第65話 そして零斗も巻き込まれる

〈零斗視点〉


「おっす零斗。今日も仲良く桜小路さんと一緒に登校か? 羨ましいねぇ。桜小路さんと一緒にいれるなら俺が副会長になりたかったくらい……いや、やっぱそれは無しで。俺が生徒会役員とかありえねぇわ」

「朝からいきなりなんなんだよ。っていうかそこどけよ。俺の席だぞ」


 出会うなり開口一番に嫌みっぽい声で言ってきたのはなぜか俺の席を占領していた司だった。ってかなんでこいつ朝からこんなに不機嫌なんだよ。


「いいじゃねぇかよ席くらい。おれんとこ見て見ろよ!」

「お前の席?」


 言われて司の方の席を見てみれば、そこには楽しそうに話す男女の姿が。

 あー……つまりこれはあれか? そういうことなのか?


「カップルが! おれの席を! 占拠してやがんだよ!!」

「やっぱそういうことなのか。それはわかったけど、それでなんでそんなにキレてんだよ。別に今までだってなかったわけじゃないだろ。俺だって経験あるしな」


 多少むかつきはするけど別にだからってキレるほどじゃない。司だって今まではこんなことでキレたりはしてなかったはずなんだがな。どういう心境の変化だ?


「あぁおれだって別に席を占拠されたくらいで怒らねぇよ。普段ならな。でもよ零斗、もっとよく周りを見てみろよ」

「周り?」


 怪訝に思いながら周囲を見回しても、そこにあるのはいつもの光景。別におかしなところなんて無いしぞ?


「かーっ! ここまで言ってまだ気づかないのかよお前! いいか? 例えばあいつだ、松本!」

「松本がどうかしたのか?」

「あいつ、最近別クラスの奴と付き合い始めただろ」

「あぁ、そうらしいな」

「今一緒にいるのがその件の彼女らしい。別にクラスなのに朝からわざわざご苦労なこった。彼氏と一緒にいるのがそんなに楽しいんですかねー。でもあいつだけじゃねぇ。あいつも、あいつも、あいつも! みんな最近付き合い始めた彼氏や彼女と一緒にいやがる! なんでかわかるか!?」

「いや、わかるわけないだろ。確かにカップルは増えてるのかもしれないけど」

「夏休みだよ夏休み! みんな青春大爆発な夏休みにするために今から恋人作りにいそしんでやがるんだよ! なんて奴らだ。おい生徒会副会長、風紀はどうなってんだ風紀は!」

「俺に言われてもな……」


 まぁ確かにこいつの言う通りカップルは増えてるのかもしれない。言われてみればなんとなくそんな気がしなくもない。それで学校の風紀が乱されてるかって言うと別にそういうわけでもないしな。

 うちは校則で恋愛禁止なんて言ってるわけでもないし。度が過ぎたらこっちも考える必要があるだろうが、今はまだ許容範囲内だろ。


「というかそれで言うならお前だって最近良い感じの子がいるとか言ってなかったか? あの子はどうしたんだよ」

「……たよ」

「え?」

「もうとっくに振られたって言ってんだよ! またいつもの、なんか思ってたのと違った、だよ! 知るかっての! おれはおれだ!」


 しまった。地雷踏んじまったか。今度こそはいけるーとかって言ってたくせに。

 まぁでも不思議とこいつって上手くいかないんだよなぁ。こんだけモテるのに。普通に黙ってたら大丈夫なんだろうけど、こいつの場合欲望がダダ漏れだからな。その辺りをすぐに見抜かれるんだろ。


「ちくしょー、おい零斗。こうなったら今年の夏は彼女いないもん同士、海でナンパ待ちしてる子を探しに行こうぜ!」

「あー……」


 しまったその二だ。そういやこいつにまだ俺と綾乃が付き合ってること言ってないんだよなぁ。なんとなく言わないままいたら言う機会を逸してしまった。別に隠すようなことじゃないから言ってもいいんだろうが。

 でもすくなくとも今じゃないのだけは確かだ。今言ったらそれこそマジで俺が殺されかねない。言うならまたタイミングを見てだなぁ。


「まぁ気が向いたらな」

「言ったぞ。言ったからな。今年の夏こそ清楚で可愛い彼女作って満喫してやろうぜ!」


 清楚で可愛い子は海でナンパ待ちなんてしないんじゃ……いや、余計なことは言うまい。

 やっぱりこいつなんかズレてるんだよなぁ。とりあえず誘いが来たらどう言って断るか考えとかないとなぁ。


「おい白峰、五組の久瀬って奴がお前のこと探してるぞ」

「久瀬?」


 その名前には聞き覚えがあった。というか普通に知ってる奴だけど。

 久瀬って藤原さんの彼氏の名字だったはずだ。

 チラッと入り口の方を見れば、そこには確かに見覚えのある巨漢が。うん、間違いない。藤原さんの彼氏だ。

 でも藤原さんじゃなくて俺に用ってどういうことだ?

 

「あれって藤原さんの彼氏って奴か? 零斗、仲良かったのか?」

「そこまで話したことがあるわけじゃないんだけどな。まぁとにかく行ってくる。戻ってくるまでに席空けとけよ」

「それはおれの席を占拠してる奴らに言ってくれ」


 そんな言葉を背に受けながら俺は久瀬の元へと向かう。

 久瀬はその巨体を隠すようにしながら教室の中を覗いていた。って言っても、元がでかいから全然隠れてないんだけどな。むしろ変に隠れようとしてる分余計に目立ってる感じだ。


「えっと、呼ばれて来たんだけど。呼んでたのって俺のことでいいんだよな?」

「あぁ」


 こうして目の前に立つとやっぱでかいな。こいつと喧嘩なんかしたら俺なんかじゃ逆立ちしても勝てないだろうな。でもなんだ? 前に会った時はもっと堂々とした感じだったんだが。今はなんていうかちょっと萎れてる気がするというか。落ち込んでる?


「正直俺に用ってのがなんなのか皆目見当がつかないんだが。何の用なんだ?」

「その……実はな、更紗の事で話があるんだ。相談と言ってもいいかもしれない」

「? 俺に?」


 なんでその相談を俺に? とか言いたいことは色々あったけど、とりあえず俺は久瀬の話を聞くことにした。

 そのせいで面倒なことに巻き込まれるとも知らずに。

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