第46話 抱える想い
〈菫視点〉
兄さんから連絡があった。
オッケーをもらえたらしい。今日の放課後、生徒会室で会うことになった。
桜小路生徒会長。歴代でも稀に見るほど優秀な生徒会長だって噂だ。実際に直接話したことがあるわけじゃないけど、壇上に立つ彼女の姿はすごく様になっていた。たった一歳しか違わないのにすごく大人びて見えた。
正直な話をすれば、生徒会長のことは兄さんや蘭からの話でしか聞いたことはない。だけど兄さんから聞く生徒会長と蘭から聞く生徒会長は全然印象が違うっていうか。
真逆って言うほどじゃないけど。そのせいでいまいちどんな人なのか掴みきれてない。わかってるのはすごく優秀で綺麗な人ってことだけ。
「…………」
どうしよう。昨日はつい勢いで会ってみたいなんて兄さんに言っちゃったけど、いざ会えるとなると何を話せばいいのかわからない。
もともとわたしはそんなに話すのが得意なわけじゃないし。
「おはよう菫……って、どうしたの? なにか考え事?」
「蘭、おはよう。蘭は今日も元気そうだね」
「それはもちろん! だって元気じゃ無い姿なんてお姉さまには見せられないもの!」
「ふふ、ホントに生徒会長のことが好きなんだね」
いつも通り元気な彼女は高原蘭。わたしがこの学園に来て初めてできた友人だった。
彼女は一年生にして生徒会に所属している。どういう経緯でそうなったのかは知らないけど。蘭は生徒会長のことをすごく尊敬してる。
もうなんていうかいっそ異常なくらいに。そこまで慕うほどの何かが生徒会長と蘭の間にはあったのかもしれない。
でも元気いっぱいだった蘭が途端にシュンとして俯く。
「あぁ、でも今日も生徒会がないからお姉さまに会えないんだった。はぁせめて何か仕事があればお姉さまに会えるのに」
「今は仕事が少ない時期なんだっけ」
「そうなの。ないわけじゃないんだけど、わざわざ集まるほどの用事もないから仕事はほとんど持ち帰りで済んじゃうんだよね。そのせいで最近はお姉さま分が全然補充できなくて……それだけが辛い。だから毎日こうしてお姉さまフォルダの写真を眺めて自分のことを癒してるの」
そんなことしてたんだ。それはちょっと引いちゃうかも。口では言わないけど。
でも、ホントに生徒会長のこと好きなんだな……。
そのせいで兄さんのことを嫌ってるみたいだけど。でも、兄さんの生徒会長が付き合ってることは知らないんだよね。
もし知ったら大変なことになるかも。
「って、私のことはどうでもいいんだって。菫は何考えてたの? 私で良ければ相談乗るよ」
この子のこういうところは素直にすごいと思う。困ってる人がいたら決して見捨てず手を差し伸べる。
お節介だって言っちゃえばそれまでだけど、誰にでもできるようなことじゃない。
生徒会長が絡まなければ本当に良い子だ。生徒会長が絡まなければ……うん、それが一番難しいんだけどね。
でも、確かに蘭に相談するのが一番かも。彼女はわたしよりはずっと生徒会長のことに詳しいわけだし。
「……実はね」
「うんうん」
「今日の放課後に生徒会長と……桜小路さんと会うことになったの」
「ふーん。そうなんだ……って、ん? は? えぇっっ!?」
おぉ、なんて百面相。わたしはあんまり表情が顔に出ないって言われるからこんな風に感情豊かに表せるのは少し羨ましい。
「な、ななな、なんでそんなことになったの? まさか菫も生徒会に入るとか?」
「ううん。そういうわけじゃないよ。その……」
あ、兄さんと生徒会長が付き合ってることは言わない方が良いよね。でもそうなるとなんて説明したらいいんだろ。
「兄さんが生徒会でお世話になってるでしょ。だから一度挨拶しておきたいなって思って」
「あ、なんだ。そういうことだったんだ。でも菫がそんなことしなくちゃいけないの?」
「妹だから」
「そっかぁ。で、それはわかったけどそれで何を悩むことがあるの?」
「えっと……桜小路さんと会うのは初めてだから。挨拶するだけだと良くないかなって。でもどんな話をしたらいいかがわからなくて」
「そんなに難しく考えること無いと思うけど。大丈夫だって、お姉さまなら何話しても受け入れてくれるから!」
「そう……かな」
自信満々にそう言う蘭。だけどわたしが本当に気にしてるのはきっとそんなことじゃない。わたしが本当の悩みは別のところにある。
彼女に、桜小路さんに何を言ってしまうのかわからないのが怖い。
今のこの胸の中にある感情をそのままぶつけてしまいそうで。
会ってみたいけど会いたくない。そんな矛盾したような感情が今のわたしの中にはある。
わたしは自分の中にあるこの感情をどう処理して桜小路さんに会えばいいんだろう。
わからない。答えなんかでるわけがない。
だけどそれでもわたしは彼女に会わなきゃいけない。
「菫?」
「あ、ごめん。ちょっとボーッとしちゃった。ありがとね蘭。おかげで少し気持ち楽になったかも」
「そう? なら良かった。って、あぁっ! そうだ、私、先生のところに行かなきゃいけないんだった。ごめんね菫、また後でね!」
「うん」
慌ただしく駆けていく蘭の背中を見送る。
残されたわたしはスマホを開いて壁紙にしている写真を見る。
そこに写るのは数年前のわたしと兄さん。二人で出かけた時に撮った写真。
「兄さん、わたし……どうしたらいいのかな」
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