第83話 息がぴったりな二人

 綾乃が更紗達と海に行く計画を立てているのとちょうど同じ頃、零斗は彰人やかげりと一緒に居た。中々珍しい組み合わせだと言えるだろう。

 零斗達が居るのはファミレスではなく喫茶店だったのだが。

 だがその雰囲気は和気藹々としたものではなく、彰人は向かいの席に座る零斗とかげりのことを睨み付けながらコーヒーを飲んでいた。


「……どうして君たちがこの店にいる」

「どうしても何も、上丈がこの店に来たからだろ」

「そうそう。彰人がこの喫茶店に来たからでしょ。ねぇ白峰くん」

「だから、どうして君たちがオレの後をついて来たのかって聞いてるんだ! そもそも君たちにこの店に来ることが教えてなかったはずだぞ」

「この店のことは月凍から聞いたんだよ。なぁ」

「うん。前に彰人言ってたでしょ。テストが終わったらこの喫茶店に来てコーヒー飲むのが好きなんだって。だから今日もここにいるかなーって思って」

「前……確かにそんな話をしたこともあったか。迂闊だったな。で、何の用だ。もうテストは終わっただろ」

「そうそう。それだよ。今回上丈にはかなり世話になったからな。その礼をしようと思って」

「私も白峰君と一緒。白峰君との勉強会に何度か混ぜてもらったし」

「礼? そんなのは必要ない。もし礼をしたいというなら今すぐオレを一人にしてくれ」

「まぁ勝手に来るのはどうかと思ったけど。上丈と一回落ち着いて話したかったしな」

「あのさ、そういう堅いこと言ってるからいつまで経っても友達ができないんだよ。わかってる?」

「友達ができないは余計なお世話だ!」

「事実じゃん」

「た、たとえ事実だとしても言っていい事と悪いことがあるだろう!」

「あーやだやだ現実逃避ー。言っとくけどそういう性格から直していかないと一生ぼっちだからね」

「そういう君こそその性悪な部分を直さないといつまで経っても念願の彼氏ができないぞ。確かこの間も三年の先輩に告白して振られたそうだな」

「っ、なんでそれを知って――というかそれこそ余計なお世話だから! 私にはいつかきっと素敵な彼氏ができますー!」

「あははははっ!」


 彰人とかげりのやりとりを見ていた零斗は思わず笑いを漏らす。


「なにがおかしい白峰」

「そうだよ白峰くん。私は彰人にわからせなきゃいけないんだから」

「いや、ごめん。でも二人があんまりにも生徒会室に居るときと一緒だったから。外でもこんな感じなのかと思って。二人は仲が良いんだな」

「「はぁ?! そんなことない!」」

「いや、否定の言葉すら息ぴったりだし。まぁとにかく二人とも落ち着けって。店の中だし、他のお客さんに迷惑になるからな」

「っ、そうだな」

「確かにちょっと調子のりすぎたかも。彰人のせいだけど」

「それはこっちの台詞だ。全く、せっかくのコーヒーが台無しだ」

「上丈はコーヒーだけでいいのか? ケーキとか一緒に頼んだりは?」

「甘い物はあまり得意じゃないからな。それよりも、今回のテストちゃんと解けたのか?」

「あぁ上丈のおかげで問題無しだ。さすがに前回よりは成績落ちてるかもだけどな。でも平均くらいは取れてると思う」

「当然だ。オレが教えたんだからな。月凍は?」

「ん? あたしも問題無し! 彰人って勉強教えるのだけは上手いもんね」

「だけは余計だ。だけは。二人ともちゃんと家に帰ったら自己採点はするんだぞ。それからわからなかった部分、間違えた部分はしっかりと復習をして――って聞いてるのか?」

「すいませーん。このチーズケーキくださーい」

「月凍さんらしいって言えばらしいけど」

「ん? どうしたの二人とも。あ、それよりさ。こっちの苺タルトも食べたいんだけどどっちか頼まない?」

「……はぁ、もういい」


 その後も三人でなんでもない話をし続けていくなかで、気づけば話は夏休みの予定へと移っていた。


「そういえばさ。夏休みって生徒会の活動とかあるの?」

「確か何日かはあったはずだけど。でもそこまで多くは無かったはずだ」

「えー、そうなんだ」

「なんでちょっと残念そうなんだ?」

「だってそれってつまり綾乃さんにしばらく会えないってことでしょ。つまんなーい。白峰君は夏休みの間もいっぱい綾乃さんに会えるかもしれないけどさ」

「あー……ってなんでそうなるんだよ!」

「その反応。もしかして当たりだった? まぁそりゃ付き合ってたら当然だよね。むしろ付き合ってるのに夏休みにデート無しとかあり得ないし」


 デートどころか綾乃の実家に行く話まで出ているのだが、当然そんなことを二人に言えるはずもなく。零斗はかげりの話を黙って聞くことしかできなかった。


「夏のデートいったら王道なところだと海でしょ、夏祭りに、山にキャンプなんてのもありだよねー。で、どこ行くの?」

「どこって言われてもな……」

「なんの計画も立てていないのか?」

「あー、まぁおっしゃる通りで」


 そもそも綾乃がインドア派だと言うこともあって、零斗はそこまで遠出する予定を立ててはいなかった。もちろんデートはするつもりだったが、具体的なことまでは考えていなかった。


「「ナンセンスッ!!」」

「うぉっ、ど、どうしたんだよ二人とも」

「お前。それで綾乃さんをちゃんとエスコートできるのか?」

「わかってない。わかってないよ白峰くん、綾乃さんの彼氏だってことを自覚しないと!」


 一気に二人に詰め寄られて思わずのけぞる零斗。彰人とかげりは綾乃の彼氏であるということがどういうことなのかを切々と説く。それは時間にして実に三十分以上。

 零斗は二人の綾乃への愛の大きさを知ることになった。 


「わかったか白峰」

「わかった? 白峰くん」

「お、おう。わかった。もう嫌ってほどに」

「ともかく綾乃さんとのデートにおいて適当は許されないんだ。オレ達も手伝うからしっかりとしたデートプランを――」

「あ、ちょっと待ってくれ。綾乃から電話だ」


 噂をすれば、ではないが綾乃から電話がかかってきたのを良いことに零斗は二人の話を遮る。その効果は覿面で綾乃からの電話だと言った途端、饒舌だった二人はピタっと話すのを止めた。


『あ、もしもし零斗? 今大丈夫?』

「あぁ大丈夫だ」

『……今女の子一緒に居たりする? なんとなくなんだけど零斗の隣から女の子の気配を感じるというか』

「なんだそれめちゃくちゃ怖いんだが。いやまぁ実際隣に月凍いるけどな。上丈も一緒だ」

『あ、月凍さんと上丈君だったんだ。なら大丈夫だね。えっと、それで本題なんだけど……あ、ちょっと待って――うん、うん、え、二人も? そうだね。わかった。えっと、今私更紗達と一緒に居るんだけどね。そこで海に行こうっていう話になって』

「海?」

『そう。せっかくだからって更紗が。それでもし良かったら零斗も一緒にどうかなって思って。月凍さんと上丈君も誘ってくれる? 更紗が人数が多い方が楽しいからって』

「藤原さんらしいな。俺はもちろん大丈夫だ。二人にも話しとくよ」

『うん、お願い。邪魔してごめんね。それじゃあまた』

「あぁ、また」


 綾乃からの電話が切れる。零斗が綾乃と話している間二人はまるでミュートされたかのように一言も発さなかった。


「綾乃さんはなんて?」

「うん。実はタイムリーと言えばタイムリーな話なんだが。綾乃から海に誘われてな」

「「海!?」」

「んで、もし良かったら二人も一緒にどうかって」

「「行くに決まってるだろう(でしょ)!!」」

「ははっ、そう言うと思った。じゃあ決まりだな」


 綾乃からの誘いを二人が断るはずもなく。彰人とかげりも海に行くことになったのだった。

 

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