第47話 緊張のファーストコンタクト
〈綾乃視点〉
零斗の妹さん相手に何を話せばいいのかと悩んでるうちに気づけば放課後になってしまった。
結局悩みは解決してないし……いやでも、ここはやっぱり年上としてオレがしっかり話を振るべきかな?
はぁ……別に人と話すのは苦手ってわけじゃないんだけど。零斗の妹だってだけでここまで緊張するなんて。
「でも購買でお茶とお菓子は買って用意したし。甘い物が好きって話だったからとりあえず適当に見繕っといたけど。これで大丈夫かな」
ソワソワする。いつもなら座り心地の良くて落ち着ける椅子なのに、今日に限ってはこの座り心地の良さすら気になってしょうがない。
ここに座ってて偉そうに見えるとかそんなことないよね。
今はちょうど零斗が妹さんを迎えに行ってるところだ。たぶんもうそろそろ来てもおかしくないはず……。
「ふぅ……よし、そろそろちゃんとしないと」
パンッと軽く頬を叩いて気持ちを切り替える。
オレが理想とする生徒会長としての桜小路綾乃へと。
結局オレはこっちを選んだ。これが正しいのかどうかはわからないけど、少しでも良い印象を与えておきたいし。
オレの個人的な部分の話はもっと仲が進んでからでいいだろう。
「うん、これで大丈夫」
気持ちごと生徒会長になってしまえばさっきまでよりもずっと気持ちは落ち着く。
そうして気持ちを切り替えるとほとんど同時、生徒会室の扉がノックされた。
今日は生徒会の仕事も無いから来るのは零斗と妹の菫さんだけのはず。
「どうぞ」
『入るぞ』
『失礼します』
聞き慣れた声と一緒に聞こえたのは知らない女の子の声。
零斗の後ろに隠れるようにして立っている女の子。直接会うのは初めてだけど、一応写真は見たことがある。
でも実際に会うと写真で見るよりもずっと可愛い。
零斗の妹だってことだけど、ホントに全然似てないっていうか。全体的に色素が薄くて、儚くて守ってあげたくなる感じというか。
「綾乃?」
「あぁ、ごめんなさい。初めまして菫さん。私はこの学園の生徒会長をしている桜小路綾乃です」
「……どうも。兄の……零斗の妹の菫です」
? なんだ今の間。というか、なんか今一瞬オレのことを睨んでたような……いや、さすがに気のせいだよな。だってまだ何の話もしてないし。
好かれたり嫌われたり以前の話だと思うし。気にしすぎか?
まぁいいか。とりあえず気を取り直していこう。
「えっと、この場合俺はどうしたらいいんだ? 一緒に居た方がいいのか? それとも席外した方が良いのか?」
「そうですね。それなら零斗も――」
「兄さんは出てって」
「え?」
「兄さんが居たら話しづらいこともあるから。ここから先はわたしと桜小路さんの二人だけにして欲しい」
どうする? という目で零斗がオレの方を見る。
オレはてっきり最初だから零斗も一緒の方が緊張しないし、菫さんとオレの現状わかってる共通の話題なんて零斗のことくらいだと思ったのに。
だから零斗も一緒の方が良いんじゃないかと思ったんだけど……。
いや、でも菫さんがそう言うならそうするべきかな。
迷った末にオレは菫さんの提案を呑むことにした。腹を割って話すのには二人きりの方が良いだろうし。
零斗がいない方が都合の良いこともあるのかもしれない。
「わかりました。それじゃあそうしましょうか」
「じゃあ俺は外に出てるから、何かあったら呼んでくれ。それじゃあ綾乃、菫のこと頼むな」
「えぇわかりました」
そのまま零斗は生徒会室を出て行く。残ったのはオレと菫さんだけだ。
さてと、問題はここからだな。
「あ、どうぞ好きな場所に座ってください。ずっと立ち話もしんどいでしょうから」
「ありがとうございます」
「紅茶は飲めますか? それとも普通のお茶の方が好み?」
「紅茶で大丈夫です。すみません、気を遣わせてしまって」
「気にしないでください。菫さんはいつもお世話になってる零斗の妹さんですから。これくらいは当然です」
「お世話になってる……ですか」
「あ、机の上のお菓子も自由に食べてもらって大丈夫なので」
零斗に菫さんのお茶の好みとかを零斗に聞いておかなかったのは失敗だった。
それがわかってたらもっとスマートに用意できたのに。種類ばっかりに気を取られて、そもそも飲めるかどうかわからないってことに直前になって気づくなんて。
危なかった。でもまぁギリギリセーフってことで。
用意したのはアールグレイのストレートアイスティー。アッサムとかダージリン、セイロンとか色々用意したけど、アールグレイなら万人受けしやすいだろうと思ったからこれにした。
それにしても……うーん、思ってた以上に表情が出ない子だな。
そういう子だっていうのは零斗からも聞いてたけど、これは予想以上だ。いつも以上にしっかりと見る必要がありそうだな。
「あの……わたしの顔に何かついてますか?」
「あ、ごめんなさい。菫さんが零斗から聞いてたよりもずっと可愛いらしい子だったからつい見つめてしまって」
「ありがとうございます。でも、桜小路さんの方が綺麗だと思いますよ」
「ふふ、そう言ってくれるとお世辞でも嬉しいです。あ、私のことは綾乃で構いませんよ」
「え、でも……」
「私も勝手に菫さんって呼んでるわけですし。もしかして嫌でしたか?」
「いえ、大丈夫です。菫で構いません。えっと、それじゃあわたしも綾乃さんって呼ばせてもらいます」
よしよし、まずは名前で呼び合うことで距離を縮める。馴れ馴れしいって思われないかどうかは賭けだったけどまずは第一関門は突破だ。
「あの聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「? えぇ。私に答えれることなら大丈夫ですよ」
「それなら大丈夫です。わたしが聞きたいのは綾乃さんのことですから」
「私の? っ!」
菫さんの目を見て気づく。少しずつ菫さんとの距離を詰めていって仲良くなれればいいなんて呑気なことを考えてたオレに対して、菫さんの目的は最初からきっと一つだけだった。
「兄さんと付き合ってる綾乃さんのことを、わたしに教えてください」
そう言う菫さんの目には、隠しきれない敵意がこもっていた。
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