第109話 想定外の再会
〈綾乃視点〉
「あ、零斗そのアイテム取って!」
「任せろ!」
「あ、それズルだろ!」
昼食後、オレは零斗や幸太、由香ちゃんとゲームをしてた。やってるのは大人気の対戦ゲーム『貝乱闘大戦5』だ。
最初はみんなでゲームやるのを渋ってた幸太も由香ちゃんの言葉には逆らえなかったみたいだ。でもなんだかんだで今はもう楽しんでやってるみたいで良かった。というか一番熱中してるまである。
そういえばオレが母さんと昼食の準備をしてる時に零斗と由香ちゃん、何かの話で盛り上がってたけど、何の話をしてたんだろ。あの後から妙に由香ちゃんと仲良しな気がするし。というか気付いたらお互い名前呼びになってるし。幸太や由香ちゃんと仲良くなるのはもちろんいいことだ。それだけ馴染んでくれてるってことだし。なんだけど……。
「いやいや、気にしすぎもダメだよね。そう、もっと余裕を持たないと。束縛の強すぎる彼女は嫌われるってこの間読んだ雑誌にも書いてあったし」
由香ちゃんにまで嫉妬しだしたらいよいよだ。まぁとりあえず後で話は聞かせてもらうけど。
それから何時間か、たまに母さんとか父さんが混じってきたりしながらゲームで盛り上がった後、不意に零斗の布団の用意をしてないことを思い出した。
夜になってからバタバタするのも嫌だし、今のうちにやっとくか。
ゲームをしたい気持ちをグッと堪えて立ち上がる。
「私、ちょっとやることあるからいったん抜けるね」
「やること? 手伝わなくて大丈夫か?」
「うん、大丈夫。すぐに終わらせるから」
せっかく盛り上がってるしまだゲームしてたいけど。今は我慢だ。すぐに終わらせて戻ってこよう。
とりあえず母さんが零斗の寝るための布団はもう用意してくれてるらしいから、それを部屋に運び入れとかないと。ベッド……はそのままいっか。あのベッド一人じゃ動かせないし。どうしても邪魔そうなら父さんに手伝ってもらえばいいや。
ゲームをしてる三人に後ろ髪を引かれながらオレは部屋へと戻る。
オレの部屋はそこまで狭いわけじゃないから、ある程度片付ければ布団くらいは普通に敷ける。邪魔なものを片付けて、零斗の布団が敷けるだけのスペースを確保する。
うん、あっという間に終わったな。そもそもこの部屋にあんまり物置いてないし当然か。
「あ、そうだ荷物」
結局帰ってきてから荷物鞄の中に入れっぱなしだった。今のうちに出しとこう。
着替えとかその他もろもろを出して整理する。とりあえず服は一纏めにして置いといて、化粧品の類いにシャンプーとリンス、それからスマホの充電器。
「あれ? 歯ブラシ……もしかして忘れた?」
荷物を全部ひっくり返しても歯ブラシが見つからない。うん、あれだ。完全に忘れたな。おかしいなー、昨日ちゃんと荷物の確認はしたはずなのに。まぁいっか。無いものはしょうがないし。新しい歯ブラシくらいあるでしょ。
そう思って洗面所の三面鏡の中を探したけれど、見つかったのは新しい歯磨き粉だけ。当然のオレの昔使ってた歯ブラシなんて置いてるわけ無いし。いや、というか置いてあっても使わないけどさ。母さんに聞くしかないか。
「ねぇお母さん、新しい歯ブラシってない?」
「え、歯ブラシ? そうねぇ、洗面所のところに置いてなかった? 新しいのは全部そこに置いてるはずなんだけど」
「それが無かったの。うーん、じゃあやっぱり買いに行くしかないか」
「買って来ましょうか?」
「ううん、大丈夫。歯ブラシくらい自分で買いに行けるって」
「でも」
「いいから。じゃあちょっと行ってくるね。すぐに帰るから」
「あ、ちょっと!」
零斗達にコンビニに行ってくることを伝えてから家を出る。
家からコンビニまでは十分程度。そんなに遠いわけじゃない。スーパーとかドラッグストアはちょっと遠い。
でもあれだな。そのまま飛び出して来ちゃったけど、幸太かお母さんの自転車借してもらえばよかった。自転車だったら五分くらいで着いたのに。今から戻って借りるのは……さすがに面倒か。
いいや、このくらいは耐えるとしよう。もう夕方だから日差しもそこまで強くないし。まだまだ暑いのは暑いんだけど。
「……昔はよく通ったなぁ、この道」
懐かしいって言うのとはちょっと違う感覚だけど。これから行くコンビニだって中学生の頃は帰りによく寄ったりしたもんだ。夏にはアイスとか買ったり、冬には肉まんとか。なんかアイス食べたくなってきた。せっかくコンビニに行くんだしアイスくらい買っていっか。
「ふぅ、やっと着いた」
聞き慣れた入店音と共に涼しさがオレの体を癒やす。この感覚好きなんだけど、体が冷えるのがちょっと嫌なんだよな。
とりあえず当初の目的である歯ブラシを選んでからアイスの売り場へと向かう。
コンビニのアイスってなんか美味しそうに見える。なんでなんだろう。
みんなの分も買って帰った方がいいかな。しまった。それなら何のアイスがいいか聞いとけば良かった。
うーん、まぁ適当でいっか。よっぽど変なアイス買って帰らないかぎりは文句も言われないだろうし。
こういう時ってやっぱり棒アイスだよね。
「よし、これにしよ」
みんなの分のアイスも買ってオレは店を出る。
おぉ、なんか綺麗な夕日だ。ってもうこんな時間なのか。なんだかんだあっという間に一日経ったな。
そういえば姉さんが帰ってくるのは明日なんだよね。今日は修治さんとデートするみたいなこと言ってたし。
大人のデート……なんかちょっとアレな響きだ。
「さてと、思ったより時間かかっちゃったし早く帰らないと」
そう思ってコンビニを出たその瞬間だった。
コンビニの前に居た人を見て、オレは頭が真っ白になった。世界から色が無くなる感覚、ただ異常なほど早鐘を打つ心臓の音だけが響いていた。
「おい春輝。急に立ち止まってどうしたんだよ。ってうわ! めっちゃ可愛い子! おいまさかこの子に一目惚れしたとか言うんじゃないだろうな春輝。春輝? どうしたんだよ」
「リョウ……」
「っ!」
心臓が跳ねる。
だって、その呼び方を、その声を、オレが忘れるはずが無かったから。
もしかしたらって思ってた。だけど……だけど、まさかここで会うことになるなんて。
「ハ……ル……」
オレの手から荷物が滑り落ちる。だけどオレはそれどころじゃなくて。
「あ、おい!!」
焦ったようなハルの声が遠のいていく。
そしてそのままオレは意識を失った。
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