第71話 自称ライバルさん、再び

〈綾乃視点〉


 ある朝、オレは零斗と一緒に校門の前に立って挨拶活動をしていた。

 これもまた生徒会の仕事。後ついでに風紀チェックも兼ねてる。風紀委員が機能してればオレ達がやる必要もないんだけど。

 まぁそのあたりは後々の課題ということで。

 適当に挨拶しながら活動をこなしていると、校門の前に止まる一台の車。

 そこから降りてきたのは一人の女学生。小鳥遊さんだった。


「ご機嫌よう桜小路さん、今日は良い天気ですわね」

「おはようございます小鳥遊さん。そうですね。最近はずっと雨続きでしたから。久しぶりに晴れてくれて良かったです」


 うーん、今日も相変わらず眩しい人だ。綺麗な金髪が太陽の光を反射して本人が輝いてるようにすら見える。

 もし今日雨が降ってたとしてもこの人は関係なく輝いてそうだけど。


「……白峰さんもご機嫌よう」

「お、おう。おはよう小鳥遊さん」

「今日も相変わらず桜小路さんと一緒にいますのね。会長と副会長、仲がよろしいようで何よりですわ」

「いやぁ、それほどでもないけどな」

「えっと……」


 な、なんだ零斗と小鳥遊さんの間に流れる妙な空気は。

 零斗はなんか気まずそうな顔してるし、小鳥遊さんは妙に攻撃的だし。

 この二人仲悪かったっけ? そんなことなかったはず……というか関わりがあった記憶がないんだけど。

 まぁでもここはオレが間に入るべきだよな。


「そうですね。私と零斗は仲良しですよ」

「っ!」

「綾乃、お前――」

「? どうかしましたか? 私は本当のことを言っただけなんですけど。それとも零斗は私とは仲良しじゃないって言うんですか?」

「いや、そういうわけじゃないけどな。ないんだけど、この状況でそれを言うのはちょっとまずいっていうか」

「まずい?」

「本当に仲がよろしいようで何よりですわ白峰零斗」

「あー、小鳥遊さん。とりあえずその目は止めてもらえると助かるんだが」

「わたくしは至って普通ですわ」

「えっと……」


 なんかさらに険悪な空気が。なぜだ。

 でも小鳥遊さんが零斗のことを嫌う理由なんてないはずだし。


「そうですわ桜小路さん、彼のことはどうでもいいんです。一つ聞きたいことがあったんですわ」

「聞きたいことですか?」

「えぇ、期末テストのことですわ。もう勉強は始めてますの?」


 期末テストか。まだもうちょっと先だけど、確かにもうそろそろ勉強を始める生徒がいる頃だ。

 生徒会メンバーでも上丈君は生徒会室で勉強してたりするし。って、上丈君はいつもか。

 上丈君は生徒会メンバーの中ではオレに次ぐ二番目の成績だったりする。だからオレもたまにわからないところを聞いたりするし。

 上条君は無愛想に見えて意外と面倒見が良いから、教え方も丁寧だし。


「そうですね。少しずつですが勉強は始めてますよ。今回の期末テストは範囲も広いですから」

「それでこそ桜小路さんですわ。前回の中間テストでは惜しくも敗れてしまいましたが、今度こそ、今度こそは勝たせていただきますわ!」

「えーと……」


 できればオレに勝つとかは関係無く勉強は頑張って欲しいんだけどな。目標があるのは良いことなのかもしれないけど。

 まぁその目標ってオレのことだからなんとも言えないんだけどさ。でも追われる立場っていうのは緊張感もある。生徒会長として情けない姿は見せないように頑張ろうって思うし。


「それじゃあ私も負けないように勉強しないとですね」

「もちろんそうでなくては張り合いがありませんわ。そこで一つご提案なのですけど、よろしければ一緒に――」

「今回も零斗に勉強を手伝ってもらうことにします。彼に勉強を教えると、普段よりも身につく気がしますから」

「……そ、そうですの。それなら大丈夫、そうですわね……」


 あれ? なんか小鳥遊さんの声が震えてるような……気のせいか。


「白峰零斗……どこまでもどこまでもわたくしの邪魔を……」

「めっちゃ睨まれてる。いや耐えろ、耐えるんだ俺」

「???」

「今日の所は引き上げますわ。ですが白峰零斗、油断しないことですわね。わたくしは諦めませんわよ!」


 小鳥遊さんはそう言うと颯爽と校舎の中へと消えていった。


「えっと……なんで最終的に零斗に宣戦布告していったの?」

「はぁ。わからないならわからないでいいけどな。お前、気をつけろよ。たまに無自覚に爆弾投下してる時あるからな」

「そんなことないと思うんだけど。そういうのは零斗の方が……あ、そういえば零斗と小鳥遊さんって仲悪いの? なんか空気がピリピリしてた気がするんだけど」

「別に仲が悪いってわけじゃないんだけどな。どっちかっていうとお前のせい……いや、俺のせいでもあるのか。まぁとにかくそっちは気にしなくて大丈夫だ。まぁ小鳥遊さんみたいな美人に睨まれるのは心臓に悪いけどな。迫力がすごいのなんのって」

「む……」


 確かに小鳥遊さんは美人だけど。それを仮にも彼女であるオレの前で言うか普通。

 それとも零斗は小鳥遊さんみたいな感じの人の方が好きなんだろうか。

 小鳥遊さんは綺麗な金髪なのに対してオレは黒髪だし。個人的にはこの黒髪嫌いじゃないんだけど。でも……。


「ねぇ、零斗は金髪の方が好きなの?」

「は? いやなんでそんな話になるんだよ」

「違うの?」

「俺は……あー、そういうことか。あのな綾乃。お前が何をどう勘違いしたのか知らないけど、俺が好きなのは綾乃だけだからな」

「っ!? な、なに急に。えとえと、そういうの急に言われるのはさすがに恥ずかしいっていうか」


 慌てて周囲を見渡す。幸いまだ登校のピーク時間前だったからか人はほとんどいない。だから聞かれてはないと思うんだけど。


「ちゃんと言わなきゃ理解しないお前が悪い」

「あぅ……」


 頬が熱い。きっと今のオレ顔が赤くなってる。

 ダメだぁ。自分でもチョロいってわかってるけど、素直に好きって言われるとどうしても嬉しくて恥ずかしくて……。いい加減慣れろって話なんだけど。


「わかった。わかったからぁ。それ以上はダメ」

「わかったならいい」

「……でも良かった。もし零斗が金髪好きなんて言ったら」

「言ったら?」

「明日の私は黒髪じゃなくなってたかもね」

「……綾乃ってなんかこう、たまに怖くなること言うよな」

「え、そうかな?」


 そんなに変なこと言ったかな?

 オレとしては当たり前のことしか言ってないんだけど。


「あ、会長! おはようございまーす!」

「はい、おはようございます」


 そんな話をしてるうちにどんどん校門を通る生徒の数が増えてきた。

 さて、それじゃあ気分も良くなったことだし、残り時間頑張ってお仕事しようかな。

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