れない。

 今のご時世、外見至上主義への批判もあって、廃止や性別問わずの形態に移行するところも多いようだけど、地方のこっちではまだそこまで声は大きくなかった。

 そんなミスキャンパスコンテストで僕の恋人で少々ワケありだけど大変顔の良い女子でもある天道てんどうつかさは、彼女の友人でこちらもやべー女子の葛葉くずのは真紘まひろとともに八人のエントリー者のうちの一人としてお披露目の日を迎えていた。

 今日のお披露目イベントのあとにはWeb投票があって、八人の中から六人のファイナリストが選ばれることになっている。

 そこからグランプリ発表の学祭最終日まで、学内での各種イベントに加え、SNSやら特設サイトやらでアピールする本番の日々が始まるわけだ。

 天道の挑戦を全面的に応援していくつもりだけど、いざこの日を迎えるとやはり少々落ち着かないものがあった。

 なにせ以前に比べれば彼女の悪評を耳にすることは減った(単に恋人の僕の前でははばかられるだけかもしれないけど)とは言え、調べた限りだとそもそも良くない評判が表に出てるのなんて天道と葛葉の二人だけだったからな……。

 ここで綺麗にそろって予選落ちしたら文字通りのノーコンテストだ。

 そうなったとき「決着をつけましょ」みたいに葛葉へドヤってた天道への慰めの言葉なんて思いつかない。他人事なら「ウケる」の一言で済むんだけどな……!

「――ねえ、さっきからうるさいんだけど」

「何も言ってないのにひどくない?」

「いや、俺もちょい揺れすぎだと思うわ」

「かみやんまで……!」

 僕の落ち着かない心中とは裏腹に綺麗に晴れた十月の空の下、体育館前に設けられたステージを前に、恋人の友人である水瀬みなせ英梨えりが遠慮ない意見をぶつけてくれば、僕の友人の神谷かみや大輔だいすけもそれに同意する。

「つかしのっちなんで腕組みしてんの?」

「や、彼氏がすなる後方腕組といふものを僕も一度してみたくって」

「『更級さらしな日記』みたいに言うじゃん……」

「土佐でしょ、土佐。あとステージから見たらこっちって前方だけど」

「客席の後方だから……」

「余裕ないんだかあるんだか……」

 天道とは高校からの付き合いであるらしい金髪の水瀬は、今日もジャケットに細身のパンツで、デジタル一眼カメラを構えたいかにもっぽい姿をしている。

 ただ懐かない猫を通り越して唸ってる犬みたいな、警戒心とほのかな敵愾心を感じさせるような態度が鳴りを潜めているのが、今までとは違うところだ。

「水瀬さん、なんかあった?」

「なんかって、なに?」

「や、前までもっと刺々しかったじゃん」

「しのっち愚痴ってたもんなあ」

「アンタら、普通それを当人目の前にして言う……?」

 言われるサイドにも問題がないかなって思うけど、よくよく考えればデリカシーに欠ける気がしないでもないな。

 そうか、こういうところを積み重ねたのが非モテへの道なのでは?

 いいや、それなら僕は非モテでいい(ただし天道は除く)。

「まぁ、ちょっと感じ悪かったと思ったから。つかさにも言われちゃったし……悪かったわね」

「水瀬さんって謝る機能ついてたんだ」

 てっきり全自動友人の彼氏睨みマシーンかなにかと思ってた。

「それはマズいですよ!」

「ハッ倒すわよ、二人とも。あとそのとってつけたような『さん』付もいいから」

「了解、じゃあまぁ休戦? ってことで」

「ん。でも、つかさ泣かせるようなことしたら許さないからね――なに、なんか心当たりあんの?」

「ナイヨーゼンゼンナイヨー」

 夏のあれは婚約解消後で付き合う前だから実質ノーカンだよな……!

 再び鋭さを増した水瀬の視線から目を反らす、野生動物相手だったら食いつかれていたかもしれない危険な動きだった。

「ウソくさいんだけど……」

 しかしちょうど壇上で二人目の参加者が呼ばれたことで、水瀬はカメラを手に取って表情を改めた。

 個人的に天道と葛葉を撮るついでに、運営への協力も請け負ったそうで良さそうなデータがあれば渡すらしい。

『続きましては、エントリーナンバー二番、リウウェイさん』

 ステージ上で中央に立っていたのは艶やかな長い黒髪の女子だった。

「――あ、しのっち、この人だったっけ?」

「そうそう、優勝候補の一人の『ホノカちゃん』さん」

「へー、うわ背たっけーね」

「ナーフはよって感じ」

「脚もなっが、ほんとそれな」

 劉さんは中国は遼東リャオトン半島の大連ダーリェン市からの留学生で、百七十センチ台の長身に切れ長の目をしたエキゾチックなスレンダー美人で、クールな見た目に反した外国訛りの日本語と明るいキャラクターのギャップで親しまれているらしい。

 こうしてみると確かに納得の有力候補だ、くわえてまだ更に大本命が控えてるんだよな……。

 ステージ上に並んだ八人の中で天道が六番、葛葉は七番が割り振られている。

 二人とも堂々とした様子だけど、それは他の参加者だって負けていない。

 みんな普通の――と言うにはちょっとお洒落しゃれな私服姿で、それなのになんと言うか立ってるだけで全員自信があるのが伝わってくる(偏見)。

 あ、いや一人だけちょっと五番の子が落ち着かない感じか。それだけでちょっと悪目立ちするんだから、実にハイレベルな戦いだな……。

「――あのさ、志野。腕組彼氏面したいんならもうちょっとどんと構えたら?」

 僕よりよっぽど彼氏面が似合う落ち着いた声で、撮影に区切りをつけたらしき水瀬が言う。

「そりゃさすがのつかさも絶対勝てるかって言われたらアレだけど。場違いなことしてるわけじゃないんだし、アンタが不安そうにしてたら可哀想じゃん」

「う……」

 実際そうなったら天道はしょうがないわねって許してくれそうだけど、それはがっかりさせるってことに変わりはないしなあ。

「わかった、気をつける」

「ヒューッ、みなっさん男前ー」

「茶化すな、バカ」

 あれ、なんか微妙に僕とかみやんで扱い違う、違くない?

 そんな視線に込めた思いに気づいたのか気づいてないのか、三人目が出てくるのにあわせて水瀬はまたカメラに集中しはじめる。

「んでんで、後方腕組彼氏面のしのっち、天道さんとあと葛葉さんはどうなん?」

「えーっと識者の話を総合すると、劉さんと百瀬ももせさんの二強が強すぎるみたいだから、いいとこいって特別賞かなあって」

「ほーん」

 コンテストの本番ではグランプリと準グランプリの他に特別賞も用意されている。

 六人のファイナリストの半分が表彰されるのは果たして残酷なのか、そうでないのかちょっと判断に悩むところだ。

 そうしてグランプリの最有力とみなされているのが、次の四番に控えている僕らの一学年上の百瀬じぜるさん。

 こちらも百七十超える長身に天道に負けないメリハリの効いたスタイルを持ち、日焼けした肌とグラデーションのかかった金髪が良く似合う、彫りの深い顔立ちのラテン系美人だ。

「『ディーヴァ』かぁ、あの人こそぶっ壊れじゃんね」

「反則だよなあ」

 アメリカのポップスターもかくやというそのド派手な美貌から、一部から歌姫を意味するあだ名で呼ばれる超大学級の存在である。

「去年か来年に出てくれてりゃ助かったのになぁ」

「まぁ就活の絡みで三年が多いみたいだし、仕方ないよ」

「救いはないんですか、しのっち!」

「うーん、参加資格には関係ないんだけど、既婚者なのがどう出るかくらい?」

「え、マジ? 学生結婚してんの?」

「うん、それも高校時代に。つかささんから聞いたけど、同級生の旦那さんのほうが苗字変わったらしくて校内で話題だったって」

「それは草。え、しのっちは? てんどっちになったりしないん?」

「語呂が悪いんで、ないです」

 そうして今思い返すと、天道が「ちなみに伊織くんはどう思う?」って言ったの、もしかしてアレ婿入りについだったのかな。

 学生同士だと大変そうだよね、って答えたら微妙な顔してたもんな……。

「んじゃー、逆に天道さんたちになんか明るい材料はないん?」

「あー……本人とも話したんだけど、やっぱ今年の一年を含めて、うわさを良く知らない層からどれだけ引っ張れるか、かなぁ」

「おお、ガチめの意見だ」

 かみやんが興味深そうに言ったところでどよめきがあがった。

 見ればステージでは百瀬さんが中央に歩み出ている、心なしか撮影班のシャッター音も多い気がするな。水瀬もいつの間にか前まで移動してるし。

 これ見ると本当、仮に天道に悪評が無かったとしても厳しい戦いになっただろうなあ。まぁ僕の恋人の方が可愛いですけど? って顔はしておくけども。

「あー、でも実際今年の春入ってからはそこまで聞かなかった気するし、逆にワンチャンあんじゃね?」

「そうであって欲しいねぇ」

 ガチのマジの事実である天道の悪評は、こういうお祭りに出るのも許せないくらい反感を覚える人もいるだろうし、なんなら運営がそこらに忖度して予選落ちも十二分に考えられる。

 でも誰かが言ってた『ざまぁするならファイナリストに残して希望を持たせてからの方が落差がつく』っていう意見も頷けるんだよな。

 いやその分析はあまりに意地が悪い気もするし、結局負けるのかとは思うけど、それでファイナリストに残れるんならまぁ多少はね?

 どう考えたものかと葛藤している間に百瀬さんの出番は終わって、エントリーナンバー五番の子に移る。

 傍目にも落ち着かない様子だった彼女は、案の定過緊張で出だしからどもってしまい、あたりには居たたまれない空気が漂い出した。

「……この子には悪いけど、つかさにはラッキーかな」

 戻ってきた水瀬が、そう言ったのに僕はかみやんと顔を見合わせる。

「エグいこと言うなあ……」

「やー、きついっす」

「なによ、コンテストで不安そうにしてたら減点されるもんでしょ。その点つかさは元々自信なら過剰なくらいだし、勝手に引き立ててくれるならいいじゃん」

 まぁ実際誰が悪いわけでもないしな、まさか本当に勝手に申し込まれたわけでもないだろうし。

 しかし水瀬にとっても天道はそんな評価なんだな、ちょっとだけ親近感を覚える。

「なによ、その顔」

「いや、別に?」

「しのっち、ニチャってるニチャってる」

 失礼な。

「ところでさ、つかささんの高校時代ってどうだったの?」

「なによ急に」

「や、かみやんと一年の票がカギになりそうだなーって話してたから、高校の後輩とかどうなんだろって」

「それな、天道さんが高校では目立たってなかったってことないっしょ?」

「あー……」

 少し考えたあと水瀬はニヤリという表現が似合う笑みを浮かべた。

「期待できるんじゃない? 一年だとほとんどまた聞きのうわさでしょ。つかさの高校時代の人気を考えれば――」

「おお……!」

「あれ、でもさ、それディーヴァさんも同じなんじゃね? そっちに流れたりしねーのかな」

「あっ」

「おぉ……」

 ダメみたいですね……。

 なかなか聞かないレベルの綺麗な「あっ」で全てを察した。そうだよな、百瀬さんも同じ高校で天道の一つ上なら新入生とも在学期間は被っているはずなんだ。

 仮に天道が学校のアイコンくらいにバリバリの人気者だったとしても、それが本格的に到来したのは百瀬さん卒業後になるんではなかろうか。

『続きましてエントリーナンバー六番、天道つかささん、前へどうぞ――』

 僕らが言葉を失っている間に、天道の出番がやってきた。

 名前を呼ばれて、中央へと歩み出る彼女はステージ映えを考えてか、普段以上に気合いの入ったメイクで、太々しいくらいに堂々とした所作はいつも通りだ。

 やっぱり、ファイナリスト入りまでは心配いらないんじゃないかな(ひいき目)。

『――学部二年、天道つかさです』

 そうしてこれも当たり前と言えば当たり前だけど、スピーカーから聞こえてきたのは僕が初めて聞く類の彼女の声だった。

 水瀬や葛葉と話す時の友達同士との油断した感じや、講義中の真剣で落ち着いた声とも、もちろん僕を振り回してくれる普段の彼女とも違う。

『私が今回、このコンテストに参加した理由は――』

 不特定多数の誰かに向けて「自分」を訴える天道つかさの声は、堂々としていて、まっすぐで、凛々しいとさえ言えるほどの力を感じるものだった。 

 でも水瀬はちょっとシャッター音うるさすぎじゃないかな……。

 しかしそれ今の聴衆たちはあまり気にならないようで、被害妄想かもしれないけど、「あの天道」に対してちょっと構えていたような空気は霧散して、皆お行儀よく天道の言葉に向き合っている。

「――しのっち、これはもらったんじゃね?」

 かみやんの言葉に油断はできないと応えようとしたしたところで、ステージ上の天道と目があった。そんな気がした。

 なので僕は腕組みしたままで深々と頷く。

 それはもう撮影しておきたいくらい見事な彼氏面だったと、かみやんはのちに語った。

『――はい、ありがとうございます。天道つかささんでしたー』

『ありがとうございましたー』


 §


「ふぃぃぃ…………」

 イベントが終わり、人が三々五々に散っていく中で僕は車止めの柵に腰かけて長く息を吐いた。

「いやー、知り合い出てっと変な緊張すんね。俺とか全然関係ないのに」 

「ほんとそれな」

 腕組みしていたせいか肩とか首がなんかもうバキバキだ。

 ストレッチしながらかみやんと雑談して、天道たちの帰りを待つ。

「お、戻ってきた戻ってきた」

「――あれ、葛葉も一緒なのか」

 かみやんの視線の先を追うと、左にご機嫌の水瀬、右にこちらはいつも通りゆるふわの葛葉を引き連れて、威風堂々と天道がこちらに向かってきた。

 いつもよりそれに圧を感じるのはステージでの一面をみたからかなあ。

「おつかれさま」

「ありがとう。どうだった? あ、神谷くんも来てくれてありがとうね」

「アッハイ、いえ、天道さんもおつした」

「格好よかったよ、つかさ」

「水瀬がそれを先に言うのか……まぁ、僕も格好良かったと思うけど」

「もう、ちょっと英梨? 今度は邪魔しないでね」

 横からインターセプトしてきた友人に釘を刺し、腰に手を当てたこの上ないドヤ顔で恋人様が僕の目をまっすぐに見つめて笑う。

「それで、惚れ直してくれた?」

「……この状況でそれを聞くのはズルくない?」

「いいから、どう?」

 互いの友人とあとついでに隣にいるまだ友人らしいゆるふわモンスターが、ジト目してるのに気づいてもらえないだろうか。

「まぁ、まぁ、そうだね……」

「もう、それじゃああとでゆっくりね」

「もーって言いたいのはウチのほうやけんね」

 そうして意味深な言葉で、葛葉の我慢が爆発する。

「ねーねー伊織クン、ウチには? なんかなかと?」

 しかし葛葉の横やりをありがたく思う時が来るとは思わなかった。

 というか本当にあんだけバチバチにやりあって、なおかつ下手すれば雌雄が決するイベントのあとでも一緒って、女子の友情は本当に複雑だな……。

「えーと……あぁ、そうだ、訛ってなかったから、ちゃんと喋れるんだなって」

「ええー、そんだけー? ほかになんかなかと?」

 そう言われても優勝候補二人の迫力と、ついでに普段と違う天道の様子でかなり意識を持っていかれたからなあ。

「もー、つかさちゃんばっか見とったとやろー」

「それはそう」

 当然では? という顔をすると葛葉がむくれた。

「なんでー!? ウチもちゃんと見とってよ!」

「だから伊織くんは私に夢中だって言ってたでしょ」

「いや、志野にそんな義理ないじゃん」

「英梨ちゃんは黙っとって」

「アンタね……!」

「え、しのっちマ? やってんねぇ!」

「いや、僕がじゃなくて、そう言ったのつかささんだから……」

 迂闊な否定の仕方をすると水瀬に刺されそうなので言葉を選ぶけど、関係が複雑すぎて面倒くさいことになってるな……!

「男前なのは天道さんだったかぁ……」

 甘えたい恋人と、彼氏面するその友人と、僕を狙って恋人と競争関係にある恋人の友人? に野次馬気味のかみやんか、整理してもよくわからない集まりだな。

 特に葛葉はどの面下げて天道の隣にいるんだろう。

「なーん、どしたと伊織クン? ウチんことじっと見てー、あ、つかさちゃんと別れる気になった?」

「ハハッ」

 冗談のセンスは確実に類が友を呼んでるなあ。

「そん笑い方腹かくたつとやけど……!」

「親切で言うけど、葛葉はそうやって現実と願望をごっちゃにするのやめといた方がいいよ」

「もー、伊織クンのそういうとこ好かーん」

「だからちょっかい出さない方がいいっていったでしょ」

 そのまま嫌いになってくれて一向にかまわないんだけどな……。

 あと天道はもしかしてやっぱりちょっと塩対応を根に持ってるんだろうか。

 のど元過ぎて熱さを忘れたりしない? と視線を向けると笑顔で誤魔化された。

「ところで英梨、写真はどう? 良いの撮れた?」

「もちろん、ばっちり。レタッチしたのあとでクラウドにあげておくから、気に入ったの使って。真紘もね」

「そう、ありがと」

「あいがとねー、可愛く撮ってくれた?」

「それは素材次第」

「なら大丈夫たい!」

 これは豪語する葛葉と、確認さえしない天道とどっちが自信家なんだろう。

 まぁでも今日のステージで、自信の有無によって印象が大分変わるんだって言うのを実感したしな。

 これくらいでないとファイナリストになんて残れないんだろう。

 いや、そもそもで言えば見た目を競うコンテストに出場しようって段階で、自信か確信がなきゃできないムーブだと思うけど。

「伊織くん」

「――ん、なに?」

 ちょっと思考に沈みかけていた僕の声を、いつものように天道の声が引き戻す。

 婚約以前のようなちょい派手な彼女は、見慣れた笑顔を僕に向ける。

「私、頑張るから、応援してくれる?」

 正直なところを言えば、まったく不安がないわけじゃなかった。

 単純なコンテストの結果だけではなく、こうして目立つことで良くない事態を招くんじゃないかということも含めて。

 ただそれは、当事者である天道も当然に考えるはずだ。

 それが分かったうえで彼女が頑張ると言うなら、そう決めたのなら、応援しようとこちらも当然のように思えた。

「うん、もちろん。応援するし、ちゃんと最後まで見てるから」

 だから水瀬の注文通りにまっすぐに天道の目を見つめて応えた。

 虚勢が混じっていても、今の僕にできる精いっぱいの彼氏面で。

「――ありがとう、心強いわ」

「あ、伊織クン、ウチはウチは? 応援してくれんと?」

「葛葉はつかささんに勝たない範囲で頑張って」

「なんでー!?」

 当たり前なんだよなあ。


 ――なおWeb投票の結果、天道とついでに葛葉の二人は見事ファイナリストに選出された。

 誰よりもどや顔をしていたのが水瀬だったのは、語り継いでいきたいと思う。

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