第105話 綾乃の両親
〈零斗視点〉
電車に揺られること二時間弱。俺はようやく綾乃の地元へと到着した。
かなり長い時間電車に揺られてたせいで腰が痛い。こんなに長い時間電車に乗ったのは久しぶりかもな。
綾乃の地元は思ったよりは田舎じゃなかった。って、こういう言い方するのはあんまりよく無いか。でも綾乃から聞いてた印象もっと何も無いかと思ってたんだが。駅前にスーパーはあるし、本屋もあるし、なんだかんだ色々あるなってのが第一印象だ。
まぁそりゃ確かに今住んでる場所と比べたら田舎なのかもしれないけど、それ言い出したらキリがないしな。
「ふぅ、さすがに長時間電車はちょっと疲れるな」
「そうだね。こんなに遠かったっけって気がする。でも後十分くらいで家に着くから」
「よし、そんじゃもう一息頑張るか」
とはいえ、俺の場合は綾乃の実家に着いてからが本番になりそうなんだが。綾乃には大丈夫だとは言ったものの、実のところ相当緊張してる。当たり前だ。だって生まれて初めてできた彼女の家に行くんだぞ。緊張しないわけがない。
もしここで気に入られなかったり、最悪嫌われるようなことがあったら最悪だ。気に入られるとまではいかなくても、受け入れてもらうくらいはしないとな。
「気合い入れていくぞ」
「どうしたの?」
「なんでもない。というか綾乃の方こそどうしたんだよ。さっきからやたらキョロキョロしてるけど。もしかしてあれか? 地元が懐かしいとかか?」
「懐かしいって。いやまぁ、それもあるんだけど。どっちかっていうと……同級生に会ったらどうしようって思って」
「あ……そうか。そうだよな。悪い、無神経だった」
「零斗が悪いわけじゃないから! 気にしないで」
考えてみりゃ当然だ。なんで綾乃がわざわざ今の場所に引っ越してきたのか。緊張し過ぎてそんな当然のことも忘れてた。バカか俺は。
「それに、いつかは帰って来なきゃいけないって思ってたから。良い機会にはなったと思うし」
「無理はするなよ」
「無理なんてしてないってば。それよりお父さんとお母さんが何かしないかってそっちの方が心配だから」
「どんな親なんだよ……」
綾乃が心配する親ってなんかもう逆に気になるんだが。
それから綾乃の実家に着くまでの間、幸運にもというべきか。綾乃の同級生に会うようなことも無く、無事にたどり着くことができた。
綾乃の家は事前に聞いてた通り普通の一軒家って感じだった。うん、取り立てて特徴の無い……まぁ俺の家と似たようなもんか。
「駅に着いた連絡はしといたからもう着くのはわかってるはずなんだけど。お母さんなら出迎えにきてもおかしくないと思ったんだけど」
「家には居るんだろ? とりあえずインターホン鳴らしたらどうだ?」
「そうだね」
綾乃が家のインターホンを鳴らす。でも誰も出てこない。二人で顔を見合わせる。
まさかいないなんてことはないだろうしな。事前に連絡してるってさっき言ってたし。そもそも今日帰るってことも伝えてただろうしな。
「家にはいるはずなんだけど」
そう言って綾乃が玄関の扉を開けようとする。
鍵はかかって無かったのか、そのまま玄関の扉が開く。そのことに驚く間もなく、突然パンッパンッとという音。聞き覚えがある。クラッカーの音だ。
クラッカーから飛び出たテープが玄関を開けた綾乃に降りかかる。
「綾乃、お帰りなさ~~いっ!!」
「お帰り~~~っ!!」
驚く俺達を余所にやたらとハイテンションで出迎えてくれたのは綾乃に似てる女の人と、爽やかな雰囲気の男の人。もしかしてこの人達が綾乃の両親なのか?
「? どうしたの綾乃」
「やっぱりクラッカーよりくす玉の方が良かったんじゃないか?」
「そうなのかしら。ごめんね綾乃。クラッカーよりもくす玉の方が良かったのね」
「~~~~っっ、そこじゃなーーーーーいっっ!! 何してるのお母さん! お父さんまで!」
「何って、せっかく娘が久しぶりに帰ってくるんだもの。しかも彼氏まで連れてくるって言うじゃない。だったら盛大にお祝いしないとって。ねぇパパ」
「あぁ。久しぶりに綾乃に会えるって思ったら嬉しくてな」
「それはその、ありがとうだけど。でも! 出迎えは普通でいいから! あぁもう、だから嫌だったのに。ごめん零斗、こんな親で」
頭を抱えながら言う綾乃。いやまぁ、良いご両親なのは伝わってきたぞ。綾乃が帰ってくるのをここまで喜んでるんだからな。
とりあえず挨拶はしとくか。黙ったままなのも良くない。
緊張を押し殺しながら俺はご両親の前に出る。
「初めまして。綾乃さんとお付き合いさせていただいてる白峰零斗です。よろしくお願いします」
「あらぁ、あなたが零斗君? 朱音の方から話は色々と聞いてるわよ。私は綾乃の母の幸恵よ。こっちは旦那の宗太。よろしくね」
「君が零斗君か。その、いったい綾乃とはどこまで――」
「お父さんっ」
「ごめんね。この人ったら零斗君が来るって聞いてからずっとソワソワしてたのよ。まぁ私もそうなんだけど。いいわぁ、写真で見るよりもずっとカッコいいじゃない。若い頃のお父さんにそっくり」
「ど、どうも」
写真で見るよりって、なんで俺の写真が出回ってるんだ?
いや、たぶん、というか間違い無く朱音さん経由なんだろうけど。
すっげぇ恥ずかしいんだが。
「お母さん、失礼なこと言わないで。お父さんよりも零斗の方がずっとカッコいいから」
「あらあら」
「それはお父さんちょっと傷つくぞ綾乃ぉ!」
なんか面白い人達だな。まだ会ったばっかりだけど良い人達なのが伝わってくる。
「あ、これどうぞ。つまらない物ですけど」
「これはどうもご丁寧に。ささ、いつまでも玄関にいると暑いでしょ。リビングの方はエアコンが効いてるから早く上がりなさいな」
「綾乃の好きなお菓子とかもいっぱい用意してあるぞ」
「ありがと。そういえば幸太は? いないの?」
「ちょっと出かけるって言ってたわよ。すぐに帰ってくるんじゃないかしら」
「そっか。幸太にも零斗のこと紹介したかったんだけど」
「別にそんなに急ぐことないわよ。零斗君も泊まるんでしょう?」
「そうだね。それじゃあ零斗は先にリビングに行ってて。私は部屋に荷物置いてくるから」
「それなら俺も運ぶのを――」
「いいから。今日の零斗はお客さんなんだからそこまでさせられないって」
「ダメよぉ零斗君。綾乃は零斗君を部屋に案内する前に中の確認しときたいの。ね?」
「言わなくていいから! とにかく私もすぐにリビングに行くから。お父さんもお母さんも零斗に変なこと言わないでよね」
そう言って零斗は荷物を持って部屋へと行ってしまった。さっそくご両親と一緒にされても若干困るんだが。まぁ仕方無いか。なるようになるだろ。
「さぁこっちよ零斗君、狭い家でごめんね」
「君には聞きたいことが山のようにあるからな。今日は寝れないと思ってくれよ」
「あはは……」
そして俺は綾乃のご両親に連れられて、リビングへと向かった。
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