第113話 追憶 気づけぬ変化
〈綾乃視点〉
『性転換病』の変化が終わってから一週間が経った。愛園先生から言われてた通り、体の変化は終わった。だけど今度はその女の体に苦しめられることになった。
そう、生理だ。まさか女の体になってから二日と経たないうちに生理になるなんて思いもしなかった。愛園先生曰く、これはかなり早いほうらしい。
中には『性転換病』になってから一年経っても生理が来てないって人もいるらしいし。
まぁ正直だからなんだって話だ。別に生理が来たって嬉しくもなんともない。むしろ気分も体調も最悪だった。
愛園先生から聞いてたおかげで心の準備はできてたけど、それでもかなりしんどかった。何より生理まで来てしまったせいで本当にオレの体は女になったんだって、そう痛感させられたから。
だけどそれから数日経って、少しだけいいこともあった。家族以外との面会が許可されたんだ。初期は精神状態が不安定だからってことで認められてなかったけど、数日経過観察して比較的安定してるって認められた。
当然いきなり全員とってわけじゃなくて、まずは仲が良い人からってことだったけど。
そう言われて思い浮かぶのなんて一人だけだ。オレは迷うことなく幼なじみにして親友のハルを呼ぶことにした。
メッセージでやりとりはしてたけど、直接会うのは一週間以上ぶりだ。
「なんか緊張するな。前はほとんど毎日会ってたのに」
幼稚園の頃からの幼なじみ黒井春輝。通称ハル。まぁ呼んでるのはオレだけなんだけど。
でも仕方無いだろ。こんな体で会うことになるなんて思いもしてなかったんだから。
まぁでもきっとハルなら大丈夫だ。ハルは優しい奴だし、何よりオレの親友だ。オレがどんな姿になってたって変わらずに受け入れてくれるはずだ。
そうやって自分のことを言い聞かせて、オレはハルのことを待つ。
それからしばらくして、お昼過ぎになってハルはやって来た。
「ハルッ!」
「リョウ!」
ハルは病室にいるオレの姿を見て驚いたような表情をする。仕方無いとは思う。親友がいきなり女の姿になってたりしたら誰だって驚くだろうしな。オレだって立場が逆だったら同じような表情してたと思う。
「なんだよその顔。あ、もしかして見惚れてるのか?」
「バカか。そんなわけないだろうが」
「ははっ、だよな」
「それにしても話には聞いてたけど……ホントに女になったんだな」
「な、驚きだろ。何の前触れもないんだからオレもびっくりだ。見てくれよこの手」
オレは変化して小さくなった手をハルに見せつける。
ハルと手の大きさを比べればオレの手の変化は一目瞭然だ。なんか一回りくらい小さくなった気がする。いや、さすがにそこまでではないか。でも不思議なもんだ。人間の骨格がここまで変わるんだから。
「おいお前、あんまり気安く……」
「ん? どうしたんだ?」
「……いや、なんでもない。体の調子はどうなんだ?」
「んー、まぁこんな体になったってことくらいは大まか普通? この声もちょっとずつ慣れてきたし。いやまだ無理か。なぁこの声どう思う?」
「どうって。変ではないだろ。綾馬の声ではないと思うけどな。でもいい声だと思うぞ」
「そうなのか? 自分だとよくわかんないんだけど。でもこの声をいい声って言われてもあんまり嬉しくない」
これも自分の声。というか今の自分の声であることは間違いないんだけどさ。まだ自分の物として馴染んでないからな。そのうち慣れるのか?
慣れないような慣れたくないような。
「まぁいっか。それよりさ、学校はどんな感じなんだ? オレのこの体のこととかって」
「一応先生経由でみんなに伝えられてる。みんなかなり驚いてたぞ。もちろん俺も驚いた」
「そりゃ驚くだろうなぁ。というか一番びっくりしてるのオレだからな?」
「だろうな。でもホントに元気そうで良かった。ずっと心配してたんだぞ」
「それは……ごめん。でもこればっかりは自分の意思じゃどうしようもないことだったしなぁ」
「それはそうかもしれないけどな。まさか卒業前にこんなことになるなんてな」
「いやマジでホントに。もうあと二ヶ月ないくらいか? というか卒業式だけじゃなくて入試もあるんだよな。この一週間くらい全然勉強できてねぇしなんとか遅れ取り戻さないと」
『性転換病』に罹ったってだけでも最悪なのに、時期まで最悪だ。中学三年の三学期。卒業だけじゃなく高校入試まで控えてる。問題が盛りだくさんだ。
「……高校はどうするんだ?」
「え? どうするって、普通に行くけど。まぁもちろん受験に合格できたらって話だけどな」
オレはハルと同じ高校を受験するつもりだった。家からもそんなに遠くないし。偏差値的にはちゃんと勉強すれば行けるってレベルの場所だ。
とりあえずこの調子でいけばもうすぐ退院できるって話だし、退院したらハルにも手伝ってもらって勉強しないとな。
「どうしたんだよハル。もしかしてあれか? ちゃんと受験勉強してないのか?」
「そういうわけじゃないけどな。でも……いや、そうだな。ちゃんと勉強しないとな」
「そりゃそうだろ。同じ高校に行くんだからな」
「同じ高校……か」
「もしかして……嫌なのか? オレと同じ高校に行くの」
「そんなわけないだろ! バカなこと言うな」
「だよな! 良かった。オレこんな姿になっちゃったからさ。もしかしたら、なんて思ってたんだけど。でもそうだよな、オレ達親友だもんな!」
「当たり前だろ……お前がどんな姿になったって親友だ」
ハルの言葉に安心してしまったオレは気づけなかった。ハルの様子が少しおかしかったことに。そして何より変わってしまった以上、これまでと同じなんてことはあり得ないってことに。
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