第2話 防空壕



「どうしたの、フィオリーナ。爆撃が怖いの?」



僕は心配気な彼女に優しく声をかけた。



「・・・いえ。ここにロッシュさんが来ると言う事は何か体調不良では無いか、と」



フィオリーナはなおも心配そうに僕を見ている。

この少女は本当に僕の事を心配してくれている。

そう思うと胸に熱いものがこみ上げてくる。


「僕は何とも無いよ。君の様子を見に来ただけさ」


しかし、フィオリーナは納得してないようだ。


「本当にそれだけですか? ロッシュさんは無理をなさる事があるので」


「うん? 君は僕の事を心配してくれてるのかい」


僕はフィオリーナの頬をムニュムニュした。

とても柔らかいその頬は指に吸い付くような質感と弾力感があった。


「もう!からかわないで下さい」


パンッと僕の手をはたいた彼女は少し頬を染めてソッポを向いた。

そんな態度もとても愛らしい。


「ゴメンゴメン。爆撃されてるから君が怖がってるかな? と思って」


「・・・それはロッシュさんが、あたしの事を心配して下さってるって事ですか?」


僕がうなづくとフィオリーナは真っ赤になってうつむいた。


「ありがとうございます。あたしは大丈夫です・・・」


それは消え入りそうな小さな声だった。

僕は聴こえていたけど、わざと聞き返した。


「え? なんだって?」


そんな僕の態度に怒ったように彼女は少し大きな声を出した。


「だから!あたしは大丈夫だと申し上げているのです!」


それから彼女はあっ、と言う顔になり両手で口を塞いだ。

ここが医療施設区間である事を思い出したように。

僕はフィオリーナがこんなにも感情豊かになった事をとても嬉しく思った。


「・・・もう。何ニヤニヤしてるんですか」


フィオリーナは顔を赤らめながらも非難の眼差しを向けて来た。


「いや、ホントにゴメン。これからアンドロイド製造施設の様子を見に行くんだ」


「製造施設に何かあったんですか?」


フィオリーナはさっきまでとは違い少し硬い表情になった。


「いや、様子を見に行くだけだよ。何しろあそこには」


「超小型核融合炉、ですね」


彼女の表情は硬いままだった。


「あの? あたしも一緒に行った方がよろしいでしょうか」


「いや、君の力を借りる程の事では無いよ。ホントに様子を見に行くだけだ」


なおも何か言いたそうな彼女の白衣のポケットのアラームが鳴った。


「いけない。31番の患者さんの点滴が終わりそうです」


僕はフィオリーナの両肩に優しく手をかけた。


「今の君はここで自分のなすべき事をするんだ。君の力が必要な時にはすぐに呼ぶから」


「はい。ロッシュさんもお気をつけて」


そう言って彼女はペコリと頭を下げると医療ベッドの方へ駆けて行った。


「・・・彼女の力か」


僕はフィオリーナにそんな事はさせたく無かった。

その為にも僕は頑張らないと。

駆けて行く彼女の姿は正に荒れ野に咲くフィオリーナの花のようだった。





僕はアンドロイド製造施設のチェックを終えた。


異常なし。


とりあえず僕はホッとした。

この製造施設は防空壕の中でも特に頑丈な造りになっている。

例え核融合ミサイルの直撃を受けても耐えられるような設計になっている。


それから僕は念のためにもう一度、超小型核融合炉の貯蔵庫のチェックをした。

やはり異常なしだ。

ホッとした僕の目に貯蔵庫の1部の区間の温度が少し上がっている事がパネルに表示されていた。



貯蔵庫の温度が一時的に上がる事は決して珍しい事では無い。



しかし、その時の僕は何か嫌な予感を感じていた。






つづく



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