第64話 自分より怒ってる人がいると冷静になるよね
〈綾乃視点〉
なんとか更紗の説得に成功し、ようやく更紗から久瀬君との喧嘩の理由について教えてもらうことができた。だけどその理由はオレが予想してたものとはまるで違っていた。
「あたし、いつも透のことを起こしに行ってるの。あいつ朝あんまり強くないから。普通の時間になら起きるんだけど、朝練なんかがあると起きるかどうか怪しいからさ。でも今朝起こしに行った時に見つけちゃったの」
「見つけた?」
「これ!!」
バンッ! と机が割れるんじゃないかってくらいの勢いで叩きつけたのは一冊の本。本屋の袋に入ったそれをいずみと一緒に取り出して見る。
だけど――。
「ちょ、ちょっといずみこの本って!」
「あわわわわわわっ」
その本の表紙を見たオレといずみは驚きのあまり手にもった本を落としてしまう。それどころかいずみは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
本の表紙に描かれていたのは女性の裸体。それも淫らな感じのやつ。まぁつまり端的にいうとエロ本ってことになるんだけど。
「えっと、とりあえずわかったからこれは仕舞うね。というか更紗? こういう本は学園に持って来てほしくないんだけど……風紀違反になっちゃうから。とりあえず今は見なかったことにするね」
当たり前だけどエロ本を持ってくるのは違反だ。まぁそんなこと言っても隠れて持ってくる人はいるんだけど。たまに抜き打ちで持ち物検査なんかはするとほとんどの場合出て来るし。まぁでもそれ以外の時は積極的に探したりはしない。ある程度は大目に見てる部分もある。
とにかく今日が抜き打ち検査の日じゃなくて良かった。こんなことで友達の減点したくないし。本当なら見ちゃった以上はちゃんと処理しないとダメなんだけど。まぁさすがに今回はね。
「だってこんな本、一秒だって透の部屋に置いておきたくなかったし!」
「えっと、その、これってやっぱり……あれ、なんだよね。その男性が夜のお供にするっていう……噂の……」
「いずみも事細かに説明しなくていいから。えっと、つまり更紗は久瀬君がこの本を持ってたことが原因で喧嘩したってこと?」
「そう。だっておかしいでしょ。あたしっていう彼女がいるのに他の女の裸に興味持つなんてそんなのもう浮気じゃん!!」
「えぇ……」
さすがにそれは論理の飛躍が過ぎるんじゃ……。
いやでも今そんなこと言ったら更紗もっと怒りそうだし。まずはなんとか宥める方向でいった方がいいのかな。
でもなんて言えばいいんだこれ。下手な言い方すると逆効果になりそうだし。
とりあえずまずはこの本が本当に久瀬君のものなのか確認しないと。
「この本って本当に久瀬君のなの? 誰かに無理矢理押しつけられたとかじゃなくて」
中学生だった頃、家に置いておけないからって無理矢理エロ本を押しつけるやつとかいたし。久瀬君もその可能性がないわけじゃない。
「それは無いよ。ご丁寧にレシートも一緒に置いてあったから。ほらこれ」
「えっと……昨日の日付。確かにこれがあるってことは久瀬君が買ったのは間違いないんだ」
ちょっと意外と言えば意外……いやでも久瀬君も男の子だし、そういうこともあるか。
「しかも昨日って、用事があるからって言って一緒に帰らなかった日なのに。まさかこんなの買うのが用事だなんて思わないじゃん! コソコソしてるのも男らしくなくてムカつく!」
「それは言えなくても仕方無いと思うけど」
「……ねぇ綾乃。なんか透のこと庇おうとしてる感じだけど、綾乃はこういうことされてもムカつかないの?」
「私は別に……」
ムカつくって言われても。だって男ならある程度仕方のない部分はあるだろうし。
オレも中学生の頃に見たことがないわけじゃないし。そう考えたらむしろ高校生としては健全な部類なんじゃないかと思うんだけど。
「じゃあさ、白峰君がエッチな本見てても平気なんだね」
「え?」
零斗がエロ本を?
想像する。零斗がエロ本を読んでる姿を。エロ本を読んでだらしなく表情を緩ませてヘラヘラしてる姿……。
論外ッッ!! 絶対にあり得ないッッ!!
「ひぅっ、一瞬綾乃ちゃんが般若の表情してるように見えたんだけど、き、気のせいかな」
「あたしも見えたかも……言っといてあれだけど、ちょっと地雷踏んじゃったかもしんない」
もし友達に押しつけられたとかだったとしてもそんなの絶対に許さない。もし零斗の部屋でそんなの見つけたら目を潰しちゃうかもしれない。
「ごめんね更紗。私もようやく更紗の気持ちがわかった。確かにそれは許せないね。うん、絶対に許しちゃいけない。それこそ一生部屋に閉じ込められて監禁されたって文句言えないほどの罪だよ。ううん、むしろそうするべきなんじゃないかな。だってそしたら零斗だって私のことしか考えないようになるよね。久瀬君だって一緒だよ。更紗のことしか考えられないように部屋に閉じ込めちゃえばいいんだよ」
「いや、あの、綾乃? あたし別にそこまでのことは望んでないっていうか。普通にちょっと怒ってただけなんだけど……」
「ふふっ、ふふふ。とりあえずこの本は私が回収しておくね。後でちゃんと処理しておくから」
「それはありがたいんだけど。綾乃ちょっと落ち着いて。ね?」
「大丈夫だよ。私はいたって冷静だから」
「その冷静な感じが逆に怖いんだけど」
「綾乃ちゃんの笑顔が怖いよぉ……」
なぜか少し怯えてる二人を尻目に、オレはエロ本への認識を新たに固めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます