第69話 生徒会の活動録
これはとある日の生徒会の物語。
愛ヶ咲学園の生徒会には当然のことながら綾乃と零斗、そして蘭以外のメンバーもいる。
そのうちの一人が月凍かげり。彼女は生徒会の書記を担当している。長い髪をポニーテイルにして纏めている。活発さと可愛らしさを併せ持つ少女である。
「こんにちはー! ……って、なんだ。彰人しかいないんだ」
「なんだとはなんだ。オレがいちゃいけないのか?」
「別にそうは言ってないでしょ」
生徒会室にいたのは上丈彰人。生徒会の会計を担当している生徒だった。かげりとは反対に冷たさを感じさせる、どこか近づきがたい印象がある眼鏡をかけた男子だ。
パソコンと向き合いながら雑務をこなしていた彰人はかげりの言葉に眉間にシワを寄せる。
「綾乃さんは? 今日って確か全員集合の日だったよね」
「今日は白峰と一緒に購買の方に寄ってから来るらしい。また黄咲さんが変な商品を仕入れていないかの抜き打ちチェックだそうだ」
「あー、なるほどね。この間も大変だったもんねー。まぁあれは運動部同士のイベント開催したおかげでなんとか処理できたけど」
「あれの買い取り費用だってタダじゃないんだ。処理できないと困る」
「っていうか綾乃さん達来るまで彰人と二人かー」
「なんだその残念そうな言い方は」
「だって彰人つまんないし」
「つまんないとはなんだ。オレは別につまらなくはないぞ」
「へぇ、じゃあなんか面白い話してよ」
「むっ」
面白い話してよというかげりからのキラーパス。本来ならばふざけるなと言い返しているところだったが、彰人のプライドがそれを許さなかった。
そして悩みに悩んだすえに絞り出した話題は――。
「その……最近学校はどうだ?」
「え? ……ぷっ、あはははははははははっ! 何その話題。娘と話すことなくて困ってるお父さんじゃん! 私彰人の娘になった覚えないんだけど!」
「なにがおかしい! オレだってお前みたいな娘を持った覚えはない! お前が面白い話をしろと言ったんだろう」
「学校の話聞くことのどこが面白い話なのよ。クラスは違うけど同じ学校でしょ。まぁあんまりにもおかしすぎてめちゃくちゃ笑わせてもらったけどさ。あー、おもしろ。そんなんだから彰人はモテないんだよ」
「ふん、お前のような奴に好かれたいとも思わないがな。オレの理想はもっと大和撫子然とした女性で、それでいて芯が強い――」
「綾乃さんみたいな人?」
「そう、生徒会長のような――って何を言わせる!」
「あはは、引っかかってやんの。まぁわかるけどね。私も綾乃さんのことめっちゃ好きだし。むしろ綾乃さんのこと嫌いとかいう人って逆張りだとしか思えないもん」
かげりにしても彰人にしても、綾乃に対する尊敬の念は本物だった。彰人に関しては尊敬以上の念を抱いているわけなのだが。
「ねぇねぇ。綾乃さんと白峰君……最近ちょっと怪しいよね」
「…………」
「彰人も気づいてるんでしょ? なんか最近あの二人あからさまに距離が近いし。綾乃さんの白峰君を見る目が熱っぽいことがあるというか。ぶっちゃけるなら付き合ってるよねあの二人」
「……まぁそれはオレも薄々気づいてはいた。気のせいかとも思ったが」
「気のせいだと思いたかった、でしょ」
「気のせいかとも思ったが! まぁ別にそれならそれで別にいいんだ。会長の幸せならそれが一番だからな」
「ふーん、ちょっと意外。オレの方が相応しい、とか言うかと思ったのに」
「彼女が選んだ人だ。オレにとやかく言う権利はない。もちろんそれがオレであるなら一番だったが、そうで無かったとしてもオレから言うことはなにも無い。それだけだ」
「ま、それで納得しなさそうな子が一人いるけどね」
「……あぁ、そうだな」
二人の脳裏に過るのは同じ生徒会の仲間である一人の少女の姿。かげりや彰人と同じように、ともすればそれ以上の気持ちを綾乃に対して抱いている少女。
「あいつが知ったらその時こそどうなるか」
「想像したくもないかも」
そんな話をしていたちょうどその時だった。
誰かの廊下を駆ける音が生徒会室に近づいてくる。
そして凄まじい音と共に部屋の扉が開き、少女が中へ飛び込んで来る。
「お待たせしましたお姉さま!!」
「高原、廊下は走るな。扉を開けるときはゆっくり空けろ。自分自身も生徒会の一員だという自覚を――」
「あれ、お姉さまは?」
「綾乃さんなら白峰君と購買の方に行ってるから少し遅れるって」
「おい! オレの話を聞いてるのか!」
「え、あー、もちろん……キイテマスヨ?」
「目が泳いでるぞ」
「聞いてます! 聞いてましたから! えっと、あれですよね。挨拶は元気よく!」
「違う!!」
「はいはいそこまでねー。蘭ちゃん、早く綾乃さんに会いたい気持ちはわかるけど廊下は走っちゃダメだよー。生徒会の評判はそのまま生徒会長である綾乃さんの評判に繋がるんだから」
「はっ!? そ、そうですね。すみません月凍先輩。そこまで気が回らなくて……」
「わかればいいの。次からは気をつけること」
「はい!」
「オレも同じ事を言っていたはずなんだがな……」
「どうしたんですか上丈先輩。頭抱えちゃって」
「お前――はぁ……なんでもない。もういい」
蘭にはこれ以上何を言ってもしょうがないと思った彰人はため息を吐いてパソコン作業へと戻る。
「どうしたんですか上丈先輩」
「まぁ彼にも色々あるってこと。それより綾乃さん達来るまで紅茶でも飲んでる? 確かお茶菓子も残ってたはずだし」
「あ、いただきます!」
「うん、それじゃあちょっと待ってて。すぐに用意するから」
そう言ってかげりは紅茶と茶菓子の置いてある場所へと向かう。
しかし、この時かげりは気づいていなかった。
そこに恐るべき悪魔が潜んでいたことに。
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