第81話 零斗と彰人
放課後、零斗は落ち着いて勉強できる場所を探して生徒会室までやって来ていた。
図書室でも良かったのだが、このテスト前のこの時期は図書室は勉強する人で溢れかえっていて、逆に落ち着けない場所となっていたのだ。
それならば誰もいないはずの生徒会室で、と思っていたのだが。そこにはすでに先客がいた。
「あれ、居たのか上丈」
「オレが居たら何か問題があるのか?」
「別にそんなこと言ってないだろ」
「全く、君といい月凍といい高原といい。オレのことをなんだと思ってるんだ」
「普段あいつらからどんな扱いされてるんだよ……いやまぁ、高原に関してはなんとなくわかるけどな」
基本的に綾乃以外に対する尊敬の念が欠けている蘭は彰人に対しても当たりが強い。零斗に対する当たりの強さは誰よりも強いのだが。
「……綾乃さんは?」
「あぁ、綾乃なら今日は用事があるとかで帰ったぞ。まぁ今の時期は生徒会も基本休みだしな。あいつに何か用事でもあったのか?」
「いや、そういうわけじゃない。それじゃあ君はここに何しに来たんだ? まさかとは思うがテスト勉強か?」
「そのまさかだよ」
「っ!? 君が自発的にテスト勉強を?」
「お前は俺のことをなんだと思ってるんだよ。上丈は……そっちもテスト勉強か」
「オレはテスト勉強じゃない」
「え? でも教科書広げてるだろ」
「これは大学受験のための勉強だ。もう二年生だからな。そこを見据えた勉強を始めるべきだろう……って、何を耳を塞いでるんだ」
「受験とかいう呪いの言葉を耳にいれないようにしてる」
「バカか君は。いやバカだな君は」
「罵倒が直球過ぎる!」
「まぁとにかくオレの勉強はもはや日課のようなものだ。君も勉強するならしていくといい。どうせ図書室は人が多くて落ち着けないからここに来たんだろう」
「よくおわかりで」
「オレも同じだったからな。最終的にここが一番落ち着いて勉強できる場所だと判断した」
「家じゃダメだったのか? あ、わかった。家じゃ勉強できないタイプか」
零斗が学校で勉強しようとしていたのは、家だとゲームや漫画などの誘惑に負けて勉強できないからだ。いつも学校で勉強している彰人も同じなのではないかと思ったのだ。
「君と一緒にするな。オレが家で勉強しないのは家だと弟や妹達がうるさいからだ。まだ幼いからな。遊べ遊べと、ろくに落ち着いて勉強できない。だからここでやってるんだ」
「お前兄貴だったのか。一人っ子だと思ってた」
「よく言われる。余談だったな。君も早く勉強に集中するといい。時間は常に有限だ」
「まぁそうだな」
当初の目的通り、零斗は教科書を広げてテスト勉強を始めた。しかし、調子が良かったのは最初だけで、三十分も経つ頃には教科書と睨めっこを始めてしまった。
(やべぇまったくわからねぇ。一回習った場所のはずなんだけどな。やっぱ普段から復習しとかないとキツいか)
その後も教科書や参考書を参考にしながら勉強を進めるが、その進み具合はまさに亀の歩み。勉強の効率が良いとは決していえなかった。
「……ふぅ。白峰、どこで詰まっているんだ」
「え? 教えてくれるのか?」
「近くでずっとうんうん唸られたらオレも勉強に集中できないからな。時間がもったいない。早くどこがわからないか教えてくれ」
「あぁ。えっと、ここなんだが」
「……なるほど。でもここがわからないということは基礎を疎かにしているということだ。君は成績が良い方だったと記憶していたんだが」
「いやぁ、まぁ普段は綾乃に教えてもらってばっかだったからな。それに今回は……まぁちょっと色々あって」
「はぁ。副会長がそんなことでどうするんだ。いいか、君の成績が悪いと綾乃さんにまで悪評が行くんだからな」
「それはわかってるんだけどな」
「わかっているなら普段から勉強して……いや、この小言は時間の無駄だな。とにかく基礎からだ。しっかり教えるから覚えるように」
「わかった。頼むぜ先生」
「全く、調子の良い奴だ」
彰人は呆れたようにため息を吐きながら、それでも丁寧に零斗に勉強を教えた。綾乃にも勉強を教えたことがあるという彰人の教え方は非常にわかりやすく、それまでの亀の歩みが嘘だったかのようにどんどん勉強が進んでいった。
そして気がつけば下校を促す放送が流れる時間になっていた。
「もうそんな時間だったのか。なんかめちゃくちゃ集中してたな」
綾乃と勉強している時は集中していてもどうしても綾乃の存在を強く感じてしまっていた。若干緊張していたと言っても過言ではない。しかし彰人を相手に緊張する必要はなく、いつも以上に集中して勉強することができたのだ。彰人の教え方が上手かったのも零斗の勉強がはかどった理由の一つだろう。
「って、そういえば良かったのか? 結局ほとんど俺の勉強ばっかで上丈の方は自分の勉強できなかったんじゃ」
「復習も大事なことだ。基礎は土台。土台はしっかりしているにこしたことはない」
「そう言ってくれると助かるけどな。おかげで初日の方のテストはなんとかなりそうだ」
「それなら教えた甲斐もあった。そんなことより早く教科書とノートを片付けろ。下校時間を生徒会役員であるオレ達が破るわけにはいかないからな」
「っと、そうだな」
零斗と一緒に帰る用意をしていた彰人は不意に口を開いた。
「白峰、一つ聞きたいことがある」
「ん? なんだ」
「……君は、綾乃さんと付き合っているのか?」
「っ!? な、なんだよ急に!」
「その反応、間違いなさそうだな」
「あー……いや。まぁそうだな。別に隠してるわけでもないしいいか。そうだ。俺は綾乃と付き合ってる」
「やっぱりそうだったのか」
「上丈?」
「いや、なんでもない」
「ちなみに生徒会で気づいてるのは?」
「高原はまだ気づいてないだろうが。他の奴らは薄々だろうな。高原に気づかれたら面倒なことになるぞ」
「それはわかってるんだけどな。でもわざわざ言う機会もなくてなぁ」
「それはそうだろうが。まさか君が……いや、意外でもないか」
「……上丈、お前もしかして」
「ふん、オレのことはどうだっていいだろう」
それ以上は答えないといわんばかりに生徒会室を出て行く彰人。零斗もその後に続いて部屋を出た。
並んで下駄箱まで向かう最中、彰人が零斗に向かって言った。
「……オレは基本的に毎日この生徒会室で勉強している。またわからないところがあれば教えてやらなくもない」
「いいのか?」
「君の成績が悪いと綾乃さんが悲しむことになるからな」
「上丈……わかった。世話になる」
それ以上零斗は何も言わなかった。
そして、それから期末テストまでの間零斗は度々彰人の世話になりながらテスト勉強をするのだった。
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