第108話 幸太と由香とブラコン話
〈零斗視点〉
綾乃の部屋で思い出話に興じることしばらく、綾乃から色んな話を聞くことができた。まぁ単純にわかったことと言えば、綾乃の家族が超仲良しってことだな。中学生の頃までは毎年旅行に行ってたらしいしな。少なくとも俺は旅行なんて滅多にしたことないしな。
「でね、その時の旅行で姉さんが修治さんと――」
『ただいまー』
「あ、今の声!」
「誰か帰ってきたのか?」
「幸太だよ。私の弟! 行こう零斗、幸太に零斗のこと紹介したいし」
「あぁ、わかった」
弟……確か中学二年生だったか。話を聞く限りはかなり仲良さげな感じだったけど。
弟が帰ってきたことに気付いた綾乃は嬉しそうに部屋を飛び出していった。俺もその後に続いて部屋を出る。
「幸太!」
「うわぁっ!? ね、姉さん!? もう帰って来てたのかよ!」
「久しぶり幸太! って、毎週電話はしてたけど。あー、久しぶりのリアル幸太だ。本物だ!」
「本物だ! じゃねぇよ! 抱きつくな鬱陶しい!」
おー、これはまた熱烈な抱擁。とはいえ俺はそんなことにいちいち目くじらを立てるほど子供じゃない。子供じゃないから嫉妬したりしないぞ。弟に嫉妬したりするわけがない。ただちょっと距離近すぎないか?
「幸太のケチ。あ、そうだ。幸太にも紹介するね。前にも話したと思うけど彼が零斗だよ」
「零斗? それって確か姉さんの……」
そこでようやく俺の存在に気付いたのか、幸太君は俺の方に目を向ける。若干警戒されてるような気がするのは……まぁ気のせいじゃないんだろうな。
とりあえず黙ったままってわけにもいかないか。
「えっと、とりあえず挨拶させてもらうな。俺は白峰零斗だ。一応……一応じゃないか。綾乃と付き合ってる」
「……ども」
「幸太、ちゃんと挨拶しなさいって。ごめんね零斗。この子緊張してるみたいで。もうわかってると思うけど、この子は幸太。私の弟」
「それはわかったんだけど。じゃあそっちの子は誰なんだ?」
「そっち?」
どうやら綾乃の目には幸太君しか入ってなかったみたいだが、幸太君の後ろには女の子がいた。さっきの綾乃の熱烈な抱擁を見て驚いた顔をしてた。いやまぁそりゃ驚くか。俺も驚いたし。
「あぁ! もしかして由香ちゃん?」
「はい。お久しぶりですね綾乃さん」
「うわー、ホントに久しぶり由香ちゃん。零斗、この子は幸太の幼なじみの竹井由香ちゃん」
「えっと、よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
ずいぶん礼儀正しい子だな。
そう言えば綾乃から聞いたことがあったか。弟といい感じになってる女の子がいるって。この子のことだったのか。学年に一人はいるアイドルレベルの女の子って感じだ。こんな子と幼なじみなんて羨ましいな。
「零斗?」
「いででででっ! な、なんだよ急に! 頬抓るなって!」
「別になんでもないけど。ちょっとモヤっとしただけ」
「なんだよそれ……」
そんな風に俺達が玄関で騒いでいると、リビングの方にいたおばさん達がやって来た。
それからはちょうど良い時間だってことでそのままお昼ご飯をいただくことになったんだけど……。
「零斗と由香ちゃんは座ってて。お客さんなんだから。すぐ用意できるから待っててね」
「え? あ、おい!」
そう言って綾乃はキッチンの方へと行ってしまう。幸太君とおじさんは足りない物があったとかでスーパーに買い物に行ってしまった。
つまり、謎に竹井さんとリビングで二人きりの状況にされたわけなんだが。まぁキッチンとリビングは繋がってるから二人きりってわけでもないんだけどな。
でもどうするべきだ? 黙ったままってわけにもいかないよな。ここは年上として俺から話しかけるべきか?
「すみません。気を遣わせちゃってますよね」
「え、いや、そんなことはないけど」
「誤魔化さなくても大丈夫ですよ。わかりますから。あ、そうだわたしのことは由香でいいですよ。みんなそう呼びますから」
「そうか? じゃあ遠慮なく。俺のことも零斗でいいぞ」
「じゃあ零斗さんで。零斗さんは、さっきのあれどう思いました?」
「あれ?」
「綾乃さんが幸太に抱きついたことです」
「あぁー、いや、別に俺はなんとも思ってないぞ。うん、ホントに」
「ふふっ、嘘ですね。さっき見ましたよ。ちょっとムッとしてましたよね。わたしも同じですから」
「同じって……もしかして」
「わたし、幸太のことが好きなんです。いくら姉とはいえ好きな人に女の人が抱きついてたら心中穏やかじゃないですよ。とはいえわたしはもう慣れてますけど。幸太の家族ってずっと昔からそうですし」
「そうなのか?」
「はい。朱音さんのことは知ってますか?」
「綾乃と一緒に住んでるからな。会ったこともある。そういえば朱音さんも綾乃のこと溺愛してたな」
「そこです。朱音さんは綾乃さんのことを溺愛してて、綾乃さんは幸太のことを溺愛してるんです」
「なんだその複雑な兄妹関係」
「もちろん全員仲良しなんですけどね。朱音さんが幸太のことを邪険に扱うとかそういうことはないです。わたしの小さい頃からずっとそんな感じだったんですよ」
「あー、確かに言われれば。さっきアルバムの写真見せてもらったけどそんな感じだったな」
朱音さんは綾乃と写ってる写真が多かったし、綾乃は幸太君と写ってる写真が多かった気がする。さっきの綾乃のあれは朱音さん譲りだったのか。綾乃には言っても認めない気がするけど。
「幸太はどっちに対しても普通なんです。あ、この場合の普通は普通にシスコンって意味ですよ」
「え? シスコン?」
「だってさっきも口では嫌そうにしてましたけど。どこか嬉しそうでしたし。ツンデレなんです、幸太って」
「えっと、幸太君のこと好きなんだよな?」
「はい」
「その割には辛辣な気がするだが」
「そりゃ辛辣にもなりますよ。いつまで経っても告白してくれないんですから。早く幸太から告白して欲しいんですけど。それともわたしから告白した方がいいんでしょうか? 零斗さんはどうしましたか?」
「それは……一応俺の方から」
「わぁ、いいですね! 羨ましいです。幸太にもそれぐらいして欲しいんです。この間だって二人でデートして、何度もチャンスあったのに言ってくれなくて」
はは、こりゃ幸太君は大変そうだな。付き合うのも時間の問題なのかもしれないけど、この子相手だと付き合ってからも大変そうだ。
「そういえば零斗さんは綾乃さんと同じ学校なんですよね」
「あぁ、そうだけど」
「その、気を悪くしたらごめんなさいなんですけど。驚いたんです。綾乃さんが彼氏ができたって聞いたとき。もし今の綾乃さんと付き合うことがあるなら別の人だと思ってたので」
「それってもしかして……綾乃の幼馴染みのことか?」
「知ってるんですか? そうです。綾乃さんの幼馴染みの春輝さんです。彼と綾乃さん、すごく仲が良かったので」
他の人の口から改めて聞くと、綾乃とその春輝って奴が本当に仲が良かったんだってことがわかる。だけど、だからこそ俺は許せない。なんでそんな奴が綾乃を裏切ったのか。
叶うなら本人直接問いただしたいくらいだ。
「でも、今の綾乃さんを見てるとすごく幸せそうですね。きっと零斗さんに会えて良かったんだと思います」
「……そう言ってくれると嬉しいよ。ちなみに、その春輝ってやつはまだこの辺に?」
「はい。今でもたまに朝すれ違ったりします。挨拶とかはできないですけど。その……この家にいる間は春輝さんの名前はみんなの前で出さない方がいいですよ。幸太も春輝さんに大してはすごく怒ってるみたいなんで。きっと零斗さんのことを警戒してたのもそのせいだと思います」
「そうか……」
「零斗さんなら大丈夫です。すぐに幸太とも仲良くなれますよ」
「だといいけどな」
「わたしも応援してますから! そして幸太と仲良くなって、わたしに告白するように言ってください!」
「そっちが本音かい!」
それからお昼の用意ができるまでの間、俺は由香ちゃんと雑談を続けたのだった。
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